2022年、日本は電力不足が問題となっている。東京電力管内では、3月に電力需給ひっ迫の「警報」、6月には「注意報」が初めて発令され、政府が節電を呼び掛けることもあった。オフィスや商業施設などの協力もあり、大規模停電のようなことは避けられたが、なぜ、電力が足りないのか。経済産業省・資源エネルギー庁への取材を通じて、背景や今後を解説する。予備率と「警報」「注意報」の関係性最初にお伝えしたいのは、冒頭で触れた「電力需給ひっ迫警報・注意報」についてだ。これらは電力不足による大規模停電などを防ぐことを目的に、資源エネルギー庁が発令する。

発令の基準は電力の供給力の余裕を数値化した「予備率」で、5%を下回るときに注意報が、3%を下回るときに警報が発令される。大規模停電を招かないためには最低でも3%を確保しなければならないということから、3月は危なかったことになる。これだと、電力を使いすぎているの?と思うかもしれないが、そうともいいきれない。国の総合エネルギー統計によると、日本の電力最終消費(実際に消費された電力)は、2010年度の1兆354億kWhから、2020年度には9135億kWhにまで減少した。これだけで結論は出せないが、電力をむやみに使ったようにも思えない。※kWh=使用電力×時間の計算式で導き出されるそれではなぜ、2022年は3月や6月にひっ迫することになったのか。実は発電所の事情も絡んでくる。季節外れの気候と発電所の補修点検が重なった資源エネルギー庁によると、3月や6月の電力不足は(1)季節外れの寒さや暑さにより需要が大幅に増加したこと、(2)発電所の補修点検の期間と重なったこと。このような要因が関係しているという。どういうことかというと、2022年は3月が真冬並みの寒さ、6月は異常な猛暑となり、冷暖房などにより電力需要が増加した。例えば、6月は東京電力管内の最大需要電力が5200万kW以上にのぼっているが、ここ数年の同時期と比べると最も高い数値だったという。一方で発電所は電力を安定して作れるよう、定期的に補修点検をする必要がある。その期間は出力が落ちることから、電力需要が高くなる夏(7月~8月)と冬(12月~2月)にしっかりと稼働できるよう、それ以外の時期に進めるのが一般的だ。こうしたことから、タイミングが悪く、異例の需要増加と補修点検とが重なり、電力不足につながったという。このほか、3月は地震で発電所の一部が停止もしていた。電力の「調整役」火力発電が減っているさらに、火力発電をめぐる状況も関わってくる。日本では東日本大震災以降、電力発電量の約3割を担っていた原子力発電の比率が減り、その分を火力発電が補ってきた。そして、再生可能エネルギー(新エネルギー)も台頭してきた。これ自体は悪いことではないが、再生可能エネルギーはクリーンな一方で、発電効率が環境に左右されやすいところがある。例えば、太陽光発電には太陽が、風力発電には風が必要だ。そのため、今も電力の大半は、安定している火力発電で作られているという。ここで悩ましい問題が起きている。脱炭素化の動き、施設の老朽化、電力の販売価格の低下などで、火力発電の維持が難しくなり、休廃止するところが出てきているという。国の調査によると、近年でも200万~400万kWの火力発電が廃止されているとのこと。数字だとピンとこないかもしれないが、例えば、東京電力管内の夏の最大需要電力は5500万kWほどだという。この需要の数%分を補える電力がなくなっていると考えると、影響の大きさが分かる。電力会社も民間企業なので、発電コストの採算は考えなければならないが、その一方で「調整役」とも言える火力発電が減ってしまっている。ここも電力不足が起きている要因だという。実は冬が危ない!?対策はあるのかここまでは電力不足の背景を解説してきたが、資源エネルギー庁によると、実は2022年度の冬が危険な状態だと言われているという。一体なぜか。担当者に詳しく聞いてみた。――電力の予備率が3%必要なのはなぜ?安定供給に最低限必要なラインとして基準にしています。3%あれば大停電を防ぐことができると考えていますが、需要が大きく変わることもあり得るし、大規模な電源が複数発電が落ちることもあり得ます。そのため、5%で注意報、3%で警報とお伝えしています。