「そんなに儲けてるの?」。開業医の年収が3000万円と聞けばそう思う人は多いだろう。その給料の出元は、私たちが払った税金や保険料だ。だが、日本医師会はさらなる「収入増」を目指している。
東京都内で暮らす高田史郎さん(仮名・56歳)は最近、「通院」に関して一つの疑問を抱いている。
高田さんは3年ほど前に健康診断で高血圧と診断された。その治療のため近所のクリニックに通い始めたが、やがて不信感が芽生えたという。
「いまも月に一度通院しているのですが、こんな頻度で病院に通う必要があるのでしょうか。たしかに通い始めのころは検査などがありましたが、1年くらいすると、3分くらい雑談して薬をもらうだけというパターンがほとんどになった。
それなら……と先生に『薬を出せるだけ出してもらって通院の回数を減らせませんか』と聞いたこともありました。それでも先生は通院を続けるよう求めてきた。釈然としませんがいまも月に一度通っている状況です」
なぜ医師は通院を求めるのか?
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背景にはこんなからくりがある。医療政策などにくわしい医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏が言う。
「開業医にとってもっとも儲けやすいのが生活習慣病です。患者が『リピーター』になってくれるとその儲けは非常に大きくなる。たとえば高血圧症は、一度の診療によって『特定疾患療養管理料』『再診料』などで4000円ほどの売り上げを得られる。3ヵ月に1回の診療だと年に1万6000円の報酬ですが、1ヵ月に1回にすれば年間で4万8000円です。
もちろん必要があって高頻度で診察をする先生もいるでしょうし、コストの高い都市部ではギリギリで経営している良心的な先生も多い。しかし儲けるために意味なく何度も通院させる医師がいるのも事実です」
医師という仕事はしばしば「聖職」と呼ばれる。
たしかに世間には、献身的に患者に寄り添い、儲けは二の次で治療に邁進する「心ある医師」がいる。しかしその一方で、平均すると医師がかなりの儲けを得ていること、あるいは「やたらと儲けけている医師」がいることもまた事実だ。
とりわけ「開業医」の収入は一般的な水準と比べると驚くほど高い。
じつはその「儲けけの実態」が、11月24日に厚生労働省が発表した「医療経済実態調査」で明かされている。これは、全国の病院(病床が20床以上の施設)や診療所(いわゆるクリニック。病床が19床以下の施設)の経営状況をまとめたもので、医師の「儲けけ」についても知ることができる。
いわゆる「開業医」の多くを占める「診療所」の数字を見てみよう。診療所には、「個人で診療所を経営するパターン」と「医療法人をつくりそこから給料をもらうパターン」があるが、施設数が多く、収入がより明確にわかる後者では、院長の平均給料はじつに2652万9548円(’22年度)だ。収益を得やすい「入院ができる診療所」に限れば3437万7821円まで跳ね上がる。
Photo by gettyimagesしかもこの調査はサンプル数が少なく、より厳密な調査をすれば平均収入はさらに高くなるという専門家もいる。日本人の平均給料は、国税庁によると458万円(’22年)。開業医の院長の給与は、日本人の平均の6倍にもなるのだ。さらに診療所は、院長の給料などを支払ったあとでも法人として平均で1844万2000円もの利益(損益差額)を出しているという点にも注目だ。ちなみに病院の勤務医の年収は、医療経済実態調査によれば1460万円ほどである。開業医は3000万円近い年収を得て、しかも法人としても大きな利益を得ている―十分すぎる儲けけと言えるだろう。レジャーランド化した病院しかしそうであるにもかかわらず、さらなる蓄財のため、「真っ当な経営努力」をするのではなく、専門家の立場を利用して儲けけに走るような「銭ゲバ開業医」もいる。「えげつない儲けけ方をしている開業医はたしかにいます」と言うのは、フリーランスの麻酔科医である筒井冨美氏である。