「昭和」に浸透したカセットプレーヤーが「令和」の今、人気を集めている。
携帯型プレーヤーとして一世を風靡した初代ウォークマンの中古製品の取引価格は、10年前の約5倍に高騰している。価格を抑えたオリジナル製品の売れ行きも好調で、ターゲット世代の中高年層だけでなく、レトロブームが広がる若者らにも浸透しつつある。新型コロナウイルス禍での巣ごもり需要もあり、手間暇のかかる「アナログ感」あふれるカセットプレーヤーの人気は、今後も続くとの見方も出ている。(植木裕香子)
カセットテープ再生機器は1970年代に本格的に普及しはじめた。ソニーが昭和54年、携帯型カセットプレーヤー「ウォークマン」を発売したことを受け、1980年代に携帯型の利用者が拡大。CDやMD(ミニディスク)の普及などにより一時、下火となったものの、近年はノイズ交じりのアナログ音質のニーズが高まり、人気が復活している。
実際、中古品の売買取引などを実施する「バイセルテクノロジーズ」(東京都新宿区)によると、昭和54年発売のソニーのウォークマンブランド「TPS-L2」は、正常に動くものは5万円以上で取引され、約1万円が相場だった平成24年を大きく上回る。壊れて使えないようなジャンク品でさえ3万円前後となっており、10年前の3千~5千円から跳ね上がっている。
取引価格が高騰している背景について、バイセルテクノロジーズは「カセット専門店の開店や、昨今のレトロ人気などが要因となっているようだ」と話している。
ネットオークションでの取引も活発だ。
オークション情報サイトを手掛ける「オークファン」(東京都品川区)の調査では、令和元年のカセットプレーヤーの平均落札額は、主に5千~7千円にとどまっていたが、今年2~7月は9千円台で推移しているという。
海外から希少製品を取り寄せる動きも目立つ。輸入品の電子商取引サイト「セカイモン」を運営する「BEENOS」グループ(同)の昨年のデータでは、平均購入額は1万2千円だったが、なかには160万円の高額商品も出品されているという。
昨年以降の購入者の平均年齢は47・9歳。所得水準の高い中高年層らの関心が高いとみられる。
ただ、1990年代後半~2010年前後に生まれた「Z世代」ら若年層も含めた幅広い年齢層の支持を集めるカセットプレーヤーも店頭に並ぶ。
セレクトショップを手掛ける「ビームス」(東京都渋谷区)は令和元年から、自社のブランドロゴ「BEAMS RECORDS」と記されたオリジナル商品を2種類販売。価格は4千~5千円台で、累計販売数は約2千台にのぼる。顧客は主に20~40代だが、手頃な値段設定も相まって10代後半の購入者もいる。
同社の広瀬麻美さんは「新型コロナ禍で在宅時間が増える人が多い中で、音楽を聴く際、即効性よりも、カセットをセットして再生ボタン、停止ボタンを押すという一連のアナログな行為がいとおしく、魅力的に映っているようだ」と分析。今年の売り上げが前年比で2割増となる見込みのカセットプレーヤーもあり、「今後もこのトレンドは続くだろう」との見方を示した。