エリザベス女王の国葬に参列し即位後初めての外国訪問を終えられた天皇皇后両陛下。異例ずくめの「悲しみの旅」に同行取材すると、見えてきたのは陛下の穏やかなお人柄と、皇室とイギリス王室の深い絆でした。
国葬当日のロンドンは、世界中から集まったVIPを円滑に送迎するため、街の至る所が通行止めとなり、厳しい交通規制が実施されていました。こうした交通規制の中、VIPは護衛付きの乗り合いバスで葬儀会場のウエストミンスター寺院へ向かうことになっていました。
葬儀前日にバス乗り場のチェルシー王立病院を見に行ってみると、病院の敷地内にはすでに大型バスが何台も並び、警備が集まりピリピリとした空気に包まれていました。
ここで思い出されたのは、2019年に皇居で行われた即位礼正殿の儀の日のことです。儀式を終えた各国のVIPが一斉に車で皇居を後にするため、予定よりも時間がかかり、延々と車列が続いていた光景を思い出しました。
今回イギリスは、約500人もの参列者が1台ずつ車で発着するのに要する時間をカットし、バスに乗り合うことで交通量もセーブし、時間内にVIPを送迎するという作戦をとっていたのです。
「両陛下がバスに乗車?」と意外に思う人も多かったようですが、側近によると、陛下は当初から「必要以上に現地に負担をかけないように」「特別な対応はしなくても良いです」との考えを示されていたそうです。
さらに、バルセロナ五輪やオランダの即位式の際にも他の国の参加者と共にバスで移動した経験があり、「今回だけじゃないんです」と穏やかに話されたそうです。安全上の懸念から、アメリカやイスラエルなどはバスを利用しませんでしたが、両陛下はオランダやブータンの国王夫妻などと同じバスで、旧交を温めながら会場に向かわれました。
イギリス側を信頼し特別な対応を求めない悠然とした姿勢は、陛下のお人柄を表していると感じました。
バス移動に加え、今回異例だったのは、会場に側近が付き添うことができず、皇宮警察の護衛官もバスに乗る段階で別行動となったことです。
両陛下は、病院の受付でバスの番号が書かれた紙を受け取ると、指定されたバスにお二人だけで乗り込み、そこから行事を終えてバス乗り場に戻るまでは、側近も護衛も付かずに行動されたのでした。
一般の生活では、病院や銀行などで番号が書かれた整理券を受け取りますが、両陛下にとっては紙を受け取ることも、護衛無しに行動することも日本国内ではまずありません。新鮮で非日常だったのではないかと思います。
皇室とイギリス王室には、大正時代に昭和天皇が訪英して以来、150年もの親交があり、今回の訪問にはイギリス側から両陛下への様々な配慮がありました。まずはプロトコールです。
両陛下の会場入りはかなり最後の方で、逆に会場からの退出は早いタイミングでした。同行した側近は「プロトコールは高かった」と話していました。
また、即位礼の際の日本でも、世界中から集まるVIPを乗せる車が足りない事態に陥りましたが、今回のイギリスも状況は同じで、両陛下の車の確保に苦労していた日本側に対し、イギリス側から防弾仕様のレンジローバーが提供されました。
さらに、皇后さまの体調を考慮し、会場では廊下側の席次が割り当てられ、行事の間に体調に変化があった場合に休める場所も用意されていたそうです。長旅の疲れや体調の波を抱える皇后さまにとっては、心強い配慮だったと思われます。側近は「やはり皇室とイギリス王室との関係は本当に特別ですね」としみじみ振り返っていました。
イギリス側からの特別な配慮で思い出されるのは、2012年に行われたエリザベス女王の在位60年を祝う昼食会です。上皇さまは心臓バイパス手術を終え、懸命なリハビリによって訪英を実現されました。
美智子さまと共にウィンザー城を訪れた上皇さまを、女王は本当にうれしそうな笑顔で出迎え、女王の側近達も口々に「お元気にいらしていただいてこんなにうれしいことはない」と喜んでいたそうです。
そして、昼食会では、上皇さまは女王夫妻の座るメインテーブルで、女王のすぐ隣という最高位の席次に案内されました。60年前の戴冠式と、即位60年の祝賀行事の両方に出席しているのは、上皇さまとベルギー国王のお二方だけで、心を通わせながら同じ時代を生きてきた上皇さまへの敬意と感謝が感じられました。
上皇さまは、女王への深い信頼のもと、将来天皇となる長男の陛下を大学時代、イギリス留学に送り出されました。
陛下は留学中、女王と家族の一員のように親しく過ごし、即位後最初の外国訪問として女王から直々に招待を受けられていました。コロナ禍で叶わぬまま、葬儀への参列という「悲しみの旅」に形を変えましたが、今回のイギリス訪問で、陛下はこれまでの感謝の気持ちを込めて、女王の棺に最期のお別れの挨拶をし、チャールズ新国王の手を取って上皇ご夫妻の弔意も直接伝えられました。
70年間の家族ぐるみの交流によって結ばれた皇室とイギリス王室との揺るぎない絆と特別な重みを改めて実感する4日間の同行取材でした。
(フジテレビ社会部・宮内庁担当 宮崎千歳)