一時、認知機能低下予防で、高齢者に「脳トレ」の計算ドリルや漢字ドリルをやらせることが流行っていました。ブームは下火になったようでしたが、コロナ禍のひきこもり生活の中で、人気が復活しているといいます。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)で解説します。
運転を止めると8倍の要介護リスク■「ボケたら免許を返納」なんて簡単に言うななぜか、高齢者の交通事故はセンセーショナルなニュースになります。そうして、免許の自主返納キャンペーンが繰り広げられます。

実際には、交通事故のもっとも多い世代は24歳までの若い世代です。高齢者の事故が目立つようになったのは、高齢者が増えたので仕方ないことですが、死亡事故でも、対人事故(人を撥ね殺す事故)は2割弱で、事故の4割は自爆というか、ものにぶつかって自分が亡くなる事故です。免許を自主返納しても、都会では交通機関が網羅されていて困らないでしょうが、少し地方へ行くと車がないと生活に支障をきたす地域は多いのです。親とは離れて暮らす子どもたちは、ニュースで高齢者の運転は危ないとすりこまれていきます。帰省すれば「おとうさん、免許は返納しなさい」「買い物はヘルパーさんに頼めばいいでしょう」などと言います。ヘルパーさんと簡単に言いますが、まだまだ歩ける人は要支援にもならないかもしれません。自治体の独自サービスも限りがあります。地域のサービスに頼りきれないところがあるのが実情です。車を取り上げられれば、買い物にも病院へも行けない。ゴミ出しにもサークルにも行けない。バスは廃止されているか、あっても日に2本。値段も高い。まだ車の運転能力があるのに、一部の都会で事故を起こした高齢者のために、地方の高齢者の車を取り上げるのは憤慨していいことだと思います。私がいちばん心配するのは、免許を返納したあとの認知機能の衰えです。国立長寿医療研究センターの調査では、運転をやめた高齢者は運転を続けている高齢者に比べ、8倍の要介護リスクがあるとされています。これは当然のことでしょう。まったく世の中は、「自立した年寄りになれ」と言ったり、「運転しないでじっとしていろ」と言ったり、矛盾するメッセージを出してきます。正直なところ、認知症が一定以上重症になれば運転ができなくなります。その早目の対策は必要ですが、年齢で規制をかけることはないと考えています。また、認知症でも軽度であれば十分運転はできます。少々ボケても、ボケなりに気をつけているものです。必要なのは「ボケてきたな。気をつけよう」というあなたの自覚です。免許の自主返納は、返納してから後悔しても遅い。よく考えてみましょう。国も全国一律に返納を迫らないで、過疎地域などの実情も考慮して柔軟に考えてほしいものです。「毎日計算ドリルやって」は子どもの復讐か■脳トレよりも、人と直に会うことが大事一時、認知機能低下予防ということで、高齢者に「脳トレ」の計算ドリルや漢字ドリルをやらせることが流行っていました。私はてっきりこのブームも下火になったかと思いましたが、コロナ禍のひきこもり生活の中で、人気が復活しているという話を聞きました。脳トレはデイサービスでもとり入れているところも多いでしょう。ある女性は、「算数は嫌いだったのに、この年でドリルをやらされる」と嘆きます。それがデイサービスに行きたくない理由になっていました。聞くと、同じテーブルの認知症の女性が脳トレどころか、難しい数独もこなし、得意満面なのだとか。その人に比べると、自分はどうして数字に弱いのだろうと落ち込むそうです。デイサービスに行ってまで、優劣を気にするなんてばかばかしいです。嫌なことをやるのは脳によくありません。計算ドリルが好きな方もいますが、苦手な人も多いのです。本屋さんでも、脳トレドリルが売られています。こんな話も聞きました。娘が家に来ると「計算ドリル」を置いていき、「毎日やるように」と言って帰ります。さぼっていると、娘が来たときに「お母さん、全然やっていないじゃない。これじゃあ、ボケるよ」と怒られるそうです。親に宿題をやれと責められた子どもの復讐にも見えてしまいます。