「友達いない独身おじさん」に注目が集まっている。家庭を持つ友人とは疎遠になり、会社の外では常にひとり、話し相手もいない。そんな男性の記事がネットニュースで配信されたところ、SNSで話題に。男性だけでなく女性にも共感が広がっている。
【画像】「生きづらさを感じたことがある女性」驚きのアンケート結果「読んで、これ、私のことじゃんと思いましたね」 そう話す須田莉真さん(仮名)は都内在住の42歳。社会問題に取り組むNGOに勤め、仕事は充実している。同世代の夫もいる。それでも「休日はひとり」で、ここ数年で「友達はいなくなった」という。

「夫はマイペースで、休日には趣味の釣りにひとりで出かけていく。話しかければ返事はするものの聞き流されている感じがして、むなしくなります」(須田さん、以下同) 学生時代の友人は進学や結婚などに伴い、全国に散り散りに。新年にLINEであいさつを交わすだけになった。職場はコロナ禍でリモートワークが主になり、同僚と直接顔を合わせる機会が減った。そのうえ、「私はお酒を飲めないし、宴席も苦手。断っているうちに声をかけられなくなりました」と、須田さん。数年に1度は故郷の九州へ帰省しているが、同級生はみな、子育てに忙しい。「たまに集まっても子育ての話題ばかり。子どものいない私には居心地が悪いし、田舎のせいか“子育ては母親がするもの”という考えが根強い。仕事を辞めたママに、専業主婦のママが“やっと母親らしくなったね”と話しているのを聞いて、ゾッとしました」 やがて須田さんは地元の集まりに顔を出さなくなり、同級生とのつながりも絶えた。「違和感にふたをしてまで付き合いたいとは思えなかったんです。今、友達がいないのは、自分で選んだ結果。寂しいですけどね」親の介護の影響で友達が… 親の介護という物理的な制約のため、友人関係が絶たれてしまった女性もいる。「介護で自分の時間がない。収入も減り、自由に使えるお金もない。そのうち友達と呼べる人がいなくなりました」 美容師の伊藤由香子さん(仮名=50代)は現在、母親と妹の3人で暮らしている。住み慣れた関西をあとにして、関東へ引っ越したのは約10年前。突然、母親が難病にかかり、妹だけでは世話をするのが困難になったからだ。「私が20歳のころ、母は再婚相手と関東のある県へ移り住んだんです。私は関西で就職、母たちと離れて暮らしていました。でも、数年して義父は病死。その後も妹と母は関東に残りました。関西から遊びに行くこともありましたが、仕事が忙しくなり、あまり連絡もとっていなかったんです」(伊藤さん、以下同) そこへ飛び込んできた難病の知らせ─。伊藤さんにとっては縁もゆかりもない土地での介護が始まった。「関西なら役所や福祉施設にいる友人に話を聞けるし、情報収集もしやすいんですが、関東では何が必要でどこにあるのかもわからない。そんなときに、妹がうつ病になってしまい……。誰にも頼れない状態で介護の体制を作らねばならず、しんどかったです」 伊藤さんがより孤独感を募らせるようになったのは、ケアマネジャーや訪問ヘルパーも確保でき、大変ながらも介護生活が回り始めてから。「病気の進行に伴って、母が“死にたい”とこぼすようになったんです。うつ病の妹も“消えたい”と言う。苦しいのは本人とわかっているけれど、家族もつらいです」 数年前まで、伊藤さんは「もう限界」になると母親をヘルパーに任せ、関西へ友達に会いに行くこともあった。「でも、病状が悪化するにつれ、それも難しくなって。愚痴や不安を誰かに聞いてほしいと思っても、込み入った話になるから多忙な関西の友人には言いづらい。何より私自身に余裕がなくて、連絡を返さないでいるうちに、疎遠になってしまった。関東には相変わらず友人もいません。 大人になって、こんなに切実に“気持ちを打ち明けられる友達が欲しい”と思うとは、考えてもいませんでした」子どもの頃から友達がいないケース 人の輪に入れない、溶け込めない、本音が言えない。そうした悩みを子どものころから抱えてきたのは、松井喜代美さん(仮名=40)。自身を「元・ひきこもり」と言う。「今の職場で働くようになって4年もたつのに、友達はおろか、世間話をできる人もいません。半年前に入ってきた人がもう慣れて、同僚同士で飲みに行ったりしているのに……」(松井さん、以下同) 松井さんの「友達いない問題」は年季が入っている。小学1年のとき、2人1組になる体操の相手が見つからず、泣いて家に帰った。いじめに遭ったのをきっかけに、中学は休みがちに。