62歳の男性は、いかなる理由で頭部を切断され、そして持ち去られねばならなかったのか。さる2日、札幌・ススキノで発生した殺人・遺体損壊事件。ラブホテルの一室で発見された妻子ある会社員には、表の顔のほか“知られざる一面”があった――。
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【写真を見る】「まるで女性」だった被害者の高校時代 札幌から南へ30キロほどの恵庭市に住む男性は1日、家族には行き先を告げないまま自家用車で札幌へと向かっていた。この日、市内のシティホテルでは「ディスコイベント」が催されており、男性は16時から22時まで、会場の喧騒を満喫していたという。

「イベント終了後、被害者は路上で女性の格好をした人物と合流し、250メートルほど離れたススキノのラブホテルに入ります。チェックインは23時前。日付をまたいで2日の午前2時頃、2階の部屋から女性とみられる声で『先に出ます』とフロントに連絡が入った。が、チェックアウト時刻を過ぎても退室せず、15時頃に部屋を訪ねた従業員が遺体を発見したのです」(全国紙デスク) 遺体は全裸のまま浴室にうずくまった格好で、頭部は切断されていた。争った際の「防御創」がなかったことから、不意をつかれたものとみられており、「首以外の刺し傷が致命傷で、頭部は死亡後に切断されたとみられています。被害者の携帯電話や衣類、財布など一切の所持品は見つかっていない。3日夜に家族が行方不明届を提出、指紋や手術痕が一致したことで身元が判明しました」(同)父と入れ替わるように転職 亡くなった男性は恵庭市内の石こうボードメーカーに勤務し、家族は妻と1男1女。知人によれば、「彼は苫小牧の工業高校を卒業し、道内の農機具メーカーに就職しました。仕事の研修で1年ほど米国に滞在し、帰国後は東京や旭川で勤務、その頃に奥さんと知り合ったと聞きました。お子さんが生まれてからは家族の体調が思わしくなかったこともあり、30年ほど前、両親が住む恵庭へ移ってきたのです」現場のラブホテル 当時、父親が勤めていた石こうボードメーカーに、退職する父と入れ替わるようにして転職したという。「男性は工場のレーンで製品に不純物が入らないよう管理する仕事に就いていました。ただ上昇志向というのか、小さなことでも『俺がやった仕事だ』と主張して周囲とぶつかるような振る舞いもありました」 とは、同社の関係者。“今度一緒に走ろう” 一方で先の知人は、「近くに住む両親はいずれも認知症を患って施設に入っており、彼やお姉さん夫婦が時々、実家の掃除に来ていました。先月も、生垣の剪定(せんてい)をする彼の姿を見かけました」 最近では、休日に趣味のバイクを手入れする姿も見られていた。高校時代の同級生によれば、「男性は当時から原付に乗っていて、4年前にも『アクセスサッポロ』で開催されたバイクフェアで会いました。“ネイキッドバイクが好きで一人で走っている”と言うから“今度一緒に走ろう”と誘ったのですが、その機会はありませんでした」「あまりにお尻と脚がきれいだったので…」 そうした暮らしにあって、男性には家族に秘めた“もう一つの趣味”があった。今回のイベントでは銀色のへそ出しコスチュームでマニキュア、メイクを施すなど「女装」で参加する姿が目撃されていたのだ。「70~90年代の音楽を聴きながら踊るイベントで、コロナの影響もあって開催は4年ぶりでした」 とは、当日参加した40代の女性である。「会場はホテル5階のイベントスペース。DJブースの前がダンスフロアで、それを挟むようにお立ち台が二つありました。音楽はユーロビートから70年代のソウル、『ナイト・オブ・ファイヤー』というパラパラの代表曲もかかっていました」 参加者は50~60代がメインで、ボディコンやバレエのチュチュを着た女性からドラァグクイーンまで色とりどり。中でも、男性は際立っていたという。「ロビーでお酒を手に談笑しているのを見かけました。面識はなかったのですが、ブリーフパンツ姿で電飾をつけたリュックが光っていて、ひときわ派手だったのを覚えています」(同) 別の女性も、「お立ち台でリズムに合わせて踊る彼の姿を間近で見ましたが、あまりにお尻と脚がきれいだったので、最初は女性なのかと見間違えました。『NASA』のワッペンをつけたコスチュームは宇宙飛行士をモチーフにしていて、背中のリュックは生命維持装置を模したのかなと思いました」捜査は難航 そのいでたちもあって、男性の周囲には常に参加者が群がっていたといい、「お立ち台を離れて小さなフロアに移った時、あごのラインや肩幅、170センチ以上ある身長からようやく男性だと気付きました。詰め物を入れたらしい胸の膨らみも、終盤では微妙にズレていましたね」(同) 束の間の非日常を味わった後、男性は週明けの3日には通常通り出勤する予定になっていた。先のデスクが言う。「現在、札幌中央署の捜査本部は異例の240人態勢を組んでいます。犯人はディスコイベントの参加者ではないとみられますが、今回に限らず男性は、週末にしばしばススキノまで“遠征”して飲食店などのイベントに参加しており、SNSなどでの交友関係を洗う作業が困難を極めている。また、被疑者の足取りも防犯カメラで追い切れておらず、閉塞感が漂っています」 男性の3歳上の姉を訪ねると、その夫が代わりに、「妻は体調を崩して出られません。警察からも、何も聞いていないのです……」 言葉少なに、そう答えるばかりだった。「週刊新潮」2023年7月20日号 掲載