計算ドリルをやっても、その人たちの認知機能が向上するとは限りません。認知症と診断されても、会計士などをやられていた方は数字だけは得意という人もいます。脳というのは複雑で深遠な場所なのです。誰もが同じ脳トレで効果が上がるなんてことはないと理解してほしいと思います。また、計算ドリルを続けてやることができて、そのスピードや得点は上がってもほかのテストの点はまったく上がらないという研究結果が多数出ています。脳トレをすすめられたら、「もう十分ボケているから、好きなことだけやらせてちょうだい」とお断りできたらいいですね。認知機能の低下を防ぐことに有効なのは、人との交流です。そして、自分のことをアウトプットしていくことです。デイサービスは、まさにこの交流とアウトプットの場です。ひとりで本やテレビで楽しめる人も、「このドラマが面白かった」「最近の朝ドラはテンポが速すぎてついていけない」などと周囲の人たちに感想を漏らす。そんなお喋りが楽しめるように工夫してほしいと思います。子どもたちも、親に脳トレドリルをすすめるよりは、一緒にお茶を飲み、お喋りする、季節の行事をする、そして笑い合うということがいちばん認知症の発症や進行を遅らせるということを知ってください。和田 秀樹和田秀樹こころと体のクリニック 院長
■「ボケたら免許を返納」なんて簡単に言うな
なぜか、高齢者の交通事故はセンセーショナルなニュースになります。そうして、免許の自主返納キャンペーンが繰り広げられます。
実際には、交通事故のもっとも多い世代は24歳までの若い世代です。高齢者の事故が目立つようになったのは、高齢者が増えたので仕方ないことですが、死亡事故でも、対人事故(人を撥ね殺す事故)は2割弱で、事故の4割は自爆というか、ものにぶつかって自分が亡くなる事故です。
免許を自主返納しても、都会では交通機関が網羅されていて困らないでしょうが、少し地方へ行くと車がないと生活に支障をきたす地域は多いのです。
親とは離れて暮らす子どもたちは、ニュースで高齢者の運転は危ないとすりこまれていきます。帰省すれば「おとうさん、免許は返納しなさい」「買い物はヘルパーさんに頼めばいいでしょう」などと言います。
ヘルパーさんと簡単に言いますが、まだまだ歩ける人は要支援にもならないかもしれません。自治体の独自サービスも限りがあります。地域のサービスに頼りきれないところがあるのが実情です。
車を取り上げられれば、買い物にも病院へも行けない。ゴミ出しにもサークルにも行けない。バスは廃止されているか、あっても日に2本。値段も高い。
まだ車の運転能力があるのに、一部の都会で事故を起こした高齢者のために、地方の高齢者の車を取り上げるのは憤慨していいことだと思います。
私がいちばん心配するのは、免許を返納したあとの認知機能の衰えです。国立長寿医療研究センターの調査では、運転をやめた高齢者は運転を続けている高齢者に比べ、8倍の要介護リスクがあるとされています。これは当然のことでしょう。
まったく世の中は、「自立した年寄りになれ」と言ったり、「運転しないでじっとしていろ」と言ったり、矛盾するメッセージを出してきます。
正直なところ、認知症が一定以上重症になれば運転ができなくなります。その早目の対策は必要ですが、年齢で規制をかけることはないと考えています。また、認知症でも軽度であれば十分運転はできます。
少々ボケても、ボケなりに気をつけているものです。
必要なのは「ボケてきたな。気をつけよう」というあなたの自覚です。
免許の自主返納は、返納してから後悔しても遅い。よく考えてみましょう。
国も全国一律に返納を迫らないで、過疎地域などの実情も考慮して柔軟に考えてほしいものです。
