入社早々、いじめやパワハラをしつこく受ける。しかも、1対1の「密室」が多い。加害者はわずか2歳上で、上司から受けのいい、きれいな女性社員。あなたが、その被害者ならばどうするか――。 今回は実際に起きた事例をもとに、職場で起きた問題への対処法について考えたい。本記事の前半で具体的な事例を、後半で人事の専門家の解決策を掲載する。事例は筆者が取材し、特定できないように加工したものであることをあらかじめ断っておきたい。
◆事例:密室でいじめを繰り返す、入社3年目の美人社員
この4月に中堅の倉庫会社(正社員数300人)に新卒で入った女性社員・岩井ゆり子(仮名・23歳)は、5月下旬に退職した。20代半ばの女性社員からのすさまじいパワハラに遭い、それを止めない会社に嫌気がさしたからだ。
新人研修では倉庫で1か月間、現場作業を学んだ。その時にマンツーマンで教わったのが、入社3年目の女性だった。いわゆる、ブラザー・シスター制度である。
女性は倉庫の所長や副所長には気を使い、きちんとした対応をする。色白の美人ということもあり、所長たちからの受けもいい。独り言が極端に多く、髪は太ももまで伸びていて、異様な雰囲気ではある。
◆女性上司「何度も同じことを言わせないで!」
この女性、岩井に対しては別人となる。1か月間で1度もあいさつをしない。1対1で話し合うときには、岩井の質問に「すでに教えたでしょう」と突き放す。実は教えていない。岩井が1日の作業を終え、倉庫内の掃除をすると、その後を舌打ちしつつ、掃除をする。岩井がそこの掃除を再びしようとすると「もういい!」と怒鳴る。
誰もいない会議室に呼び出し、岩井が書いた業務日誌を見て「何度も同じことを言わせないで! 教えたでしょう」と誤りを指摘し、脅す。日誌を放り投げることもあったが、実際は書き方を教えていない。
◆わずか1か月で辞めた理由は?
バカバカしくなった岩井は、研修の窓口である総務課長に一連のいじめを報告した。課長は驚いたが、岩井にも問題があるかのような返事をした。その後、課長は岩井の報告をそのまま女性に伝えたようで、女性から岩井へのいじめは一段とエスカレートした。所長や副所長、社員たちは見てみぬふりだった。
岩井は転職先は決まっていないが、5月に辞めた。その倉庫への配属が正式に決まったからだ。「また、あの女と組むことになる。耐えられない」。
わずか1か月で辞めたことで「トンデモ」と社内では言われている。3年目の女性は、何ら咎められることがない。今もブラザー・シスター制度の担当者として後輩を指導する。岩井の前に、ここ2年で3人の新入社員がわずか数か月で辞めている。いずれも、この女性がシスターだった。
◆取材:制度の運用の仕方に問題
大手士業系コンサルティングファーム・名南経営コンサルティング代表取締役副社長で、社会保険労務士法人名南経営の代表社員である大津章敬さんに取材を試みた。
大津氏は「ブラザー・シスター制度やメンター制度は新卒、中途を問わず、入社した人の早期離職を防ぎ、定着させるために一定の効果があります」と言いつつも、今回は運用の仕方に問題があったと指摘する。
「メンター制度がうまく機能している企業では、他部署の先輩社員をメンターとして選任し、実際の業務指導をする先輩社員と役割を分けていることが多いように感じます。メンターは新入社員が会社生活になじめるようなサポートや、場合によってはプライベートのアドバイスに徹することになります。

◆パワハラへの対処を間違った?
