8月31日、和泉社長から全社員にメールが送られた。メッセージの中に要注目の箇所がある。
〈拠点ごとで言いますと販売店1店舗あたり500万、サテライト店1店舗あたり250万円のMQ上積みです〉
「MQ上積み」のMQは「マージン・クオリティー」の略称。ビッグモーターでいうところのMQは、簡単に言うと「純利益」のことであり売り上げではない。「MQ上積み」の意味をさらによく知るため、西日本のビッグモーターに最近まで勤めていた元社員A氏に聞いた。
「通常、店舗の経費は大体1ヵ月あたり約2000万円です。和泉社長が言うMQ500万円は、店の店舗費、人件費、光熱費等の全てを差し引いて、500万円の純利益を出せということです。
営業マンが10人いる店の場合、単純に1人250万円のMQを稼いだら、合計でMQ2500万円になります。これがクリアできれば損益を突破し、社長の目標とする500万円の純利益が達成できます。つまり、和泉社長が言うところの『上積み』とは、従来のノルマであるMQ500万円まで利益を戻せ、ということなんです。
7月26日に新体制となり、メディア報道が過熱した8月の第1週(8月1~6日)の6日間、全国のビッグモーターで販売された台数は672台でした。これは不正騒動が発覚する前のおよそ3分の1~4分の1の数字なんです。いろいろなことが明るみになったことによるマイナスイメージもあって、通常のMQですら今は目標達成が非常に困難な状態です」
MQ500万円は「新たなノルマ」でもなんでもなく、従来のノルマを達成できるよう頑張れ、という意味になる。
さらに、9月4日には店長代理や主任クラスに対しても具体的なノルマが書かれたメールが送られていたことが判明した。内容を要約すると、
A)販売台数を月5台、買い取り台数を月3台B)販売台数を月1台、買い取り台数を月10台
と2種類のノルマが課された。販売に力を入れるか、買い取りに力を入れるかは店長代理や主任クラスの社員がそれぞれ選べるが、会社のイメージが大幅にダウンしている中で、決して低くないノルマだ。9月いっぱいはこの数字を満たせなくても“救済措置”として「降格」になることはないが、10月以降は“救済措置”が適用されるかは未定だという。
9月に入って全国の店舗に本部の役員が回っており、その際にさらに以下の内容のメールが送られていることがわかった。要約すると以下のようになる。
9月は1人250万円以上が必要です!私たちは営業マンです。会社に給料を補填してもらっている立場です。その分は確り稼ぎましょう。1円でも多く稼いで損益を考え、自分たちの給料を稼ぎましょう。売り買いしっかりやりましょう。一緒に売りましょう!
東日本のビッグモーターで勤務する現役社員(営業)B氏は悲惨な状況を話す。
「お客さんなんてもうほとんど来ませんよ。来客数が激減しているのはもちろん、大手損保に代理店契約を解除されてしまったので保険契約もできません。ローンもオリコしかありません。
この状況で以前と同じ純利益をあげろとは無理でしょう。ここまでくると、(社員が)自己都合退職を狙ってわざと無理難題を言っているように思えてきますね。不祥事が次々と明るみに出て純利益が下がったことによって、店舗社員に埋め合わせを無理強いしているんです。執行部や本部役員は実情がわかってるんでしょうか?
大手経営コンサルのデロイトトーマツが建て直しに入っているようですが、はっきり言って現場は何も変わっていませんよ。この状況で店舗の純利益を500万円だせ!1円でも利益をあげろ!って。これはもう『死ね!』って言っているも同然でしょう」
8月24日の社長メッセージ動画では、社員へのねぎらいと感謝の言葉をのべた和泉社長であったが…その1週間後には1店舗MQ500万円達成に強い圧力をかけるメールを社員に送っている。さらに本部役員を全国の店舗に出向かせている。取材を受けてくれた現役社員B氏の最後の言葉が印象的だった。
「結局、新体制は旧体制のコピーです、何も変わってないです。上層部は数億円、次長・部長クラスは数千万円の報酬もほとんど変わっていないでしょう。反省なんて微塵もしていません。何がいけなかったのか、何故、会社がこうなったのか?脳が停止してるのかと思います」
9月1日、全社員のもとに本社から「従業員の意識調査」「ハラスメントに関するアンケート調査」が届いたという。一連の不祥事は何が原因だと考えるか、今後、ビッグモーターはどのようにしていくべきか、などの設問があったとのこと。本社にいる上層部が信頼を失っている今、社員がアンケートにまともに答えるかどうかも定かではない。ましてや、こんな質問を社員に聞かなければわからないようでは、ビッグモーターの未来はあまりにも暗い。
取材・文:加藤久美子