始めるのは簡単。でも辞める人が後を絶たない
【画像】副業を行う人の負担が増える?「インボイス制度」で影響を受ける事業者一覧 コロナ禍による休業が相次ぎ、この数年は収入減となった家庭も多い。少しでも家計の足しにできればと、隙間時間で手軽に稼げる副業が注目されている。2020年の内閣官房の調査結果によると、「副業をしている」と回答した人は、全労働人口6860万人のうち248万人もいる。 エイチ・アイ・エスやソフトバンクといった企業も副業を解禁。在宅ワークが定着し、時間の融通が利くようになった背景ともあわせて、副業に手を出す層が増えたと考えられる。

そんな中、女性に人気な副業は「家事代行」「覆面調査」「Webライター」など。特にWebライターは、自宅にいながら取り組むことができるため注目度が高い。女性に人気の副業の一例・Webライター・家事代行・ベビーシッター・覆面調査・アンケートモニター・ハンドメイド商品の販売・データ入力・アフィリエイト・投資・ポイント活動・講師/家庭教師「副業 女性」などのキーワードで検索すると出てくる副業の一例。自身の得意分野を生かしてお金に換えることができる職種の人気が高い。また、実質割引価格で商品を手に入れることができる覆面調査や、ポイントを商品券や現物に換金することができるアンケートモニターは、直接お金にならなくても節約の目的で利用している人も。 ただし「手軽に稼げる」からこそ思わぬ落とし穴も。丸の内ソレイユ法律事務所の早瀬弁護士は「副業は1回あたりの報酬額がそこまで高くないため、トラブルに見舞われても泣き寝入りしてしまい、表に出てきていないことが多い」と話す。 次に紹介するのは実際の事例だ。ケース1.「家事代行」で依頼者との意思疎通が取れず思わぬクレームが 掃除の家事代行を請け負ったAさん。ぱっと見、きれいな家だったので、どの部屋も均等に掃除した。棚のほこりを落とし、掃除機をかけ、気になるところは拭き掃除。依頼者が不在での作業だったため、報告を出し帰宅。すると、連絡が入り「リビングを中心に掃除してほしかった」と言われて、悪い評価をつけられた。 その後も何度か別の家の掃除の家事代行を請け負ったが「拭き取りが甘い」「髪の毛が落ちていた」など相性の悪い依頼者に当たり、すっかり自信をなくしてしまった。 掃除とひと言でいっても、やり方は人によって違う。専門業者であればマニュアルがあるかもしれないが、必ずしもそれが依頼者の希望に沿っているとも限らない。 ほかにも、依頼者が在宅だったため、掃除に立ち会うような形で「あそこも」「ここも」といった具合に細かな要望を聞いているうち、当初の依頼にあった部屋数をこなすことができなかったなどのトラブルもある。 このような場合は特に、当初の要望から変化してしまっているため落としどころを見つけることが難しい。時間だからと帰ることもできるが、目標を達成していないので全額払うことはできないと言われることも。 また、掃除中に家具や食器などの破損リスクもあり、家事代行を請け負う場合は個人ではなく、業績のある家事代行斡旋業者を通すのが安心だ。ケース2.契約書を交わさずWebライターを請け負い納品後に報酬減額交渉、泣き寝入り 40代女性のBさんがWebライターをしたときのこと。事前に依頼内容と報酬額を取り決めていたにもかかわらず、納品後に報酬額を下げたいと言われた。要求をのまなければ次からの仕事はない、と思い泣く泣くあきらめた。 時給換算でいくと、当初の半分程度。原稿を書くときの調べものの時間や推敲する時間などを考えると、労力やコストが稼ぎと到底見合わない。近所の飲食店のアルバイトに切り替えようかと考えている。 これについて、先の早瀬弁護士は次のように教えてくれた。「継続的な仕事ではない場合、事前に契約書や覚書を結ぶことはなかなかありません。そうなると、お互いの事前確認に頼るしかなくなります。記録をきちんと残していれば交渉の余地はあると思いますが、業界によっても慣習が違い、実現はなかなか難しいでしょう」 早瀬弁護士が「難しい」と言う背景には、発注・受注両者の圧倒的な「力の差」が影響する。「この金額では厳しい」「この納期では難しい」と受け手が事前に言ってしまうと「では、別の人にお願いしようと思います」とそこで交渉は終了。覚書などを作ってほしいと希望を出しても、先方が面倒だと感じてしまえば、あっさり別の人に仕事がいってしまう。 信頼関係が築けるまではマッチングとほぼ同じ感覚で行うことになるので、どうしても受け手の立場が弱くなるのは避けられない。ケース3.家事も育児も境界がない「なんでも屋」。神経すり減らすベビーシッター業務 50代のCさんが始めたのが、ベビーシッター業。 シッターのみの契約でお宅に伺っているのに、皿洗いや床掃除、お風呂掃除やトイレ掃除などもやってと言われることが多々ある。