まだまだ続く日本のキャンプブーム。今年は行動制限もほぼなくなり、キャンプ場の人出はさらに増えそう。一方で、ブームに乗ってみたものの、「キャンプ疲れ」により脱落したという人も少なくないようだ。 20年前に日本を離れ、アウトドアが盛んなアメリカ西海岸シアトルの地で、毎年のように子連れキャンプに出かける筆者が、アメリカ流「疲れない」キャンプ旅を紹介する。
◆「至れり尽くせり」衝撃だった日本のキャンプ場体験 日本ではアウトドアにまったくと言って良いほど縁のない生活を送っていたが、カナダと国境を接するシアトルは、人気アウトドア・ブランドのREIやマナスタッシュ、エディー・バウアー誕生の地であり、大自然の宝庫。当然、キャンプも盛んで、だんだんと魅力にハマっていった。
そんなアメリカでキャンプ・デビューを果たした筆者にとって、日本人のキャンプ事情は、それこそ未知の世界だった。
数年前、初めて日本で友人とキャンプ体験をしたのは北海道の牧場だ。目の前に山々の絶景が広がるキャビンに泊まり、食事は別料金の豪華ジンギスカンセットが提供された。そのあと、別の友人と長野県の温泉近くのキャンプ場に泊まったことも。夜はしっかりお風呂にまで入った。
至れり尽くせり……。行ったところがたまたまそうだっただけかもしれないが、私の中で日本のキャンプ場はそんな印象だ。シェラフ(寝袋)など必要なギアやキャンプ用品のほとんどをその場でレンタルでき、共用の大きな調理場や洗い場、温水洗浄便座付きのトイレ、風呂などが備わる。 ◆日本人キャンパーのおしゃれ感に驚く
キャンプ場を見渡せば、おしゃれキャンパーたちの装備&キャンプ用品もまた目にまぶしい。デザインからして高級感いっぱいのテントやタープ、ランタン、チェア……。ガーランドライトやフラッグなど、テントのデコレーションも、カタログからそのまま飛び出してきたようで、こだわり具合がうかがい知れる。おそらく人気の海外ブランド品なのであろう。調理道具も、スキレットにダッチオーブンと、次から次へと出てくる。 この日本人のキャンプ熱は2010年代半ばから始まり、第2次ブームと呼ばれ、90年代の第1次ブームとは差別化されているらしい。2018年ごろにはアニメやテレビ番組の影響から、ひとりで楽しむソロ派が増え、装備の不要なグランピングの登場で女性やアウトドア初心者の若者も多く取り込むことに。コロナ禍を機に「密」を避けながら家族で過ごすファミリー・キャンプが注目され、より人気が加速した。「オートキャンプ白書2022」によれば、2021年のオートキャンプ参加人口は750万人で、前年比23%増という。 観光気分で友人たちと楽しいひと時を過ごせた日本でのキャンプ体験だったが、逆カルチャーショックを味わった。そして、気になったのはキャンプ場利用のコストだ。そこそこのホテル並みの価格……。アメニティーや朝食付き、冷房の利いた部屋で、ふかふかの布団に入って眠れるビジネスホテルに泊まるほうが、断然コスパは良い。
本場アメリカで毎夏のキャンプ歴10年以上の身としては、「もっと、シンプルでいいのでは?」とも思う。
◆アメリカでもコロナ禍を機にキャンプ人気が拡大!

