60代のスマートフォン所有率が2022年に90%を超えた。ガラケー所有が多かった高齢者だが、60代では2018年、70代では2019年にガラケーをスマホが上回る逆転が起きている(NTTドコモ調査)。スマホを手にし、その手軽な操作性の魅力にとらわれた彼らの一部には、便利さを自分のわがままな欲望の発露にも利用する不届き者が出現し、周囲を困惑させているようだ。ライターの森鷹久氏が、スマホでハイになった中高年男性によって起きているトラブルについてレポートする。
【写真】3G回線サービスの終了 * * * ほんの少し前まで、中高年が所有している携帯といえば「ガラケー」というイメージが根強かった。しかし、2001年に始まり長らく携帯電話で利用されてきた3Gサービスの終了が始まった。一度機種変更すると、長く使用するユーザーが多いこともあり、利用されているガラケーの多くは3G対応のため、これをきっけかにとガラケーからスマホへ乗り換えるキャンペーンを各携帯キャリアもすすめている。そのキャンペーンの成果なのか、電車の中で、難しい顔をして、慣れない手つきでスマホを操作する初老のお父さんの姿をよく見かけるようになった。そして、目新しい物を手にすると、いろいろなことに試してみたくなるのも人間の性。しかし、スマホをゲットした中高年、とくにおじさん、おじいさんの行動が目に余るという声があがっている。「相手は楽しく酔ったお客さんですから、店員としてはお願いされると断れないんですよね」 こう話すのは、神奈川県内の飲食店アルバイト・本多紗衣さん(仮名・20代)。この数年で、中高年の常連客が次々にガラケーからスマホに買い換え、それを自慢してくるのだという。いや、自慢だけならよい。それ以上に苦痛なのは「記念に写真を撮ろう」と迫られる機会が激増していることだ。「新しいスマホを買った、まではいいんですが、カメラの画質がきれい、ビデオも撮れる、そしてなぜか”せっかくだから一緒に写真を撮ろう”となってしまうんです。みなさん常連さんが多いですから、悪用される心配は無いかなと思いますが、誰に見られるかもわからずやっぱり気持ち悪い。でも、断ると悪いから応じています」(本多さん) 一人を許せば、他の常連達も「俺も撮ってくれ」と順番待ちになることも。そして、肩を抱いてきたり酒臭い息を吹きかけられたりと散々な目にあったが、他の女性従業員も同様の被害を受けていたことから店長に相談。店長がそのような現場を目撃した際には注意してくれるようになり、以降は被害も少なくなったというが、本多さんたちは「いたずら好きな子供にスマホを持たせるよりもたちが悪い」と憤る。 相手のことを考えない、もしくは相手も「楽しいに違いない」と勘違いしたおじさん達の言動にはあきれるばかりだが、この手のタイプは撮影した写真を逐一SNSにあげる傾向も強い。本多さんの写真をアップしていたある常連客のSNSには、客と本多さんのツーショット写真のコメント欄に、知人達からのとんでもないコメントが多数寄せられていたのだ。「彼女? とか、風俗の子? とまで書かれていて驚きました。常連さんも、俺の女とかふざけたことを書いていてとても不快でした。誰もが見られるSNSに書き込んでいることをわかっていないんです、本当に気持ち悪い」(本多さん) そして幅広い年代の女性複数に話を聞いた結果、「スマホ×おじさん」に関するトラブルで一番多いのは「盗撮」である。本多さんのように「写真を撮ろう」と誘われるだけならまだマシ、と感じる程、実に多くの女性が「おじさんにスマホで盗撮された」と語ってくれたが、その瞬間を筆者も目撃したことがある。 電車内で座席前に立っていたサラリーマン風のスーツ姿のおじさんが、目の前に座る女性をスマホで堂々と撮影していたのだ。通常、スマホで写真を撮影するとパシャリという効果音が鳴り響くが、そのおじさんのスマホは音がしなかった。とはいえ、スマホに撮影画像の確認画面が表示されているのが筆者からも見える。自分のスマホに夢中で気づかない女性の顔を何枚も撮影していたが、間違いなく無断撮影だろうと分かった。見かねてさすがに声をかけ、サラリーマンは次の駅で逃げるように降りていったが、筆者が知人との二人連れではなく一人だったとしたら、声をかける勇気を持てたか定かではない。 日本向けのスマホにだけ、カメラで撮影時に「音」が鳴る仕様となっているのは盗撮が多いから、などと言われているが、その理由を目の当たりにしてしまった。実際、そのサラリーマンも「音が出ないカメラ」アプリを使用していたようだ。 千葉県在住の調理師・酒井なおみさん(仮名・30代)は、週に何度も「盗撮された」と思うことがあると言う。なぜ気がついたのかと聞くと、気味が悪い体験を語ってくれた。「電車内で立っていると、目の前に座っていたおじさんが、スマホをこちらに向けて操作し始めたんです。撮影されていないか不安だったんですが、撮影しているかどうかわからず文句も言えない。かといって、混雑していて他の場所に移動できず、我慢して立っていたんです」(丸井さん) ちょうどその日は曇り気味で、夕方の早い時間にもかかわらず外は真っ暗。丸井さんがふと車窓に目をやると、目の前に座る男性のスマホの画面が反射していて、そこに丸井さん自身の姿が映っていたのだ。「思わずあっと声を上げて、スマホを取りあげました。周りにいた人たちも協力してくれて、次の駅でおじさんを駅員に引き渡しました。盗撮の余罪がボロボロ出てきて、書類送検されたと聞いています」(丸井さん) スマホの進化はあまりにも早い。テレビを見るのも音楽を聴くのも写真を撮るのも、全てスマホ一台でできるようになったのは、本当に驚くべき事でもある。しかも、特に面倒なマニュアルを読まずとも、感覚で操作できるようにつくられている。しかし、折角の技術を自身の欲望のために、そして他人を不幸にするために使用しているのなら、いっそのこと取りあげるか、ぜひガラケーのままでいて欲しいと思わずにいられない。