「毎日計算ドリルやって」は子どもの復讐か■脳トレよりも、人と直に会うことが大事一時、認知機能低下予防ということで、高齢者に「脳トレ」の計算ドリルや漢字ドリルをやらせることが流行っていました。私はてっきりこのブームも下火になったかと思いましたが、コロナ禍のひきこもり生活の中で、人気が復活しているという話を聞きました。脳トレはデイサービスでもとり入れているところも多いでしょう。ある女性は、「算数は嫌いだったのに、この年でドリルをやらされる」と嘆きます。それがデイサービスに行きたくない理由になっていました。聞くと、同じテーブルの認知症の女性が脳トレどころか、難しい数独もこなし、得意満面なのだとか。その人に比べると、自分はどうして数字に弱いのだろうと落ち込むそうです。デイサービスに行ってまで、優劣を気にするなんてばかばかしいです。嫌なことをやるのは脳によくありません。計算ドリルが好きな方もいますが、苦手な人も多いのです。本屋さんでも、脳トレドリルが売られています。こんな話も聞きました。娘が家に来ると「計算ドリル」を置いていき、「毎日やるように」と言って帰ります。さぼっていると、娘が来たときに「お母さん、全然やっていないじゃない。これじゃあ、ボケるよ」と怒られるそうです。親に宿題をやれと責められた子どもの復讐にも見えてしまいます。計算ドリルをやっても、その人たちの認知機能が向上するとは限りません。認知症と診断されても、会計士などをやられていた方は数字だけは得意という人もいます。脳というのは複雑で深遠な場所なのです。誰もが同じ脳トレで効果が上がるなんてことはないと理解してほしいと思います。また、計算ドリルを続けてやることができて、そのスピードや得点は上がってもほかのテストの点はまったく上がらないという研究結果が多数出ています。脳トレをすすめられたら、「もう十分ボケているから、好きなことだけやらせてちょうだい」とお断りできたらいいですね。認知機能の低下を防ぐことに有効なのは、人との交流です。そして、自分のことをアウトプットしていくことです。デイサービスは、まさにこの交流とアウトプットの場です。ひとりで本やテレビで楽しめる人も、「このドラマが面白かった」「最近の朝ドラはテンポが速すぎてついていけない」などと周囲の人たちに感想を漏らす。そんなお喋りが楽しめるように工夫してほしいと思います。子どもたちも、親に脳トレドリルをすすめるよりは、一緒にお茶を飲み、お喋りする、季節の行事をする、そして笑い合うということがいちばん認知症の発症や進行を遅らせるということを知ってください。和田 秀樹和田秀樹こころと体のクリニック 院長
「毎日計算ドリルやって」は子どもの復讐か■脳トレよりも、人と直に会うことが大事一時、認知機能低下予防ということで、高齢者に「脳トレ」の計算ドリルや漢字ドリルをやらせることが流行っていました。私はてっきりこのブームも下火になったかと思いましたが、コロナ禍のひきこもり生活の中で、人気が復活しているという話を聞きました。脳トレはデイサービスでもとり入れているところも多いでしょう。ある女性は、「算数は嫌いだったのに、この年でドリルをやらされる」と嘆きます。それがデイサービスに行きたくない理由になっていました。聞くと、同じテーブルの認知症の女性が脳トレどころか、難しい数独もこなし、得意満面なのだとか。その人に比べると、自分はどうして数字に弱いのだろうと落ち込むそうです。デイサービスに行ってまで、優劣を気にするなんてばかばかしいです。嫌なことをやるのは脳によくありません。計算ドリルが好きな方もいますが、苦手な人も多いのです。本屋さんでも、脳トレドリルが売られています。こんな話も聞きました。娘が家に来ると「計算ドリル」を置いていき、「毎日やるように」と言って帰ります。さぼっていると、娘が来たときに「お母さん、全然やっていないじゃない。これじゃあ、ボケるよ」と怒られるそうです。親に宿題をやれと責められた子どもの復讐にも見えてしまいます。計算ドリルをやっても、その人たちの認知機能が向上するとは限りません。認知症と診断されても、会計士などをやられていた方は数字だけは得意という人もいます。脳というのは複雑で深遠な場所なのです。誰もが同じ脳トレで効果が上がるなんてことはないと理解してほしいと思います。また、計算ドリルを続けてやることができて、そのスピードや得点は上がってもほかのテストの点はまったく上がらないという研究結果が多数出ています。脳トレをすすめられたら、「もう十分ボケているから、好きなことだけやらせてちょうだい」とお断りできたらいいですね。