「しばしば目にするのは、高齢者の『高額療養費制度』を悪用した稼ぎ方です。日本の医療保険制度では、70歳以上で非課税世帯なら、月に8000円が外来で受ける治療の自己負担の上限になります。この制度を利用して、8000円を超えた分について不要な治療や検査を提供して儲けけている開業医がいるんです。患者側としては、8000円以上はおカネがかからないのですから『治療受け放題』のようなもの。非課税世帯というと貧しい方を想像するかもしれませんが、判断基準が『所得』になっているので高齢者のなかには『資産は1億円なのに非課税』というような方もいる。そうした人たちを相手にするんですね。Photo by gettyimagesさらに、こうした患者さんをつなぎ止めるため、無料でモーニングコーヒーやパンのサービスを提供しているところもある。パンやコーヒーが楽しめ、一定額以上は無料で治療を受けられ薬が出る。しかもナースにも優しくしてもらえる……。レジャーランドのようになっている医療機関もあります。もちろん不要な治療や検査によって医師の手元に入るおカネは、もとを正せば国民が支払った税金や健康保険料です。税金や保険料をチューチュー『しゃぶる』ようなやり方ですね」(筒井氏)投資の回収を焦る医者桑満おさむ氏は25年以上、東京都内で「五本木クリニック」を営むベテラン開業医だが、同業者たちのさまざまな「問題のある儲けけ方」を見てきたという。「開業医のなかには医療界に大きく貢献している立派な先生がいる一方で、不必要な医療をおこない、自分の実力以上に儲けけている医師がボロボロいるのも事実です。たとえば、患者さんの体の状態にかかわらず、診療所として儲けけが出るよう事前につくった『検査のコース』をこなしていく医師がいます。同じ検査を何度もつづけると怪しまれるので、最初は採血、つぎは心電図、つぎは心エコー検査……と、人間ドックをバラしたような『コース』を準備する。検査機器は高額ですから、購入費を急いで回収するために検査に走るのですね。理由がよくわからない検査があったら要注意です。もっと悪質なところもある。たとえば、美容整形など公定価格が決まっていない『自費診療』がありますよね。それ自体はうちもやっていて真っ当な事業だと思いますが、なかには、自費診療で患者から報酬を得ているのに、さらに保険診療の報酬も受け取る、いわゆる『二重請求』をしている人もいる。これは明らかに違法です」Photo by gettyimages一部の開業医が「儲けけ主義」になってしまう背景について、桑満氏はこう話す。「あくまで『傾向』の話ですが、年齢が高くなってから診療所を始めた人は、どうしても初期投資を短い期間で回収するために儲けけを重視しがちになるのかもしれません。また同年代の医師で、年をとってから診療所を始めた人のなかには『長いあいだ大学病院勤務で疲弊してきたご褒美だ』と言う人もいました。たしかに借金の返済など苦労はあるものの、一般的な水準、そして勤務医に比べれば、開業医が多くのおカネをもらっているのは間違いない。私は開業医と勤務医のあいだでもう少し収入の格差を縮めるよう、診療報酬のしくみを変えてもいいとも思います」これだけの儲けけを得ている開業医だが、にもかかわらず、現在おこなわれている「診療報酬改定」では、さらなる「報酬アップ」を狙っている。後編記事『「街の診療所の年収3000万円」でも、日本医師会は「さらなる給料アップ」を狙う…欲張りすぎるその生態』へ続く。「週刊現代」2023年12月16日号より
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しかもこの調査はサンプル数が少なく、より厳密な調査をすれば平均収入はさらに高くなるという専門家もいる。
日本人の平均給料は、国税庁によると458万円(’22年)。開業医の院長の給与は、日本人の平均の6倍にもなるのだ。
さらに診療所は、院長の給料などを支払ったあとでも法人として平均で1844万2000円もの利益(損益差額)を出しているという点にも注目だ。ちなみに病院の勤務医の年収は、医療経済実態調査によれば1460万円ほどである。