札幌から南へ30キロほどの恵庭市に住む男性は1日、家族には行き先を告げないまま自家用車で札幌へと向かっていた。この日、市内のシティホテルでは「ディスコイベント」が催されており、男性は16時から22時まで、会場の喧騒を満喫していたという。
「イベント終了後、被害者は路上で女性の格好をした人物と合流し、250メートルほど離れたススキノのラブホテルに入ります。チェックインは23時前。日付をまたいで2日の午前2時頃、2階の部屋から女性とみられる声で『先に出ます』とフロントに連絡が入った。が、チェックアウト時刻を過ぎても退室せず、15時頃に部屋を訪ねた従業員が遺体を発見したのです」(全国紙デスク)
遺体は全裸のまま浴室にうずくまった格好で、頭部は切断されていた。争った際の「防御創」がなかったことから、不意をつかれたものとみられており、
「首以外の刺し傷が致命傷で、頭部は死亡後に切断されたとみられています。被害者の携帯電話や衣類、財布など一切の所持品は見つかっていない。3日夜に家族が行方不明届を提出、指紋や手術痕が一致したことで身元が判明しました」(同)
亡くなった男性は恵庭市内の石こうボードメーカーに勤務し、家族は妻と1男1女。知人によれば、
「彼は苫小牧の工業高校を卒業し、道内の農機具メーカーに就職しました。仕事の研修で1年ほど米国に滞在し、帰国後は東京や旭川で勤務、その頃に奥さんと知り合ったと聞きました。お子さんが生まれてからは家族の体調が思わしくなかったこともあり、30年ほど前、両親が住む恵庭へ移ってきたのです」
当時、父親が勤めていた石こうボードメーカーに、退職する父と入れ替わるようにして転職したという。
「男性は工場のレーンで製品に不純物が入らないよう管理する仕事に就いていました。ただ上昇志向というのか、小さなことでも『俺がやった仕事だ』と主張して周囲とぶつかるような振る舞いもありました」
とは、同社の関係者。
一方で先の知人は、
「近くに住む両親はいずれも認知症を患って施設に入っており、彼やお姉さん夫婦が時々、実家の掃除に来ていました。先月も、生垣の剪定(せんてい)をする彼の姿を見かけました」
最近では、休日に趣味のバイクを手入れする姿も見られていた。高校時代の同級生によれば、
「男性は当時から原付に乗っていて、4年前にも『アクセスサッポロ』で開催されたバイクフェアで会いました。“ネイキッドバイクが好きで一人で走っている”と言うから“今度一緒に走ろう”と誘ったのですが、その機会はありませんでした」
そうした暮らしにあって、男性には家族に秘めた“もう一つの趣味”があった。今回のイベントでは銀色のへそ出しコスチュームでマニキュア、メイクを施すなど「女装」で参加する姿が目撃されていたのだ。
「70~90年代の音楽を聴きながら踊るイベントで、コロナの影響もあって開催は4年ぶりでした」
とは、当日参加した40代の女性である。
「会場はホテル5階のイベントスペース。DJブースの前がダンスフロアで、それを挟むようにお立ち台が二つありました。音楽はユーロビートから70年代のソウル、『ナイト・オブ・ファイヤー』というパラパラの代表曲もかかっていました」
参加者は50~60代がメインで、ボディコンやバレエのチュチュを着た女性からドラァグクイーンまで色とりどり。中でも、男性は際立っていたという。
「ロビーでお酒を手に談笑しているのを見かけました。面識はなかったのですが、ブリーフパンツ姿で電飾をつけたリュックが光っていて、ひときわ派手だったのを覚えています」(同)
別の女性も、
「お立ち台でリズムに合わせて踊る彼の姿を間近で見ましたが、あまりにお尻と脚がきれいだったので、最初は女性なのかと見間違えました。『NASA』のワッペンをつけたコスチュームは宇宙飛行士をモチーフにしていて、背中のリュックは生命維持装置を模したのかなと思いました」
そのいでたちもあって、男性の周囲には常に参加者が群がっていたといい、
「お立ち台を離れて小さなフロアに移った時、あごのラインや肩幅、170センチ以上ある身長からようやく男性だと気付きました。詰め物を入れたらしい胸の膨らみも、終盤では微妙にズレていましたね」(同)
束の間の非日常を味わった後、男性は週明けの3日には通常通り出勤する予定になっていた。先のデスクが言う。
「現在、札幌中央署の捜査本部は異例の240人態勢を組んでいます。犯人はディスコイベントの参加者ではないとみられますが、今回に限らず男性は、週末にしばしばススキノまで“遠征”して飲食店などのイベントに参加しており、SNSなどでの交友関係を洗う作業が困難を極めている。また、被疑者の足取りも防犯カメラで追い切れておらず、閉塞感が漂っています」
男性の3歳上の姉を訪ねると、その夫が代わりに、
「妻は体調を崩して出られません。警察からも、何も聞いていないのです……」
言葉少なに、そう答えるばかりだった。
「週刊新潮」2023年7月20日号 掲載