――2022年度の冬の電力が危ないのはなぜ?2022年度の冬は厳しい見通しで、予備率は今年6月時点では、2023年1月に東北・東京管内で1.5%、西日本管内で1.9%、2月は東北・東京管内で1.6%、西日本管内で3.4%となる見通しでした。これは火力発電の供給力が減少していることが影響しています。設備の休廃止などにより、2022年度は供給力が底にあたる状況です。――気温差は電力の需要には影響するの?冷暖房の需要などが効いてきます。例えば、東京電力管内では、気温が約1℃高くなると約150万kWの需要が増えるといわれています。仮に需要全体が5000万kWだったとすると、1℃で予備率も3%ほど変わってくる。それだけ気温に影響されるということです。電力は調整や貯蔵が難しいもの――冬に向けた対策は?改善はできるの?供給力の確保に向けた公募を行っているところです。これにより休止している火力発電所を再稼働させることで、予備率も1月の東京エリアは3~4%に、西日本エリアは4~5%に改善すると考えております。2023年度は、新設火力の運転開始などに伴い、供給力が増加に転じる見通しです。――電力の前もった発電、貯蔵はできないの?電力は需要と供給のバランスが乱れると、周波数や電圧も乱れるという特性があります。需要が供給を大きく上回ったり、その逆でも停電が発生する要因になるのです。電力の貯蔵については、揚水発電(余裕がある時に上部のダムに水をくみ上げ、不足時に水を流して発電機を回す方法)や蓄電池の活用などがあるので、こうした取り組みの強化を目指しています。――家庭での節電は、電力ひっ迫を改善する効果はあるの?一般のご家庭の節電がどれだけ効果があるかを示すのは難しいですが、多くのご協力をいただけるのであれば効果が出てくるのではないかと考えてはおります。岸田首相は2022年8月、原子力規制委員会の審査に合格しているものの、稼働に至っていない原発7基について、新たに2023年の夏以降に再稼働を目指す方針を示している。昨今、季節外れの暑さや寒さが珍しくなくなってきている日本において、火力発電、原子力発電、再生エネルギー発電の扱いをどうしていくのか。電力の今後が注目される。
2022年、日本は電力不足が問題となっている。東京電力管内では、3月に電力需給ひっ迫の「警報」、6月には「注意報」が初めて発令され、政府が節電を呼び掛けることもあった。
オフィスや商業施設などの協力もあり、大規模停電のようなことは避けられたが、なぜ、電力が足りないのか。経済産業省・資源エネルギー庁への取材を通じて、背景や今後を解説する。
最初にお伝えしたいのは、冒頭で触れた「電力需給ひっ迫警報・注意報」についてだ。これらは電力不足による大規模停電などを防ぐことを目的に、資源エネルギー庁が発令する。
発令の基準は電力の供給力の余裕を数値化した「予備率」で、5%を下回るときに注意報が、3%を下回るときに警報が発令される。大規模停電を招かないためには最低でも3%を確保しなければならないということから、3月は危なかったことになる。
これだと、電力を使いすぎているの?と思うかもしれないが、そうともいいきれない。
国の総合エネルギー統計によると、日本の電力最終消費(実際に消費された電力)は、2010年度の1兆354億kWhから、2020年度には9135億kWhにまで減少した。これだけで結論は出せないが、電力をむやみに使ったようにも思えない。※kWh=使用電力×時間の計算式で導き出される
それではなぜ、2022年は3月や6月にひっ迫することになったのか。実は発電所の事情も絡んでくる。
資源エネルギー庁によると、3月や6月の電力不足は(1)季節外れの寒さや暑さにより需要が大幅に増加したこと、(2)発電所の補修点検の期間と重なったこと。このような要因が関係しているという。
どういうことかというと、2022年は3月が真冬並みの寒さ、6月は異常な猛暑となり、冷暖房などにより電力需要が増加した。例えば、6月は東京電力管内の最大需要電力が5200万kW以上にのぼっているが、ここ数年の同時期と比べると最も高い数値だったという。
一方で発電所は電力を安定して作れるよう、定期的に補修点検をする必要がある。その期間は出力が落ちることから、電力需要が高くなる夏(7月~8月)と冬(12月~2月)にしっかりと稼働できるよう、それ以外の時期に進めるのが一般的だ。