その間、依頼人は家にいて、われ関せずでゴロゴロ。子どもの命を預かっているだけでも緊張感があるのに「なんでも屋」だと勘違いされ、ストレスで身体を壊した。 ベビーシッターが行える業務内容とは、通常、子どもの保育園や習い事などへの送り迎え、ご飯を食べさせる、子どもが食べるものの買い出し、一緒に遊ぶ、入浴時の見守りなど。 ただ、ベビーシッターを請け負っている業者の中には、規定の中で子どもが服を汚したら、シミになりにくいように水洗いしておいたり、食事のあとは食器が洗いやすいようにつけ置きしておくなどもシッターの仕事として定めているところもある。家事と区別する際に微妙なところではあるが、決してシッターが服を洗濯したり洗い物をしたりすべきとは書いていない。 事前にこうした仕事範囲を明示していても、依頼者からその範疇を超えた要望を受けてしまうことも少なくない。自分ひとりで他人の家へ行っていることもあり、判断も難しく断りづらいのが現状だ。 これを防止するべく、多くのベビーシッター業務を請ける企業では、「よくある質問」などに請けられる依頼内容を挙げているほど。そこまでしているということは、つまり、仕事の範疇を超えた依頼がたびたびあるということだ。 また、利用者にドタキャンされて収入が減ったというケースも。「今日は母に見てもらえることになったのでキャンセルにします」……前述のCさんは当日に軽く告げられ、ため息しか出なかったという。 予定の終了時間になっても保護者が帰宅せず、連絡すら取れないという場合もあるそう。シッターの延長が可能な業者は多いが、請けている側からすれば、予期せぬ延長は勘弁してほしい。 消費者庁には副業に関するトラブルの事案が記録されている。悪質なものや似たような事案が多いものは、注意を促すために情報が開示されているため、自分が似た経験をしていないか確認するのもおすすめ。 次に紹介するのは「高額な報酬」をうたい、「手軽そう」と手を出してしまった例。ズバリ、詐欺のケースだ。ケース4.チャットで相談に乗るだけの簡単なアルバイトのはずが… 10代の女性、Dさん。インターネットで「チャットで相談に乗るだけ」のアルバイトを見つけて副業サイトに登録。身分証明書を見せてほしいと相談者の男性に言われたため、保険証と学生証の写真を送った。 後日、相手の男性から相談の報酬以外に20万円送ると言われた。ただし個人情報交換のため有料の手続きが必要と説明され、合計数万円を何度かに分けて送ってしまった。ところが一向にこちらの取り分の振り込みがない。「手続きがうまくいかなかったのでもう7万円送ってくれ」と言われ、騙されたと気づいた。 こんなわかりやすい詐欺に引っかかるなんて……と思いがちだが、当事者であればつい甘い蜜に誘われてしまうこともある。 直接会うリスクなしで、割のいい報酬を手に入れることができる……10代の若者ならばついつい手を出してしまいそうな事例だ。 消費者庁のホームページでは、怪しい副業やアルバイトにおける特徴として、登録料などの名目で「より多くの報酬を得るために必要だから」といった誘い文句で、利用者にお金を支払わせるケースが多いと紹介されている。インターネット広告を安易に信じてはいけない。ケース5.人気が出るよ、とうっかり登録「レンタル彼氏」で詐欺の痛い経験 高収入アルバイトを探して「レンタル彼氏」に登録した20代男性のEさん。サイトに自分の写真を掲載し、サイトの会員からデートの申し込みがあれば対応して報酬を受けるというもの。登録業者から「君は人気が出るよ」と太鼓判を押され、初期費用と月額サイト利用料をクレジットカードで決済。一度、依頼を受けたものの報酬は支払われず、収入を得るどころか月額サイト利用料でマイナスに。いつでも辞められると聞いていたのに、2年契約なので途中解約は不可だと言われてしまった。 こちらも、「利用料」という名目で定額を搾取されているケース。友人や知人に誘われてこうした仕事を始めてしまう事例もあり、詐欺を防ぐのが難しい場合もある。少しでも不審に思ったら、警戒をと早瀬弁護士。 このような場合は、お金を取り返すのは困難だと早瀬弁護士は言う。「お金を払ってしまったあとは、これまで連絡を取っていた業者の電話番号、メールアドレスが通じることはまずありません。そうなると、裁判所を通して請求を行うことになりますが、裁判とまではいかなくても弁護士費用が発生します。いつ終わるかわからない請求完了までの労力などを考えると『数万円だから……』と泣き寝入りする人は多い」 また、騙されたことを恥ずかしいと思い、専門家に相談をしていない人も多くいるという。 副業のメリットは本業の片手間にできるところ。副業で失敗していては手を出す意味がない……リスク回避のために一体何ができるだろう。「利用する副業の会社を事前に検索することです。過去に利用した人の口コミなどから、その会社のチェックをしっかりと行ってください」(早瀬弁護士)お話を伺ったのは…早瀬智洋弁護士弁護士事務所丸の内ソレイユ法律事務所所属。労働トラブル、企業法務を中心に依頼を受けている。<取材・文/オフィス三銃士>