高校では不登校になり2年で中退。高卒認定試験(旧大検)を受け大学へ進学したが、19歳の夏、ひきこもり状態に陥った。「頑張って入った大学なのになじめなかった。周りの学生の和気あいあいとしている様子に、友達のいない私は居たたまれなくなってしまったんです。他人の目が怖くて、ひきこもるようになりました」 腫れ物に触るような家族との接触を避け、日中はひたすら眠ってやり過ごした。外出できるのは真夜中、コンビニに出かけるときだけ。そんな生活が5年近く続いた。「あるとき、急に眠れなくなって。起きている間じゅう、気ばかりあせって不安で苦しい。それで自分から病院へ行きたいと言い出したんです」 それをきっかけに、徐々にひきこもりから脱出。外出できるようになると、食品の検品業務を皮切りに短期のアルバイトをいくつもこなした。30歳で結婚した夫は職場で知り合ったバイト仲間だ。「結局、友達はできないままだし、話し相手は夫だけ。私にとって、友達づくりは婚活より難しいと思っています」友達づくりを阻む女性ならではの困難 いまや孤独や孤立は社会問題となっている。担当大臣が任命され、相談支援も行われている。ただ、どれほど孤独や孤立に苦しんでいたとしても、「友達がいない」だけでは支援を受けられない現実がある。 孤立や生きづらさの問題に詳しいジャーナリスト・渋井哲也さんが指摘する。「男性は感情を言葉で伝えることが下手で、女性に比べてSOSを出しにくいといわれています。そのため孤独や孤立の問題というと、男性にばかり注目が集まりやすい。 一方、女性の場合、コミュニケーションはむしろ過剰で“他人からどう見られるか”というプレッシャーにさらされています。そのため友達をつくるハードルは低いかもしれませんが、ひきこもりや介護など何かのきっかけでコミュニティーからドロップアウトすると、友達づくりが途端に難しくなってしまうのです」“自分だけ子どもがいない”という状況も友達づくりの障壁になる、と渋井さん。「(女性は子育てすべきという)日本の伝統的な家族観からはずれているので、それ自体がプレッシャーになりますし、時には集団から排除されるおそれもあるでしょう」「友達いない問題」はどうやって解決すればいいのか。「孤独や孤立は必ずしも悪いことではありません。そのうえで友達がいないという人の話を聞き、例えば介護の問題を抱えているなら、そのサポートにつなげる。まずは当事者が思いや意見を話せる場所をつくるべきだと思います」
「読んで、これ、私のことじゃんと思いましたね」
そう話す須田莉真さん(仮名)は都内在住の42歳。社会問題に取り組むNGOに勤め、仕事は充実している。同世代の夫もいる。それでも「休日はひとり」で、ここ数年で「友達はいなくなった」という。
「夫はマイペースで、休日には趣味の釣りにひとりで出かけていく。話しかければ返事はするものの聞き流されている感じがして、むなしくなります」(須田さん、以下同)
学生時代の友人は進学や結婚などに伴い、全国に散り散りに。新年にLINEであいさつを交わすだけになった。職場はコロナ禍でリモートワークが主になり、同僚と直接顔を合わせる機会が減った。そのうえ、「私はお酒を飲めないし、宴席も苦手。断っているうちに声をかけられなくなりました」と、須田さん。数年に1度は故郷の九州へ帰省しているが、同級生はみな、子育てに忙しい。
「たまに集まっても子育ての話題ばかり。子どものいない私には居心地が悪いし、田舎のせいか“子育ては母親がするもの”という考えが根強い。仕事を辞めたママに、専業主婦のママが“やっと母親らしくなったね”と話しているのを聞いて、ゾッとしました」
やがて須田さんは地元の集まりに顔を出さなくなり、同級生とのつながりも絶えた。
「違和感にふたをしてまで付き合いたいとは思えなかったんです。今、友達がいないのは、自分で選んだ結果。寂しいですけどね」
親の介護という物理的な制約のため、友人関係が絶たれてしまった女性もいる。
「介護で自分の時間がない。収入も減り、自由に使えるお金もない。そのうち友達と呼べる人がいなくなりました」
美容師の伊藤由香子さん(仮名=50代)は現在、母親と妹の3人で暮らしている。住み慣れた関西をあとにして、関東へ引っ越したのは約10年前。突然、母親が難病にかかり、妹だけでは世話をするのが困難になったからだ。
「私が20歳のころ、母は再婚相手と関東のある県へ移り住んだんです。私は関西で就職、母たちと離れて暮らしていました。でも、数年して義父は病死。その後も妹と母は関東に残りました。関西から遊びに行くこともありましたが、仕事が忙しくなり、あまり連絡もとっていなかったんです」(伊藤さん、以下同)
