お笑いコンビ「インパルス」の堤下敦さん(45)が、睡眠導入剤を服用した後、車を運転したとして、道交法違反の疑いで書類送検された。過去にも同様の事故を起こし、悪質なのは確かなのだが、驚いたことに、警視庁は「厳重処分」の意見をつけて、刑事処分の判断を検事に委ねた。その意味合いを探った。
堤下さんは、今年6月14日、東京・世田谷区桜丘の世田谷通りで、服用していた睡眠導入剤の影響により、正常な運転ができない恐れがある状態だったにもかかわらず、普通乗用車を運転した疑いがもたれている(道路交通法66条・過労運転等の禁止)。
当時、堤下さんは、車を運転中に、コンビニエンスストアの看板に衝突。その後、ガードパイプにもぶつかる物損事故を起こしていた。
調べによると、事故の様子を目撃した人は、「向かいのコンビニからまっすぐ走ってきた。ぶつかって意識がもうろうとした状態だった」と話していたという。警察官が駆け付けた際、堤下さんは、一人で立てないほど、ふらついていたとのこと。
呼気検査を行ったところ、アルコールは検出されず。睡眠導入剤が車内から見つからなかったため、警視庁では、救急車を要請したという。何らかの病気が疑われるケースだ。しかし、堤下さんは、これを拒否。自分で呼んだ知人男性の車で帰宅したとのこと。
事故から4日後の6月18日、世田谷署で事情聴取が行われた。その際、堤下さんは、クリニックで処方されている複数の睡眠導入剤を持参。そして、「事故発生当日の早朝に、睡眠導入剤を服用して、いったん就寝し、その日の午後に事故を起こしてしまった」と説明。
その上で、「事故当時に、意識がもうろうとしていた原因は、当日に飲んだ睡眠導入剤などの影響で、眠気を催してしまったからだ」と話したという。要は、道交法違反の容疑を認めたことになる。ところが、それから17日後の7月5日に行われた事情聴取では、一転、容疑を否認したという。
堤下さんは、6月下旬に倒れて、病院に運ばれた際、医師から”てんかん”の疑いがあると診断されたとのこと。このため、今回の事故についても「てんかんが原因ではないか」などと主張し始めたというのだ。
しかし、警視庁が、当該の病院から話を聴いたところ、堤下さんは、睡眠導入剤を服用していることを、医師に告げていなかったことが判明。その医師は、捜査員に対して、「内服薬を飲んでいないと聞いていた。薬を服用していると分かっていれば、てんかん疑いの診断は出さなかった」と話したという。
なぜ、堤下さんが、睡眠導入剤服用のことを、医師に告げなかったのかは分かっていない。
冒頭に述べたとおり、警視庁は、書類送検に伴い、起訴を求める「厳重処分」の意見をつけた。そもそも、書類送検に伴う処分意見には4つの種類がある。厳重処分の他に、検事に処分を一任する「相当処分」、起訴猶予がふさわしい時の「寛大処分」、不起訴を求める「しかるべき処分」だ。
今後、堤下さんに対する刑事処分を決めるのは担当検事だが、「厳重処分」の意見に沿えば、在宅起訴されて、公の法廷で審理されることも有り得る。ただ、堤下さんが起こしたのは、人身事故ではなく、物損事故だ。ケガ人はいない。
服用していたのも、違法薬物ではなく、正式に処方された睡眠導入剤だ。確かに、堤下さんは、2017年にも睡眠導入剤を飲んで車を運転して事故を起こし、略式起訴されている。今回の事故も含めて、都内と神奈川県で、合わせて3回の交通事故を起こしているという。
それでも、前回の事故は5年も前の話。”常習”とも言えないだろう。本当に起訴されるのか?略式起訴の罰金”増額”がふさわしいのでは?とも思われるのだが。なぜ、「厳重処分」の意見が付いたのか。”懲りない男”の容疑否認に、警視庁が断固たる態度で臨んだ可能性もある。さて、東京地検の判断はどうなるのか。
(フジテレビ報道局・解説委員 平松秀敏)