コロナ禍による休業が相次ぎ、この数年は収入減となった家庭も多い。少しでも家計の足しにできればと、隙間時間で手軽に稼げる副業が注目されている。2020年の内閣官房の調査結果によると、「副業をしている」と回答した人は、全労働人口6860万人のうち248万人もいる。
エイチ・アイ・エスやソフトバンクといった企業も副業を解禁。在宅ワークが定着し、時間の融通が利くようになった背景ともあわせて、副業に手を出す層が増えたと考えられる。
そんな中、女性に人気な副業は「家事代行」「覆面調査」「Webライター」など。特にWebライターは、自宅にいながら取り組むことができるため注目度が高い。
・Webライター・家事代行・ベビーシッター・覆面調査・アンケートモニター・ハンドメイド商品の販売・データ入力・アフィリエイト・投資・ポイント活動・講師/家庭教師
「副業 女性」などのキーワードで検索すると出てくる副業の一例。自身の得意分野を生かしてお金に換えることができる職種の人気が高い。また、実質割引価格で商品を手に入れることができる覆面調査や、ポイントを商品券や現物に換金することができるアンケートモニターは、直接お金にならなくても節約の目的で利用している人も。
ただし「手軽に稼げる」からこそ思わぬ落とし穴も。丸の内ソレイユ法律事務所の早瀬弁護士は「副業は1回あたりの報酬額がそこまで高くないため、トラブルに見舞われても泣き寝入りしてしまい、表に出てきていないことが多い」と話す。
次に紹介するのは実際の事例だ。
掃除の家事代行を請け負ったAさん。ぱっと見、きれいな家だったので、どの部屋も均等に掃除した。棚のほこりを落とし、掃除機をかけ、気になるところは拭き掃除。依頼者が不在での作業だったため、報告を出し帰宅。すると、連絡が入り「リビングを中心に掃除してほしかった」と言われて、悪い評価をつけられた。
その後も何度か別の家の掃除の家事代行を請け負ったが「拭き取りが甘い」「髪の毛が落ちていた」など相性の悪い依頼者に当たり、すっかり自信をなくしてしまった。
掃除とひと言でいっても、やり方は人によって違う。専門業者であればマニュアルがあるかもしれないが、必ずしもそれが依頼者の希望に沿っているとも限らない。
ほかにも、依頼者が在宅だったため、掃除に立ち会うような形で「あそこも」「ここも」といった具合に細かな要望を聞いているうち、当初の依頼にあった部屋数をこなすことができなかったなどのトラブルもある。
このような場合は特に、当初の要望から変化してしまっているため落としどころを見つけることが難しい。時間だからと帰ることもできるが、目標を達成していないので全額払うことはできないと言われることも。
また、掃除中に家具や食器などの破損リスクもあり、家事代行を請け負う場合は個人ではなく、業績のある家事代行斡旋業者を通すのが安心だ。
40代女性のBさんがWebライターをしたときのこと。事前に依頼内容と報酬額を取り決めていたにもかかわらず、納品後に報酬額を下げたいと言われた。要求をのまなければ次からの仕事はない、と思い泣く泣くあきらめた。
時給換算でいくと、当初の半分程度。原稿を書くときの調べものの時間や推敲する時間などを考えると、労力やコストが稼ぎと到底見合わない。近所の飲食店のアルバイトに切り替えようかと考えている。
これについて、先の早瀬弁護士は次のように教えてくれた。
「継続的な仕事ではない場合、事前に契約書や覚書を結ぶことはなかなかありません。そうなると、お互いの事前確認に頼るしかなくなります。記録をきちんと残していれば交渉の余地はあると思いますが、業界によっても慣習が違い、実現はなかなか難しいでしょう」
早瀬弁護士が「難しい」と言う背景には、発注・受注両者の圧倒的な「力の差」が影響する。
「この金額では厳しい」「この納期では難しい」と受け手が事前に言ってしまうと「では、別の人にお願いしようと思います」とそこで交渉は終了。覚書などを作ってほしいと希望を出しても、先方が面倒だと感じてしまえば、あっさり別の人に仕事がいってしまう。
信頼関係が築けるまではマッチングとほぼ同じ感覚で行うことになるので、どうしても受け手の立場が弱くなるのは避けられない。
50代のCさんが始めたのが、ベビーシッター業。