開業医は3000万円近い年収を得て、しかも法人としても大きな利益を得ている―十分すぎる儲けけと言えるだろう。
しかしそうであるにもかかわらず、さらなる蓄財のため、「真っ当な経営努力」をするのではなく、専門家の立場を利用して儲けけに走るような「銭ゲバ開業医」もいる。
「えげつない儲けけ方をしている開業医はたしかにいます」
と言うのは、フリーランスの麻酔科医である筒井冨美氏である。
「しばしば目にするのは、高齢者の『高額療養費制度』を悪用した稼ぎ方です。日本の医療保険制度では、70歳以上で非課税世帯なら、月に8000円が外来で受ける治療の自己負担の上限になります。この制度を利用して、8000円を超えた分について不要な治療や検査を提供して儲けけている開業医がいるんです。
患者側としては、8000円以上はおカネがかからないのですから『治療受け放題』のようなもの。非課税世帯というと貧しい方を想像するかもしれませんが、判断基準が『所得』になっているので高齢者のなかには『資産は1億円なのに非課税』というような方もいる。そうした人たちを相手にするんですね。
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さらに、こうした患者さんをつなぎ止めるため、無料でモーニングコーヒーやパンのサービスを提供しているところもある。パンやコーヒーが楽しめ、一定額以上は無料で治療を受けられ薬が出る。しかもナースにも優しくしてもらえる……。レジャーランドのようになっている医療機関もあります。
もちろん不要な治療や検査によって医師の手元に入るおカネは、もとを正せば国民が支払った税金や健康保険料です。税金や保険料をチューチュー『しゃぶる』ようなやり方ですね」(筒井氏)
桑満おさむ氏は25年以上、東京都内で「五本木クリニック」を営むベテラン開業医だが、同業者たちのさまざまな「問題のある儲けけ方」を見てきたという。
「開業医のなかには医療界に大きく貢献している立派な先生がいる一方で、不必要な医療をおこない、自分の実力以上に儲けけている医師がボロボロいるのも事実です。
たとえば、患者さんの体の状態にかかわらず、診療所として儲けけが出るよう事前につくった『検査のコース』をこなしていく医師がいます。同じ検査を何度もつづけると怪しまれるので、最初は採血、つぎは心電図、つぎは心エコー検査……と、人間ドックをバラしたような『コース』を準備する。検査機器は高額ですから、購入費を急いで回収するために検査に走るのですね。理由がよくわからない検査があったら要注意です。
もっと悪質なところもある。たとえば、美容整形など公定価格が決まっていない『自費診療』がありますよね。それ自体はうちもやっていて真っ当な事業だと思いますが、なかには、自費診療で患者から報酬を得ているのに、さらに保険診療の報酬も受け取る、いわゆる『二重請求』をしている人もいる。これは明らかに違法です」
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一部の開業医が「儲けけ主義」になってしまう背景について、桑満氏はこう話す。
「あくまで『傾向』の話ですが、年齢が高くなってから診療所を始めた人は、どうしても初期投資を短い期間で回収するために儲けけを重視しがちになるのかもしれません。また同年代の医師で、年をとってから診療所を始めた人のなかには『長いあいだ大学病院勤務で疲弊してきたご褒美だ』と言う人もいました。
たしかに借金の返済など苦労はあるものの、一般的な水準、そして勤務医に比べれば、開業医が多くのおカネをもらっているのは間違いない。私は開業医と勤務医のあいだでもう少し収入の格差を縮めるよう、診療報酬のしくみを変えてもいいとも思います」
これだけの儲けけを得ている開業医だが、にもかかわらず、現在おこなわれている「診療報酬改定」では、さらなる「報酬アップ」を狙っている。
後編記事『「街の診療所の年収3000万円」でも、日本医師会は「さらなる給料アップ」を狙う…欲張りすぎるその生態』へ続く。
「週刊現代」2023年12月16日号より