* * * ほんの少し前まで、中高年が所有している携帯といえば「ガラケー」というイメージが根強かった。しかし、2001年に始まり長らく携帯電話で利用されてきた3Gサービスの終了が始まった。一度機種変更すると、長く使用するユーザーが多いこともあり、利用されているガラケーの多くは3G対応のため、これをきっけかにとガラケーからスマホへ乗り換えるキャンペーンを各携帯キャリアもすすめている。そのキャンペーンの成果なのか、電車の中で、難しい顔をして、慣れない手つきでスマホを操作する初老のお父さんの姿をよく見かけるようになった。そして、目新しい物を手にすると、いろいろなことに試してみたくなるのも人間の性。しかし、スマホをゲットした中高年、とくにおじさん、おじいさんの行動が目に余るという声があがっている。
「相手は楽しく酔ったお客さんですから、店員としてはお願いされると断れないんですよね」
こう話すのは、神奈川県内の飲食店アルバイト・本多紗衣さん(仮名・20代)。この数年で、中高年の常連客が次々にガラケーからスマホに買い換え、それを自慢してくるのだという。いや、自慢だけならよい。それ以上に苦痛なのは「記念に写真を撮ろう」と迫られる機会が激増していることだ。
「新しいスマホを買った、まではいいんですが、カメラの画質がきれい、ビデオも撮れる、そしてなぜか”せっかくだから一緒に写真を撮ろう”となってしまうんです。みなさん常連さんが多いですから、悪用される心配は無いかなと思いますが、誰に見られるかもわからずやっぱり気持ち悪い。でも、断ると悪いから応じています」(本多さん)
一人を許せば、他の常連達も「俺も撮ってくれ」と順番待ちになることも。そして、肩を抱いてきたり酒臭い息を吹きかけられたりと散々な目にあったが、他の女性従業員も同様の被害を受けていたことから店長に相談。店長がそのような現場を目撃した際には注意してくれるようになり、以降は被害も少なくなったというが、本多さんたちは「いたずら好きな子供にスマホを持たせるよりもたちが悪い」と憤る。
相手のことを考えない、もしくは相手も「楽しいに違いない」と勘違いしたおじさん達の言動にはあきれるばかりだが、この手のタイプは撮影した写真を逐一SNSにあげる傾向も強い。本多さんの写真をアップしていたある常連客のSNSには、客と本多さんのツーショット写真のコメント欄に、知人達からのとんでもないコメントが多数寄せられていたのだ。
「彼女? とか、風俗の子? とまで書かれていて驚きました。常連さんも、俺の女とかふざけたことを書いていてとても不快でした。誰もが見られるSNSに書き込んでいることをわかっていないんです、本当に気持ち悪い」(本多さん)
そして幅広い年代の女性複数に話を聞いた結果、「スマホ×おじさん」に関するトラブルで一番多いのは「盗撮」である。本多さんのように「写真を撮ろう」と誘われるだけならまだマシ、と感じる程、実に多くの女性が「おじさんにスマホで盗撮された」と語ってくれたが、その瞬間を筆者も目撃したことがある。
電車内で座席前に立っていたサラリーマン風のスーツ姿のおじさんが、目の前に座る女性をスマホで堂々と撮影していたのだ。通常、スマホで写真を撮影するとパシャリという効果音が鳴り響くが、そのおじさんのスマホは音がしなかった。とはいえ、スマホに撮影画像の確認画面が表示されているのが筆者からも見える。自分のスマホに夢中で気づかない女性の顔を何枚も撮影していたが、間違いなく無断撮影だろうと分かった。見かねてさすがに声をかけ、サラリーマンは次の駅で逃げるように降りていったが、筆者が知人との二人連れではなく一人だったとしたら、声をかける勇気を持てたか定かではない。
日本向けのスマホにだけ、カメラで撮影時に「音」が鳴る仕様となっているのは盗撮が多いから、などと言われているが、その理由を目の当たりにしてしまった。実際、そのサラリーマンも「音が出ないカメラ」アプリを使用していたようだ。
千葉県在住の調理師・酒井なおみさん(仮名・30代)は、週に何度も「盗撮された」と思うことがあると言う。なぜ気がついたのかと聞くと、気味が悪い体験を語ってくれた。
「電車内で立っていると、目の前に座っていたおじさんが、スマホをこちらに向けて操作し始めたんです。撮影されていないか不安だったんですが、撮影しているかどうかわからず文句も言えない。かといって、混雑していて他の場所に移動できず、我慢して立っていたんです」(丸井さん)
ちょうどその日は曇り気味で、夕方の早い時間にもかかわらず外は真っ暗。丸井さんがふと車窓に目をやると、目の前に座る男性のスマホの画面が反射していて、そこに丸井さん自身の姿が映っていたのだ。
「思わずあっと声を上げて、スマホを取りあげました。周りにいた人たちも協力してくれて、次の駅でおじさんを駅員に引き渡しました。盗撮の余罪がボロボロ出てきて、書類送検されたと聞いています」(丸井さん)
スマホの進化はあまりにも早い。テレビを見るのも音楽を聴くのも写真を撮るのも、全てスマホ一台でできるようになったのは、本当に驚くべき事でもある。しかも、特に面倒なマニュアルを読まずとも、感覚で操作できるようにつくられている。しかし、折角の技術を自身の欲望のために、そして他人を不幸にするために使用しているのなら、いっそのこと取りあげるか、ぜひガラケーのままでいて欲しいと思わずにいられない。