新宿歌舞伎町のトー横キッズに大阪ミナミのグリ下キッズ。大都市を中心に、繁華街にたむろする若者たちが社会問題となっている。 不良少年や家出少女たちの問題は今に始まったことではないが、専門家によれば「昔と違って、非行に走る子たちの性質が変わっている」という。
「やんちゃな子、いわゆる“ヤンキー”から、『引きこもりに起因する家庭内暴力や身内による性被害者』などの、“内向的で陰気な子”に変化しています。保護司として、彼らへの接し方に苦慮しているのが現実です」
そう語るのは、愛知県豊橋市にある「廣福禅寺(※臨済宗妙心寺派)」の住職である今泉照玉さん(64歳)だ。今泉さんはこの道20年の保護司。いわゆる“非行少年たちの駆け込み寺”として、農業体験を通じた立ち直り支援を行っている。
現代の少年少女たちが抱える闇とは何なのか。立ち直り支援の最前線を取材した。
◆豊橋のヤンキー少年たちを救うお寺の農業体験
愛知県の豊橋と言えば、格闘家・朝倉未来の地元としても知られた地域だ。朝倉氏自身が“路上の伝説”と呼ばれていたように、とにかくヤンキーが多い土地でもある。
今泉さんが立ち直り支援を始めたのは、今から12年前の2011年。「農業を通じて少年少女の心を豊かにしたい」と、愛知県警と連携する形でスタートした。
「警察と連携して“農業体験を通じた非行少年の立ち直り支援”を始めたのは、全国で豊橋が初めてです。ちょうど私が少年補導委員会の役員になった時期に、制度の運用を始めました。最初は、当時の委員会の理事さんが持っていた土地を借りてやっていたんですよ。ウチのお寺に場所を移したのは、平成30年になってからです」
もともと廣福禅寺では、地域の子供たちと高齢者のふれあいの場として「タケノコ会」を開催していた。今泉さん自身が補導や保護をした未成年たちにも声をかけ、一緒にタケノコを掘ったり調理して食べたりして、彼らとコミュニケーションを取っていたという。
農業体験をお寺に移してからは、季節ごとに野菜を植えて収穫させている。
◆警察と連携して少年たちをサポート
「支援を始めた当初は、私自身が面倒を見ていた子たちと、豊橋警察署の生活安全課に集めていただいた少年たちで行っていました。今は愛知県警の『少年サポートセンター』が中心となり、声かけしてもらっています」
少年サポートセンターとは、各都道府県に設置されている警察の付属機関だ。学校やボランティアなどと連携しながら、非行防止活動や、犯罪被害にあった少年らに対する支援などを行っている。
愛知県内には6ヵ所拠点があり、豊橋市のセンターでは東三河全域を管轄しているという。
「担当地域のなかから、矯正させたい子や、非行がひどくならないうちに人との触れ合いを増やしたい子を連れてきてもらっています。立ち直り支援なので、対象となるのは非行歴が初期段階の少年です。犯罪を未然に防ぎ、少年院や少年鑑別所の入らないように、なんとか食い止めようと活動しています」
◆繁華街に集まる若者たちは、一昔前のヤンキーや不良とは真逆の気質
サポートセンターの警察官や職員が連れてくるのは、家庭内暴力や引きこもり、不登校、親からの性被害などが原因で、非行に走ってしまった若者たちばかり。一昔前のヤンキーや不良とは、気質が真逆なんだとか。
昔の不良たちはコミュニティ内で上下関係を築き、仲間とつるんで暴れることで、家庭内の不満などを発散していた。 トー横などに集まる少年少女たちも、一見グループ行動をしているように見えて内実は違う。筆者が知る範囲の話だが、その場限りの希薄な人間関係に留まっているパターンがほとんどだ。統率が取りにくい烏合の衆という表現が近いかもしれない。
「今の若者たちは個々で動いていて、それぞれの考えを持っています。ところが個人だと臆病なのに、繁華街に集まってひとつの塊になると、手に負えなくなるほどの行動をしてしまう。家や学校に居場所がないからこそ、自分の存在価値を示すために悪いことをしてしまうんですよ」
◆保護活動の限界と新しい「居場所作り」
華街のコミュニティしか自分の居場所がない者たち。本来ならば行政が手を差し伸べて改善すべきだが、「警察にも限界がある」と今泉さんはこぼす。
「非行に走る子たちの気質の変化から、今までのやり方が通用しなくなりました。昔はいわゆる『熱血先生』のような接し方でコミュニケーションを取れていたけど、今は個々人に合わせて対応を変える必要があります。そうなると、警察も人手不足で対応しきれません。僕ら補導員・保護司は警察組織のサポート役なので、警察と同等のことはできない。だから警察にしてもサポートにしても、限界があるのも事実です。警察本部が少年サポートセンターを立ち上げた経緯には、そういった背景も関わっています」
そのような現状のなか、今泉さんが行っている農業立ち直り支援では、「居場所作り」も兼ねているそうだ。
「立ち直り支援のやり方も、昔とは変わってきています。自分の殻に閉じこもっている子が多いので、前みたいに参加者全員でワイワイやるって形ができなくなってしまった。畑に来てもスマホをいじってばかりの子もいます。話し方ひとつ取っても、その子に合わせて考えないといけない。保護司の立場で子供の顔色を伺うのはよくないけど、少しでも叱るような言い方をしてしまうと、次から来なくなってしまいます。こちらが手取り足取りフォローしないと何もできない子も多いですね。だけど、農作業をやってみると彼らの中で何か手ごたえがあるみたいで、苗を植えた子は収穫にも来てくれますよ」
最初は話しかけても返事をしない子であっても、心を開くことができたならば良い方向へ改善されていくのだとか。一方で、犯罪を犯してしまった少年たちへの支援は、手が届かなくなりつつあるという。
「鑑別所や少年院から帰ってきた子たちに対しても、さまざまな矯正教育をしてきました。たとえば、公園などの施設を掃除させるといった社会貢献活動をさせたり。コロナ禍前は毎月必ず一人や二人は参加していましたが、この3年は彼らからほとんど連絡がありません。どうなっているのか心配です……」
◆“お坊さん”として何ができるのか…
少年たちの現状と行く末を憂う今泉さん。「その時代に合った矯正教育活動が必要。立ち直り支援も改革の時期を迎えている」と訴える。保護司としてお坊さんとして、できることは何か。悩み続ける毎日だ。
「僕らがやっていることって、寺子屋の復活なんだと思います。テレビがない時代はお寺が学童代わりになっていて、地域の子供たちの面倒を見ていました。学校が終わったらお寺に来て、お菓子を食べたり宿題をしたり、みんなで遊んだり。お寺が教育の場になっていたんですね。今はそういった活動は難しいかもしれないけど、いろんな地域の非行に走る前の子供たちに対して、お寺が居場所になれるように教育や支援ができればと考えています。子供たちが成長しても、『お寺に行けば和尚さんに何でも話を聞いてもらえる』と思ってもらえるよう、開放的な場にしたいです。その手段として、畑を提供したり、お祭りをしたりして、親しみを持ってもらえるようにアプローチしています」
長年地域を見守ってきたお坊さんだからこそできる活動。課題が山積みの中、今泉さんたちの試行錯誤は続く。
<取材・文/倉本菜生>