日本の公安警察は、アメリカのCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)のようにドラマや映画に華々しく登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。一昨年『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、公安警察官を騙り詐欺容疑で逮捕された吉川剛司容疑者(36)について聞いた。
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【証拠写真7枚】「女性向け風俗」で“副業”していた「現職警察官」の素顔 実際の本人のプロフィールも 自分は公安警察官だと言って、30代の女性と結婚を約束。現金約280万円を騙し取ったトラック運転手の吉川容疑者が3月10日、詐欺容疑で大阪府警に逮捕された。さらに31日、親戚の家から警察官の制服を盗んだとして、窃盗容疑で再逮捕した。
ニセ公安警察官に騙された30代女性が被害届を出すまでの顛末(※写真はイメージ) 親戚とは、大阪府警の30代男性警部補で、吉川の義兄だった。「実を言うと、私は今回被害の女性から、吉川について相談されていました」 と語るのは、勝丸氏。「彼女から人を介して連絡があったのは今年1月でした。『警察官の男性と付き合っているが、彼の言動がどうも嘘っぽい。警察の仕組みやシステムなどについて教えて欲しい』と言われました」コリアンタウンを内偵 吉川と彼女は2019年1月にマッチングアプリで知り合い、食事をしたという。「吉川は、自分は警察庁キャリアで、今は大阪府警の警備部に出向中だと説明したそうです。2019年6月、G20の大阪サミットが開催された時、警備の責任者になったとも語ったといいます」『警視庁公安部外事課』(光文社) 2人は何度かデートを重ね、交際が始まった。吉川はデートの時は私服だったが、女性とテレビ電話で話す時や彼女に画像を送る時、なぜかいつも制服姿だった。「彼女の自宅に来るときも制服を着ていたそうです。また、警察手帳や警察の装備品もよく見せていたといいます。それで当初彼女は、彼が警察官だと信じていたそうです」 交際が始まってしばらくすると、吉川は女性にプロポーズした。「ところが、結婚の準備を進めていくうち、女性に金の無心をするようになったのです。例えば、『俺は、警察庁の外事警察で、大阪の生野区にあるコリアンタウンの内偵をしている。そこには警察の協力者が潜入していて、彼に情報提供料を払わなければならない。お金を貸してくれないか』と言ったそうです」情報収集のために偽装結婚 この話を聞いて勝丸氏は、ピンと来るものがあったという。「外事警察官は、家族でも外事警察に所属していることを話してはいけないことになっています。これだけでニセモノだと確信しました」 この他にも……。「捜査の内容を彼女に話すなんて、警官だったら絶対に考えられません。捜査情報をバラしたら、情報の漏洩で国家公務員法違反になってしまいます」 吉川は、女性の知人が海外でトラブルに巻き込まれた際、公安の捜査員を派遣してやると話していた。「ところが、『私事で捜査員を動かしたことで懲罰を受けた。左遷され、銀行口座が凍結された』と言って女性に借金をしたそうです。警察官がクビになったわけでもないのに、銀行口座が凍結されることはありません」 吉川は、身内の不幸や同僚への借金の返済を理由に彼女から借金を重ね、金額は約280万円にも膨らんだ。すると、追い討ちをかけるような出来事が起こった。「昨年12月、彼女宛にSNSで吉川の妻と名乗る女性から連絡があり、子供もいると知らされました。びっくりした彼女は、大阪府警や弁護士に相談。そして、私の所にも連絡したというわけです。吉川に奥さんから連絡が来たことについて問い質すと、『妻の父親が大阪のコリアンタウンでタクシー運転手をしているので、父親から情報収集するために偽装結婚した』と説明したそうです。私は、情報収集するために偽装結婚して子供を持つようなことはしないと彼女に伝えました」 勝丸氏は女性に吉川は間違いなくニセ警官だから、早く大阪府警に被害届を出すように勧めたという。「吉川は、昨年10月に北海道警に国際テロ対策の海外派遣要員として行くと言っていたそうです。海外派遣要員は警察庁にしかおらず、有事の際に海外へ派遣されます。この説明も明らかな嘘です。また、吉川は制服の上にエプロンを着て料理している映像を彼女に送っていました。そんなバカなことをする警官はいないと彼女に伝えました」 吉川がニセ警官だと確証を持った女性は、吉川の自宅に乗り込んだ。その直後、大阪府警に被害届を提出したという。府警は、女性が吉川に渡した280万円のうち、明らかに詐欺とみなした約190万円で立件したという。「吉川は、外事警察のことは結構詳しかったので、公安警察のマニアだったのでしょう。彼は、海外の日本大使館で警備担当の外交官として勤務したことがあると女性に話していたそうですが、私も在外公館に勤務していました。ひょっとすると、私の著書を読んでいた可能性がありますね」勝丸円覚1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/デイリー新潮編集部