こうしたことから、タイミングが悪く、異例の需要増加と補修点検とが重なり、電力不足につながったという。このほか、3月は地震で発電所の一部が停止もしていた。
さらに、火力発電をめぐる状況も関わってくる。日本では東日本大震災以降、電力発電量の約3割を担っていた原子力発電の比率が減り、その分を火力発電が補ってきた。そして、再生可能エネルギー(新エネルギー)も台頭してきた。
これ自体は悪いことではないが、再生可能エネルギーはクリーンな一方で、発電効率が環境に左右されやすいところがある。例えば、太陽光発電には太陽が、風力発電には風が必要だ。
そのため、今も電力の大半は、安定している火力発電で作られているという。ここで悩ましい問題が起きている。脱炭素化の動き、施設の老朽化、電力の販売価格の低下などで、火力発電の維持が難しくなり、休廃止するところが出てきているという。
国の調査によると、近年でも200万~400万kWの火力発電が廃止されているとのこと。数字だとピンとこないかもしれないが、例えば、東京電力管内の夏の最大需要電力は5500万kWほどだという。この需要の数%分を補える電力がなくなっていると考えると、影響の大きさが分かる。
電力会社も民間企業なので、発電コストの採算は考えなければならないが、その一方で「調整役」とも言える火力発電が減ってしまっている。ここも電力不足が起きている要因だという。
ここまでは電力不足の背景を解説してきたが、資源エネルギー庁によると、実は2022年度の冬が危険な状態だと言われているという。一体なぜか。担当者に詳しく聞いてみた。
――電力の予備率が3%必要なのはなぜ?
安定供給に最低限必要なラインとして基準にしています。3%あれば大停電を防ぐことができると考えていますが、需要が大きく変わることもあり得るし、大規模な電源が複数発電が落ちることもあり得ます。そのため、5%で注意報、3%で警報とお伝えしています。
――2022年度の冬の電力が危ないのはなぜ?
2022年度の冬は厳しい見通しで、予備率は今年6月時点では、2023年1月に東北・東京管内で1.5%、西日本管内で1.9%、2月は東北・東京管内で1.6%、西日本管内で3.4%となる見通しでした。これは火力発電の供給力が減少していることが影響しています。設備の休廃止などにより、2022年度は供給力が底にあたる状況です。
――気温差は電力の需要には影響するの?
冷暖房の需要などが効いてきます。例えば、東京電力管内では、気温が約1℃高くなると約150万kWの需要が増えるといわれています。仮に需要全体が5000万kWだったとすると、1℃で予備率も3%ほど変わってくる。それだけ気温に影響されるということです。
――冬に向けた対策は?改善はできるの?
供給力の確保に向けた公募を行っているところです。これにより休止している火力発電所を再稼働させることで、予備率も1月の東京エリアは3~4%に、西日本エリアは4~5%に改善すると考えております。2023年度は、新設火力の運転開始などに伴い、供給力が増加に転じる見通しです。
――電力の前もった発電、貯蔵はできないの?
電力は需要と供給のバランスが乱れると、周波数や電圧も乱れるという特性があります。需要が供給を大きく上回ったり、その逆でも停電が発生する要因になるのです。電力の貯蔵については、揚水発電(余裕がある時に上部のダムに水をくみ上げ、不足時に水を流して発電機を回す方法)や蓄電池の活用などがあるので、こうした取り組みの強化を目指しています。
――家庭での節電は、電力ひっ迫を改善する効果はあるの?
一般のご家庭の節電がどれだけ効果があるかを示すのは難しいですが、多くのご協力をいただけるのであれば効果が出てくるのではないかと考えてはおります。
岸田首相は2022年8月、原子力規制委員会の審査に合格しているものの、稼働に至っていない原発7基について、新たに2023年の夏以降に再稼働を目指す方針を示している。昨今、季節外れの暑さや寒さが珍しくなくなってきている日本において、火力発電、原子力発電、再生エネルギー発電の扱いをどうしていくのか。電力の今後が注目される。