ニュースなどでよく取り上げられる人手不足問題。工事現場からレストランまで、あらゆる分野で人材確保が課題となっています。今回は、とある医療機関の事務スタッフに派遣された女性が起こしたエピソードを紹介します。 都内のとある病院で医療事務長として勤務している雅也さん(仮名・35歳)は、日々多忙な毎日とのこと。
◆猫の手も借りたい医療事務の現場
「うちの病院の周辺には高齢者の方も多く住んでいらっしゃるので、毎日患者さんであふれかえっている状態なんです。それこそ昼食を食べる暇もないことがしょっちゅうあります。最近では激務で体を壊してしまう社員も時にいるほどです」
そんな猫の手も借りたい毎日を過ごしていたある日、ようやくHさん(29歳)という女性の派遣スタッフが職場に配属されることになったそうです。
「いやぁ、あの時は本当に助かったという気持ちでいっぱいでした。というのも、当時はコロナ禍真っただ中ということもあって、現場の医療ひっ迫が続いていたんです。1人でも多くの戦力が必要だったので、事務全体が歓迎ムードでした」
◆待望の派遣社員はもしかして…
ところが、雅也さんは出勤日初日のHさんのいでたちに驚きを隠せなかったといいます。
「制服こそ着ていましたが、左手に手引書、右手にアイスコーヒーを持って出社してきたんです。おまけに病院では場違いなケバいメイクと、必要以上にウェーブのかかったヘアスタイルと、そのルックスは一瞬言葉を失ったほど奇抜なものでした。私は、開始早々彼女を別室に呼んで改めるように注意しました」
初日はなんとか終了したそうですが、勤務2日目のHさんにまたもや驚かされます。
「メイクは多少大人しくなっていたのですが、大切な書類を汚す恐れがあるという理由で持ち込み禁止を伝えたアイスコーヒーの代わりにキャラメルマキアートを片手に職場に現れたんです。あきれながらも再度言葉で注意すると『アイスコーヒーがだめだと思ったから他の種類に変えた』と、真顔で返してきたんです。コレ、絶対にハズレだと思いましたよ」
◆スタッフ同士が取っ組み合いのケンカ
そうあきれたように話す雅也さん。派遣会社を呼びつけて厳重に抗議を行おうとすると、その最中、とんでもないことが勃発します。
「飛んできた担当者は『やっぱりそうでしたか……人材が不足してまして』と、平謝り状態。なんとなく確信犯的な印象さえ受けました。今後のことについて話を進めようとした時、突然受付の方から女性の悲鳴が聞こえてきたんです。すぐに見にいったら、なんとHさんとウチの事務主任の女性とが取っ組み合いのケンカをしているんですよ」
聞こえてきた女性の悲鳴は、2人のケンカを目の当たりにした待合室の患者の声だったそうです。
「しかもその患者さんは激しく動揺して、110番をしてしまったらしいんですよね。それで警察までやってきてしまう始末でした。ケンカの原因も女性主任がHさんにちょっとした注意をしたところ、激高して掴みかかってきたみたいです。あの時は本当に大変でしたよ」
◆派遣会社に頼ることがトラウマに
その後、病院スタッフ総出でなんとかその場を沈め、警察にも事情を話し退散してもらいます。当然のことながら、Hさんを派遣した会社とは契約を解除します。ただ、今回の騒動で事務主任も精神的に参ってしまい、職場の人手不足はより深刻になったといいます。
「事務主任が不在になったのは大きな痛手でしたね。おかげで、その穴埋めを私が自ら行わなければならず……。いつまでも私がヘルプに入ることもできませんし、人手不足解消を目的として派遣さんを募ったのに、ほんと本末転倒すぎますよ。今度は私のメンタルがやられそうです」
うんざりした様子で話す雅也さん。ただ、今回の件以降派遣会社に頼ることがトラウマになり、既存スタッフで業務が回せないか、いろいろ試行錯誤しているのだとか。
「ここだけの話、正直ここの職場を続ける自信が最近日を追うごとになくなってきているんですよ。理事長には管理不足だと言われるし、事務職員には人の増員ばかり懇願されるし……。管理職に向いていないのかもしれませんね」
<TEXT/ベルクちゃん>
―[すぐに辞めた新入社員]―