さらにもう1つの問題は、「入社3年目の女性の言動です」と大津氏は指摘する。
「例えば、新入社員の女性を会議室に呼び出し、激しく叱りつけるのはパワハラであり、問題視すべきです。なぜ、こういう行動をとったのか。この事例の情報だけでは正確に把握できませんが、新入社員の女性が仕事を覚えると、やがては自分を脅かす存在になると察したのかもしれません。
ハラスメントをする人の中には、仕事ができる人がいることも事実です。自分自身に求める仕事の水準が高いから、仕事のレベルが高くなる。それと同レベルを他人に求めることがあります。そのレベルに後輩や部下が達しないと、厳しく接することがありうるかと思います。
あるいは、パワハラをするような性格であるとか、自らの生活において何らかの課題を抱えており、ストレスがたまっているといった事情があるのかもしれません。しかし、会社は個々の社員の性格を変えることはできません。考えるべきは、新入社員が早々と辞めている、それも過去にも同じような形で退職者が数人いること。これらの事実に向き合うことです」
◆ブラザー・シスター制度の担当を外すべき
このような状況があるならば総務課として本人はもちろん、関係者にヒアリングをすべきだろう。大津氏もその通りだと首肯する。
「その問題行動が事実ならば、ブラザー・シスター制度の担当を外すべきでしょう。『パワハラを止めるように』と注意指導を繰り返したうえでの結果や状況いかんでは、配置転換もしくは退職勧奨などを検討することも可能性としてはありえます。
総務課長が新入社員の側にも問題があったと見ているようですが、この姿勢は確かに問題です。しかし、上司に気を遣う受けのいい社員ということですので、その先入観から判断を誤ってしまったのかも知れません。
総務課長の問題は新入社員の言い分を3年目の女性にそのまま伝えたことであり、この判断は完全な誤りでした。そして退職に追い打ちをかけたのは、新入社員の女性を3年目の女性と同じ部署(倉庫)に正式に配属をしたことでしょう。総務課や会社が日頃からアンテナを張り、3年目の女性の言動に敏感であったならば、こういう配属はしなかったように思います」
◆パワハラ社員をけん制する仕組み
大津氏は「いじめやパワハラをする社員をけん制する仕組みをつくったほうがよい」と語る。
「現在、法律ではハラスメント防止措置の一環として、ハラスメントの相談窓口の設置が求められていますが、それも加害者である社員をけん制する仕組みになります。退職者へのヒアリングもけん制になるはずです。会社として退職者に聞き取りをすると『パワハラを受けた』と言われるかもしれないと思い、そのような行動を止めるかもしれません。
ハラスメントは、結局は行動なのです。行動を確認し、事実ならば速やかに処置をするのが、解決のために最も基本的で、大切なアプローチです。“あの人のこういう性格がダメだ”ではなく、“あの人のこの行動に問題がある”と捉えるようにしたほうがよいでしょう。
これは、部下への指導にも言えます。『あなたの性格はこうだから、~なのだ』と部下の人格について指摘することはハラスメントとの指摘を受けやすく問題です。『あなたのこの言動がこういう具合に問題なのだ』とその行動を指摘すべきです」
◆取材を終えて:「私が会社員の頃に見た光景」

小中学校でも見かけるのではないだろうか。いじめをする生徒がいるが、教師はそれがわからない。わかっていても、厳しくは指導しない。結局、抗議の声が小さい、もしくは出さないおとなしい生徒が狙われ続ける。
職場に防犯カメラを設ける企業がある。その目的はさまざまだろうが、私はいじめやパワハラを防ぐためにも必要だと思う。とはいえ、男性の上司らは、きれいで、自分よりも職位やキャリアが上の人には素直な女性社員には厳しくは言えないのかもしれない。見えないいじめへの対策はつくづく難しい。
<取材・文/吉田典史>
【大津章敬(おおつあきのり)】1994年から社会保険労務士として中小企業から大企業まで幅広く、人事労務のコンサルティングに関わる。専門は、企業の人事制度整備・ワークルール策定など人事労務環境整備。全国での講演や執筆を積極的に行い、著書に『中小企業の「人事評価・賃金制度」つくり方・見直し方』(日本実業出版社)など。全国社会保険労務士会連合会常任理事
―[すぐに辞めた新入社員]―