そこへ飛び込んできた難病の知らせ─。伊藤さんにとっては縁もゆかりもない土地での介護が始まった。
「関西なら役所や福祉施設にいる友人に話を聞けるし、情報収集もしやすいんですが、関東では何が必要でどこにあるのかもわからない。そんなときに、妹がうつ病になってしまい……。誰にも頼れない状態で介護の体制を作らねばならず、しんどかったです」
伊藤さんがより孤独感を募らせるようになったのは、ケアマネジャーや訪問ヘルパーも確保でき、大変ながらも介護生活が回り始めてから。
「病気の進行に伴って、母が“死にたい”とこぼすようになったんです。うつ病の妹も“消えたい”と言う。苦しいのは本人とわかっているけれど、家族もつらいです」
数年前まで、伊藤さんは「もう限界」になると母親をヘルパーに任せ、関西へ友達に会いに行くこともあった。
「でも、病状が悪化するにつれ、それも難しくなって。愚痴や不安を誰かに聞いてほしいと思っても、込み入った話になるから多忙な関西の友人には言いづらい。何より私自身に余裕がなくて、連絡を返さないでいるうちに、疎遠になってしまった。関東には相変わらず友人もいません。
大人になって、こんなに切実に“気持ちを打ち明けられる友達が欲しい”と思うとは、考えてもいませんでした」
人の輪に入れない、溶け込めない、本音が言えない。そうした悩みを子どものころから抱えてきたのは、松井喜代美さん(仮名=40)。自身を「元・ひきこもり」と言う。
「今の職場で働くようになって4年もたつのに、友達はおろか、世間話をできる人もいません。半年前に入ってきた人がもう慣れて、同僚同士で飲みに行ったりしているのに……」(松井さん、以下同)
松井さんの「友達いない問題」は年季が入っている。小学1年のとき、2人1組になる体操の相手が見つからず、泣いて家に帰った。いじめに遭ったのをきっかけに、中学は休みがちに。高校では不登校になり2年で中退。高卒認定試験(旧大検)を受け大学へ進学したが、19歳の夏、ひきこもり状態に陥った。
「頑張って入った大学なのになじめなかった。周りの学生の和気あいあいとしている様子に、友達のいない私は居たたまれなくなってしまったんです。他人の目が怖くて、ひきこもるようになりました」
腫れ物に触るような家族との接触を避け、日中はひたすら眠ってやり過ごした。外出できるのは真夜中、コンビニに出かけるときだけ。そんな生活が5年近く続いた。
「あるとき、急に眠れなくなって。起きている間じゅう、気ばかりあせって不安で苦しい。それで自分から病院へ行きたいと言い出したんです」
それをきっかけに、徐々にひきこもりから脱出。外出できるようになると、食品の検品業務を皮切りに短期のアルバイトをいくつもこなした。30歳で結婚した夫は職場で知り合ったバイト仲間だ。
「結局、友達はできないままだし、話し相手は夫だけ。私にとって、友達づくりは婚活より難しいと思っています」
いまや孤独や孤立は社会問題となっている。担当大臣が任命され、相談支援も行われている。ただ、どれほど孤独や孤立に苦しんでいたとしても、「友達がいない」だけでは支援を受けられない現実がある。
孤立や生きづらさの問題に詳しいジャーナリスト・渋井哲也さんが指摘する。
「男性は感情を言葉で伝えることが下手で、女性に比べてSOSを出しにくいといわれています。そのため孤独や孤立の問題というと、男性にばかり注目が集まりやすい。
一方、女性の場合、コミュニケーションはむしろ過剰で“他人からどう見られるか”というプレッシャーにさらされています。そのため友達をつくるハードルは低いかもしれませんが、ひきこもりや介護など何かのきっかけでコミュニティーからドロップアウトすると、友達づくりが途端に難しくなってしまうのです」
“自分だけ子どもがいない”という状況も友達づくりの障壁になる、と渋井さん。
「(女性は子育てすべきという)日本の伝統的な家族観からはずれているので、それ自体がプレッシャーになりますし、時には集団から排除されるおそれもあるでしょう」
「友達いない問題」はどうやって解決すればいいのか。
「孤独や孤立は必ずしも悪いことではありません。そのうえで友達がいないという人の話を聞き、例えば介護の問題を抱えているなら、そのサポートにつなげる。まずは当事者が思いや意見を話せる場所をつくるべきだと思います」