デザインが新しくなった新紙幣の発行から3カ月を迎えた10月3日、テレビ朝日系列の情報番組『グッド!モーニング』で、新1万円札が「結婚式のご祝儀に適さない」というマナーが紹介されて話題になっている。
ご存知のように1万円札の顔は「福澤諭吉」から「渋沢栄一」に変更された。渋沢といえば、明治時代を代表する実業家の一人であるが、一方で「愛人を妻と同居させた」など、現代からすれば眉をひそめるようなエピソードもあるとされる。
こうした背景から、パートナーの浮気を想起させるとして、『グッド!モーニング』によると、「新1万円札はご祝儀には適さない」という声が上がっているといい、マナー違反と捉えるような人もいるというのだ。
謎のマナーと言っても過言でなさそうだが、一方で縁起を大切にしたい気持ちもわからなくもない。新郎新婦は「渋沢栄一」の御祝儀を断ったり、「福澤諭吉にして」などと言うことはできるのだろうか。西口竜司弁護士に聞いた。
新札が普通に流通し始めましたね。初めて1万円札をみたときは慣れない感じがしました。渋沢英一翁は、日本を代表する経済人で、大河ドラマ『青天を衝け』の主人公ということもあり、すんなり受け入れたのですが、気にされる方もおられるんですね。
まず、「新1万円札」のご祝儀を断れるかを法的に考えたいと思います。
結婚のご祝儀をお渡しする行為は「贈与契約」にあたります(民法549条)。契約である以上、新郎新婦側は拒否することもできます。もちろん、こんなことで人間関係がこじれるのはよくないので、その伝え方には細心の注意が必要です。
次に「福澤諭吉」を求めることができるかですが、この点については難しい問題ですね。
贈与契約というのは片務契約、つまり、渡すほうだけが義務を負っている契約になります。義務の内容はお互いの合意で決めます。受け取る側が一方的に決めることはできません。したがって、新郎新婦が相手に対して法的に福澤諭吉の1万円札でご祝儀を求めることはできないと思います。あくまでお願いベースになります。お願いされても、銀行のATMに行くと新札が出てくるので頼まれた方も困りますが。
今回の問題は、いずれにしても信頼関係の問題であり、礼儀作法に則って対応をしたいですね。近ごろ、結婚式に出席していないことに気づきました。次回、結婚式に招かれた際は福沢諭吉翁の1万円札を持参しようかなと思っています。縁起というのも大事ですしね。
【取材協力弁護士】西口 竜司(にしぐち・りゅうじ)弁護士大阪府出身。法科大学院1期生。「こんな弁護士がいてもいい」というスローガンのもと、気さくで身近な弁護士をめざし多方面で活躍中。予備校での講師活動や執筆を通じての未来の法律家の育成や一般の方にわかりやすい法律セミナー等を行っている。SASUKE2015本戦にも参戦した。弁護士YouTuberとしても活動を開始している。今年からXリーグにも復帰した。事務所名:神戸マリン綜合法律事務所事務所URL:http://www.kobemarin.com/