書名に「9割」を含む、通称「9割本」が書店を席巻している。2021年には「人は話し方が9割」がベストセラーとなり、今やビジネス、健康などあらゆるジャンルから「9割本」が出版されている。
一方で、その数の多さゆえに、ネット上では「結局何が9割なんや」と疑問に思う声も聞かれている。ビジネス数学に詳しい識者は、9割本を手に取る読者に対し「『9割だから正しい』という思想は極めて危険」と警鐘を鳴らす。
「日本で1番売れた本」――。19年9月発売の書籍「人は話し方が9割」(著:永松茂久、すばる舎)の帯には、こんなフレーズが躍っている。同書は人材育成事業などを手がける著者が、人に好かれる会話のコツをまとめたビジネス書だ。
すばる舎の発表によると、発売開始から好調な売れ行きを記録し、22年1月には累計発行部数100万冊を突破。日本出版販売による21年の年間ベストセラー総合1位に選ばれ、さらに22年上半期も同1位に選ばれるなど、空前のヒットを記録した。
永松氏は21年12月にも「聞き上手」になる方法をまとめた「人は聞き方が9割」(すばる舎)を出版。近年は同氏の書籍以外にも、ビジネスや健康、教育、宗教など様々なジャンルから「9割本」が登場している。具体的には、以下のようなものだ。
「9割本ブーム」はいつ頃からはじまったのか。国立国会図書館に所蔵されている、タイトルに「9割」を含む書籍の数を調べると、2000年代前半までは年に1~3本程度だったのが、2000年代後半には年30本以上登場するように。14年には90冊を超える本が世に送り出され、その後は年60~70冊前後で推移している。
05年出版の「人は見た目が9割」(竹内一郎、新潮新書)は累計100万部以上、13年出版の「伝え方が9割」(佐々木圭一、ダイヤモンド社)は世界累計250万部を記録する大ヒット。「人は話し方が9割」を含め、これらの大ヒット本が出た翌年には、タイトルに「9割」を含む本の数が増加する傾向にあった。
一方で、その出版数の多さゆえに、ネット上では「数打てば当たる感がすごい」「こういう決めつけてる本苦手」「結局何が9割なんや…」などと疑問の声も散見されるように。書店で隣り合って置かれた2冊の9割本(人は〇〇が9割)を見て、「人間は18割」だとツッコミを入れる人もいた。
身の回りの数字との向き合い方を記した著書「数字にだまされない本」(日経ビジネス人文庫)で知られるビジネス数学教育家の深沢真太郎氏は22年11月1日、J-CASTニュースの取材に対し、書籍のタイトルに「9割」が頻用される理由を次のように読み解く。
一方で同氏は、データに基づかない「9割」という表現がはらむ問題点も指摘する。
同氏は「厳しいビジネス環境においてはみんなと同じでは競争に勝てない」としつつ、「むしろ『9割本』を疑いながら読み、みんなが『YES』という場面で『NO』の立場をとる方が賢いのではないでしょうか」と投げかけた。