認知機能の低下を防ぐことに有効なのは、人との交流です。そして、自分のことをアウトプットしていくことです。デイサービスは、まさにこの交流とアウトプットの場です。ひとりで本やテレビで楽しめる人も、「このドラマが面白かった」「最近の朝ドラはテンポが速すぎてついていけない」などと周囲の人たちに感想を漏らす。そんなお喋りが楽しめるように工夫してほしいと思います。子どもたちも、親に脳トレドリルをすすめるよりは、一緒にお茶を飲み、お喋りする、季節の行事をする、そして笑い合うということがいちばん認知症の発症や進行を遅らせるということを知ってください。和田 秀樹和田秀樹こころと体のクリニック 院長
■脳トレよりも、人と直に会うことが大事
一時、認知機能低下予防ということで、高齢者に「脳トレ」の計算ドリルや漢字ドリルをやらせることが流行っていました。私はてっきりこのブームも下火になったかと思いましたが、コロナ禍のひきこもり生活の中で、人気が復活しているという話を聞きました。
脳トレはデイサービスでもとり入れているところも多いでしょう。ある女性は、「算数は嫌いだったのに、この年でドリルをやらされる」と嘆きます。それがデイサービスに行きたくない理由になっていました。聞くと、同じテーブルの認知症の女性が脳トレどころか、難しい数独もこなし、得意満面なのだとか。その人に比べると、自分はどうして数字に弱いのだろうと落ち込むそうです。
デイサービスに行ってまで、優劣を気にするなんてばかばかしいです。嫌なことをやるのは脳によくありません。計算ドリルが好きな方もいますが、苦手な人も多いのです。
本屋さんでも、脳トレドリルが売られています。
こんな話も聞きました。娘が家に来ると「計算ドリル」を置いていき、「毎日やるように」と言って帰ります。さぼっていると、娘が来たときに「お母さん、全然やっていないじゃない。これじゃあ、ボケるよ」と怒られるそうです。親に宿題をやれと責められた子どもの復讐にも見えてしまいます。
計算ドリルをやっても、その人たちの認知機能が向上するとは限りません。認知症と診断されても、会計士などをやられていた方は数字だけは得意という人もいます。脳というのは複雑で深遠な場所なのです。誰もが同じ脳トレで効果が上がるなんてことはないと理解してほしいと思います。
また、計算ドリルを続けてやることができて、そのスピードや得点は上がってもほかのテストの点はまったく上がらないという研究結果が多数出ています。
脳トレをすすめられたら、「もう十分ボケているから、好きなことだけやらせてちょうだい」とお断りできたらいいですね。認知機能の低下を防ぐことに有効なのは、人との交流です。そして、自分のことをアウトプットしていくことです。デイサービスは、まさにこの交流とアウトプットの場です。ひとりで本やテレビで楽しめる人も、「このドラマが面白かった」「最近の朝ドラはテンポが速すぎてついていけない」などと周囲の人たちに感想を漏らす。そんなお喋りが楽しめるように工夫してほしいと思います。子どもたちも、親に脳トレドリルをすすめるよりは、一緒にお茶を飲み、お喋りする、季節の行事をする、そして笑い合うということがいちばん認知症の発症や進行を遅らせるということを知ってください。和田 秀樹和田秀樹こころと体のクリニック 院長
脳トレをすすめられたら、「もう十分ボケているから、好きなことだけやらせてちょうだい」とお断りできたらいいですね。
認知機能の低下を防ぐことに有効なのは、人との交流です。そして、自分のことをアウトプットしていくことです。
デイサービスは、まさにこの交流とアウトプットの場です。ひとりで本やテレビで楽しめる人も、「このドラマが面白かった」「最近の朝ドラはテンポが速すぎてついていけない」などと周囲の人たちに感想を漏らす。そんなお喋りが楽しめるように工夫してほしいと思います。
子どもたちも、親に脳トレドリルをすすめるよりは、一緒にお茶を飲み、お喋りする、季節の行事をする、そして笑い合うということがいちばん認知症の発症や進行を遅らせるということを知ってください。
和田 秀樹和田秀樹こころと体のクリニック 院長