自分は公安警察官だと言って、30代の女性と結婚を約束。現金約280万円を騙し取ったトラック運転手の吉川容疑者が3月10日、詐欺容疑で大阪府警に逮捕された。さらに31日、親戚の家から警察官の制服を盗んだとして、窃盗容疑で再逮捕した。
親戚とは、大阪府警の30代男性警部補で、吉川の義兄だった。
「実を言うと、私は今回被害の女性から、吉川について相談されていました」
と語るのは、勝丸氏。
「彼女から人を介して連絡があったのは今年1月でした。『警察官の男性と付き合っているが、彼の言動がどうも嘘っぽい。警察の仕組みやシステムなどについて教えて欲しい』と言われました」
吉川と彼女は2019年1月にマッチングアプリで知り合い、食事をしたという。
「吉川は、自分は警察庁キャリアで、今は大阪府警の警備部に出向中だと説明したそうです。2019年6月、G20の大阪サミットが開催された時、警備の責任者になったとも語ったといいます」
2人は何度かデートを重ね、交際が始まった。吉川はデートの時は私服だったが、女性とテレビ電話で話す時や彼女に画像を送る時、なぜかいつも制服姿だった。
「彼女の自宅に来るときも制服を着ていたそうです。また、警察手帳や警察の装備品もよく見せていたといいます。それで当初彼女は、彼が警察官だと信じていたそうです」
交際が始まってしばらくすると、吉川は女性にプロポーズした。
「ところが、結婚の準備を進めていくうち、女性に金の無心をするようになったのです。例えば、『俺は、警察庁の外事警察で、大阪の生野区にあるコリアンタウンの内偵をしている。そこには警察の協力者が潜入していて、彼に情報提供料を払わなければならない。お金を貸してくれないか』と言ったそうです」
この話を聞いて勝丸氏は、ピンと来るものがあったという。
「外事警察官は、家族でも外事警察に所属していることを話してはいけないことになっています。これだけでニセモノだと確信しました」
この他にも……。
「捜査の内容を彼女に話すなんて、警官だったら絶対に考えられません。捜査情報をバラしたら、情報の漏洩で国家公務員法違反になってしまいます」
吉川は、女性の知人が海外でトラブルに巻き込まれた際、公安の捜査員を派遣してやると話していた。
「ところが、『私事で捜査員を動かしたことで懲罰を受けた。左遷され、銀行口座が凍結された』と言って女性に借金をしたそうです。警察官がクビになったわけでもないのに、銀行口座が凍結されることはありません」
吉川は、身内の不幸や同僚への借金の返済を理由に彼女から借金を重ね、金額は約280万円にも膨らんだ。すると、追い討ちをかけるような出来事が起こった。
「昨年12月、彼女宛にSNSで吉川の妻と名乗る女性から連絡があり、子供もいると知らされました。びっくりした彼女は、大阪府警や弁護士に相談。そして、私の所にも連絡したというわけです。吉川に奥さんから連絡が来たことについて問い質すと、『妻の父親が大阪のコリアンタウンでタクシー運転手をしているので、父親から情報収集するために偽装結婚した』と説明したそうです。私は、情報収集するために偽装結婚して子供を持つようなことはしないと彼女に伝えました」
勝丸氏は女性に吉川は間違いなくニセ警官だから、早く大阪府警に被害届を出すように勧めたという。
「吉川は、昨年10月に北海道警に国際テロ対策の海外派遣要員として行くと言っていたそうです。海外派遣要員は警察庁にしかおらず、有事の際に海外へ派遣されます。この説明も明らかな嘘です。また、吉川は制服の上にエプロンを着て料理している映像を彼女に送っていました。そんなバカなことをする警官はいないと彼女に伝えました」
吉川がニセ警官だと確証を持った女性は、吉川の自宅に乗り込んだ。その直後、大阪府警に被害届を提出したという。府警は、女性が吉川に渡した280万円のうち、明らかに詐欺とみなした約190万円で立件したという。
「吉川は、外事警察のことは結構詳しかったので、公安警察のマニアだったのでしょう。彼は、海外の日本大使館で警備担当の外交官として勤務したことがあると女性に話していたそうですが、私も在外公館に勤務していました。ひょっとすると、私の著書を読んでいた可能性がありますね」
勝丸円覚1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/
デイリー新潮編集部