◆日本代表に対する“手のひら返し”はなぜ起こるのか
日本時間12月5日の深夜から行われた、サッカーワールドカップ日本VSクロアチア戦にて、PK戦の末に敗北し、ベスト16という結果で大会を去ることとなった日本代表。大会前は、優勝経験のあるスペイン・ドイツという強豪国と同組となったことで、「グループリーグ突破は不可能」といったネガティブなコメントがSNS上で多く見られた。
しかし初戦となったドイツ戦に勝利したことで、手のひら返しの大絶賛でお祭り状態に。その後、格下のコスタリカ戦に敗北したことで「戦犯探し」というワードがトレンド入りするなど、批判が相次いだが、再び大金星となるスペイン戦に勝利。グループステージを首位で突破して再び大絶賛の嵐となった。日本代表の試合が行われる度に、SNS上ではわかりやすいほどの「手のひら返し」が続いたことも、今大会を象徴する1つの出来事といえる。
SNSにおける「手のひら返し現象」は、なぜここまで巻き起こってしまうのだろうか。その心理について、精神科医の春日武彦氏に話を伺った。
◆「タイムパフォーマンスの良さ」を実感したいのも要因
このような風潮となってしまう要因について春日氏は、現代の日本人には「タイムパフォーマンスの良さを実感したがっている傾向にある」と語った。
「近頃では、どうやら娯楽に対する人々の姿勢が変わってきたような気がします。たとえば映画を早送りで観る人が増えているようで。表現の細部を味わったり、奥行きを読み取って楽しむような『かったるい』ことはしない。より多くのコンテンツを次々に消費して『タイムパフォーマンスが良い』と実感したほうが安心感を覚えられます。つまり一貫性よりも、派手で分かりやすい断片を重視するわけです。
サッカーについても、ファンの立場としての一貫性を堅持するなんて『かったるい』こと。それよりは、よりドラマチックで盛り上がるほうに与したほうが『タイパが良い』。すなわち、手のひら返しをしながらサッカーという娯楽を消費していく。そのほうが美味しい断片を味わい尽くせる。そういうことなのではないかと思います。特にSNSだと、心理的により無責任かつ付和雷同のほうに傾きやすいので、それも関係しているのでしょう」
◆落胆に対する“手のひら返し”は自分勝手なもの
また春日氏によると、単なる意見が変わる手のひら返しだけでなく、敗北したときに巻き起こる手のひら返しは、少し違う理由も考えられるという。
「勝てると信じていた相手に敗北したからと誹謗中傷してしまうというのは、負けたという落胆を味わわせられたのみならず、『勝ったぜ!』と盛り上がる機会を提供してくれなかったことへの腹立たしい気持ちがあるからでしょう。『つまんねー奴だなあ。お前のせいで渋谷で騒げなくなっちまったじゃないか』と……。本当に勝手なものですよね」
◆他の分野でも手のひら返しは起こっていく
では現代において、こういった風潮は他の分野でも起こり得るのだろうか。春日氏は村上春樹氏を例に挙げ、「手のひら返しの風潮は続いていく」と解説した。
「手のひら返しが巻き起こる風潮は、これからスポーツのみならず、さまざまな分野で蔓延っていくと思います。ノーベル文学賞を獲れない村上春樹を、彼に何の責任もないのにいつしか馬鹿にしはじめるような調子でね」
結果的にPK戦までもつれて敗北を喫したクロアチア戦終了後は、世間的に「感動をありがとう」といった風潮となっているが、「PKが下手くそ」といった、最後まで手のひら返しをやめなかった人も多くいた。
今回、世界的なイベントで改めて浮き彫りとなった、日本人のSNSにおける手のひら返し現象。期待していなかったところから急に盛り上がり始める手のひら返しはともかく、その逆の誹謗中傷が混ざってくる手のひら返しは、選手のメンタル面も考慮して、しっかりと対応していかなければならない。