シッターのみの契約でお宅に伺っているのに、皿洗いや床掃除、お風呂掃除やトイレ掃除などもやってと言われることが多々ある。その間、依頼人は家にいて、われ関せずでゴロゴロ。子どもの命を預かっているだけでも緊張感があるのに「なんでも屋」だと勘違いされ、ストレスで身体を壊した。
ベビーシッターが行える業務内容とは、通常、子どもの保育園や習い事などへの送り迎え、ご飯を食べさせる、子どもが食べるものの買い出し、一緒に遊ぶ、入浴時の見守りなど。
ただ、ベビーシッターを請け負っている業者の中には、規定の中で子どもが服を汚したら、シミになりにくいように水洗いしておいたり、食事のあとは食器が洗いやすいようにつけ置きしておくなどもシッターの仕事として定めているところもある。家事と区別する際に微妙なところではあるが、決してシッターが服を洗濯したり洗い物をしたりすべきとは書いていない。
事前にこうした仕事範囲を明示していても、依頼者からその範疇を超えた要望を受けてしまうことも少なくない。自分ひとりで他人の家へ行っていることもあり、判断も難しく断りづらいのが現状だ。
これを防止するべく、多くのベビーシッター業務を請ける企業では、「よくある質問」などに請けられる依頼内容を挙げているほど。そこまでしているということは、つまり、仕事の範疇を超えた依頼がたびたびあるということだ。
また、利用者にドタキャンされて収入が減ったというケースも。
「今日は母に見てもらえることになったのでキャンセルにします」……前述のCさんは当日に軽く告げられ、ため息しか出なかったという。
予定の終了時間になっても保護者が帰宅せず、連絡すら取れないという場合もあるそう。シッターの延長が可能な業者は多いが、請けている側からすれば、予期せぬ延長は勘弁してほしい。
消費者庁には副業に関するトラブルの事案が記録されている。悪質なものや似たような事案が多いものは、注意を促すために情報が開示されているため、自分が似た経験をしていないか確認するのもおすすめ。
次に紹介するのは「高額な報酬」をうたい、「手軽そう」と手を出してしまった例。ズバリ、詐欺のケースだ。
10代の女性、Dさん。インターネットで「チャットで相談に乗るだけ」のアルバイトを見つけて副業サイトに登録。身分証明書を見せてほしいと相談者の男性に言われたため、保険証と学生証の写真を送った。
後日、相手の男性から相談の報酬以外に20万円送ると言われた。ただし個人情報交換のため有料の手続きが必要と説明され、合計数万円を何度かに分けて送ってしまった。ところが一向にこちらの取り分の振り込みがない。「手続きがうまくいかなかったのでもう7万円送ってくれ」と言われ、騙されたと気づいた。
こんなわかりやすい詐欺に引っかかるなんて……と思いがちだが、当事者であればつい甘い蜜に誘われてしまうこともある。
直接会うリスクなしで、割のいい報酬を手に入れることができる……10代の若者ならばついつい手を出してしまいそうな事例だ。
消費者庁のホームページでは、怪しい副業やアルバイトにおける特徴として、登録料などの名目で「より多くの報酬を得るために必要だから」といった誘い文句で、利用者にお金を支払わせるケースが多いと紹介されている。インターネット広告を安易に信じてはいけない。
高収入アルバイトを探して「レンタル彼氏」に登録した20代男性のEさん。サイトに自分の写真を掲載し、サイトの会員からデートの申し込みがあれば対応して報酬を受けるというもの。登録業者から「君は人気が出るよ」と太鼓判を押され、初期費用と月額サイト利用料をクレジットカードで決済。一度、依頼を受けたものの報酬は支払われず、収入を得るどころか月額サイト利用料でマイナスに。いつでも辞められると聞いていたのに、2年契約なので途中解約は不可だと言われてしまった。
こちらも、「利用料」という名目で定額を搾取されているケース。友人や知人に誘われてこうした仕事を始めてしまう事例もあり、詐欺を防ぐのが難しい場合もある。少しでも不審に思ったら、警戒をと早瀬弁護士。
このような場合は、お金を取り返すのは困難だと早瀬弁護士は言う。
「お金を払ってしまったあとは、これまで連絡を取っていた業者の電話番号、メールアドレスが通じることはまずありません。そうなると、裁判所を通して請求を行うことになりますが、裁判とまではいかなくても弁護士費用が発生します。いつ終わるかわからない請求完了までの労力などを考えると『数万円だから……』と泣き寝入りする人は多い」
また、騙されたことを恥ずかしいと思い、専門家に相談をしていない人も多くいるという。
副業のメリットは本業の片手間にできるところ。副業で失敗していては手を出す意味がない……リスク回避のために一体何ができるだろう。
「利用する副業の会社を事前に検索することです。過去に利用した人の口コミなどから、その会社のチェックをしっかりと行ってください」(早瀬弁護士)
<取材・文/オフィス三銃士>