大阪府で暮らす山中さん一家は夫の和人さん(45歳)、妻の麻里さん(43歳)、高校1年生の長男・良太さん、そして中学1年生の妹・美香さんの4人家族。和人さんは通信関連企業の営業課長として働いており、10年前に購入した大阪府北部のマンションに家族4人で暮らしています(登場人物は全て仮名)。
長男の良太さんと妹の美香さんは春からそれぞれ高校、中学校に進学し、和人さんと麻里さんはそんな子ども達の成長を見守りながら、平穏な生活を送っていました。
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ところが、ある日の出来事が彼らの生活を一変させることになりました。
第一志望にしていた私立高校に合格した長男の良太さん。自宅から若干離れている高校へは、電車ではなく自転車通学をすることに。そこで、和人さんは入学祝いとして新しい自転車を良太さんに買ってあげました。良太さんは長年欲しかったモデルの自転車を買ってもらい、非常に喜んだそうです。
ただ中学までは徒歩通学だったので、両親の和人さんと麻里さんは登下校時の自転車の運転にはくれぐれも気を付けるように伝えていました。良太さん本人も初めての自転車通学なので、入学当初は注意深く安全運転を心掛けていました。
ところが、高校生活と自転車通学に慣れてきた1年生の二学期にその出来事は起こりました。
その日、テニス部に所属していた良太さんはいつものように部活の練習を終えて、自転車で帰宅していました。夕方、空はまだ薄暗くなりかけた頃で視界はよく、車の通行量も少ない道路。部活の練習の疲れからか、良太さんは周囲にあまり注意を払わないまま、自転車に乗っていました。
そのとき、良太さんのスマホからLINEの通知音が。ついポケットからスマートフォンを取り出し、自転車を運転しながら画面を見てしまいました。
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友達からのメッセージを見ながら信号のない小さな交差点に差し掛かったときのことです。良太さんの視界に突然、女性の姿が現れました。70代、佐藤さんとしておきましょう、佐藤さんは左手の横断歩道から渡ってきたのです。
遅れて気づいた良太さんはブレーキをかけましたが間に合わず、自転車は佐藤さんに衝突してしまいました。
衝突したはずみで良太さんも転倒しましたが、すぐに立ち上がり、慌てて佐藤さんの元に駆け寄りました。佐藤さんは痛みに悶えながら倒れ込んでおり、良太さんは自分がケガを負わせてしまったことに動揺してしまったのです。そのとき、たまたま通りかかった近所に住む主婦の女性が救急車を呼んでくれたのが不幸中の幸いでした。
良太さんもすぐに母親の麻里さんを呼びました。麻里さんは警察に連絡して、現場に来た警察官に事故を報告。そして、佐藤さんが搬送された病院に向かい、そこで佐藤さんの家族に謝罪し、自分の連絡先を伝えてその日は帰宅しました。
翌日、和人さんも一緒にあらためて佐藤さんが入院している病院にお見舞いと謝罪に出向き、その後も何度かお見舞いを繰り返しました。それからしばらく経ったある日、山中家に佐藤さんの家族から連絡が来たのです。
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佐藤さんは頭など致命的な箇所を打ちつけてはいませんでしたが、倒れた際に脚を複雑骨折していました。高齢だったこともあり、長期間のリハビリが必要になる上、膝の機能に障害が残るということが判明したのです。
そして佐藤さんの家族は山中家に対し、約300万円の損害賠償を求める旨を伝えました。
一瞬の不注意から生まれた事故と、被害者への損害賠償。非があるのはわかっていても、突然の金額に山中家は騒然とします。後編『損害賠償は誰が払う?高校生息子が「自転車事故」を起こした一家の後悔』で、その顛末をお読みください。