コロナ禍では、わが家も週末キャンプが夏休み最大のアクティビティーとなっていた。毎年、夏の間に2、3回はキャンプを楽しむようにしているが、ここ3年、週末はどこも当日の空きはなく、人気のキャンプ場は半年前からの予約開始で平日さえすぐに空きが埋まってしまう。その他のキャンプ場も、週末は特に3カ月前までの予約が必須となっている。
早い者勝ちの予約が不要な無料キャンプ場もたくさんあるが、満杯で入れない場合を考えると、予定がかなりフレキシブルでない限り、子連れ利用は難しい。わが家をはじめ、ファミリーが多く訪れるのは、オンラインで事前予約を受け付ける公営のキャンプ場だ。このインフレで値上がりは避けられなかったものの、ファミリー向けサイトではひと晩20~30ドル前後(約2800~4200円)で済むのはありがたい。
日本と違うのは、個々に広々としたスペースを確保できること。ここシアトル周辺は針葉樹林が生い茂る緑豊かな環境ということもあり、それぞれのサイトがいい感じで木々に囲まれており、プライバシーを保つための目隠し代わりとなっている。公営のキャンプ場には、薪をくべて調理できるファイヤーピット、大きなピクニックテーブルも、サイトごとに完備。水栓やトイレ、シャワー、ゴミ捨て場などは共用だが、半数ほどがキャンピングカー派のためか、混雑することはまったくなく、待たずにすぐ使える。 必要最低限の設備が整い、何かあれば、キャンプ場管理者であるホスト・キャンパーが常駐するので頼りにできる。ゆっくり2、3泊しても、コストは一般的なホテルの1泊分にも満たない。こうしてアメリカ人は、家族や仲間と、あるいはソロで、シンプルながらもストレスなくキャンプを楽しんでいる。 ◆アメリカ流「過不足のない」ファミキャンとは? アメリカではグランピング人気も落ち着き、最近はむしろ、ミニマムな滞在に注目が集まっている。都会の日常から離れ、大自然の中に身を置き、心やすらぐひと時を過ごす。「マインドフルネス」や「ウェルネス・トラベル」という言葉に置き換えられる、「リラックスした旅時間」こそ、今のアメリカ人が求めるもの。それが、昨今のキャンプの一大ブームにつながっている。
つまり、「何もしない」ことを目的としているのだ。アメリカ流ゆるキャンプの醍醐味とも言える。いろいろがんばらなくていい。自然の中で寝泊まりするだけで、それは非日常の体験となる。 かくいう筆者も、最初の頃は典型的な日本人思考で、あれも必要、これもあると便利……と荷物を増やし、キャンプらしいレシピを考え、材料を用意して、とにかく忙しくしていた記憶がある。結局は、準備だけで疲れてしまうパターンだ。しかし、そんな苦労をしようとしまいと関係なく、子どもはテントの中でゴロゴロしているだけで十分楽しいのだ。 ただでさえ、大きい車でないと、子ども用品は幅を取る。アウトドア用の大型ベビーカーやキャリア、ワゴン、プレイテント、プレイペン、サークル、ビーチ用遊具などは、あればあったで楽しいし、役立つかもしれない。でも、せっかくパズルのようにして車のトランクに詰め込んでも、当の子どもは関心を持ってくれなかった、という場合も。
わが息子も、キャンプ場に自転車やスクーターを持ち込み、1回目こそ楽しんでいたが、2回目以降は見向きもしない(苦笑)。ヘルメットやなんやら、持っていくだけ無駄だった。それよりも切り株に登ったり、薪割りをしてみたり、そこらに落ちている枝から「お気に入りの1本」を探したりするほうがうれしいようだ。

わが家はキャンプ料理用にと、普段からテイクアウト品や定期購入している宅配調理キットに付いてくるスパイスやしょうゆなどの余った小袋を取っておき、ここぞとばかりに使っている。今年はダイソーでメスティンや焼き網も調達し、BBQ+ご飯という日本人好みの献立も簡単に実現。野外で食べる、炊きたてのご飯のおいしさに改めて感動した。お湯を入れるだけのインスタント味噌汁やインスタントコーヒーも大活躍だ。
ちなみに、ここシアトルはダイソーがアメリカ1号店を構えた地で、今年に入っても新店舗が続々オープンしている。本場に住みながらこんなことを言うのもなんだが、海外アウトドア・ブランドにこだわり、高いお金をかけなくても、日本では優秀な100均アイテムがいくらでもそろうのに、と個人的には思ってしまう。
日本人キャンパーたちは、映え重視の行き過ぎたおしゃれ合戦のために疲れ切ってはいないだろうか? それを理由にキャンプを純粋に楽しめないのだとしたら、非常にもったいない話である。
<文・写真/ハントシンガー典子>
―[日米「こんなに違う!」子育て事情]―