ライブ配信中の女性がメッタ刺しされ、亡くなっていく姿をファンの視聴者が目撃する……。ひと昔前なら想像もつかない凄惨な事件が起きたのは今年3月11日午前中のこと。現場は東京都新宿区のJR山手線高田馬場駅すぐ脇の路上。被害者の「最上あい」こと佐藤愛里さん(当時22歳)と栃木県小山市在住の被告の中年男は、配信者とファンであり、深刻な金銭トラブルを抱えていた。
【画像】「数万いける?」佐藤さんが高野被告に送ったLINE
この事件で現行犯逮捕された高野健一容疑者(43)は約2か月の鑑定留置を経て刑事責任能力があると判断され、東京地検が5月29日、殺人罪などで起訴した。
佐藤さんは山形市出身、キャバクラなどで働いていたシングルマザーで、ライブ配信アプリ「ふわっち」では愛くるしいキャラクターで人気を博していた。
高野被告は動画配信のファンでもあり、佐藤さんの働くキャバクラにも客として訪れるなど関係を深め、いつしか一方的に金を貸す存在になっていった。
集英社オンラインでは事件当時、♯1~♯8で詳報したが、この貸借関係がこじれて高野被告は宇都宮地裁栃木支部に251万4800円の貸金返還請求訴訟を起こすなど生活にも困窮。訴訟では支払命令が出たが、佐藤さんは3万円を返したのみ。一方で投げ銭を稼ぐためにライブ配信を続けていた。
そして、「所属事務所社長」なる“フィアンセ”とタワーマンションに住んで豪奢な生活を送る様子をSNSに投稿。これを見て、「余裕があるならお金を返して」とDMを送った高野被告だが相手にされなかった。高野被告の知人がこう証言していた。
「健さんは最上さんとフィアンセが一緒に運営しているSNSのアカウントにDMを送ったんです。『お金を返してください。貸すために借りた消費者金融の借金でもうマイナスで生活ができません。どうにかして1万円だけでも返してくれませんか』って。でも、それも無視されたって言っていました。
ここ最近は(健さんは)『薬をけっこう飲んでしまって一日中寝ちゃってた』とも言っていたし、犯行直後の健さんの顔もSNSで見ましたが目に光がなくて……。事件の前日の夕方、健さんからLINEが来ていて、モンスターハンターで自分の“お気に入り”のキャラクターを送ってくれたんです。それが、健さんが送ってくれた最後のLINEでした……」
そして3月11日、佐藤さんは予告通り、ふわっちで「山手線徒歩一周」のライブ配信を始めた。視聴者から贈られた課金アイテム100個ごとにサイコロを振り、出目に応じて「駅前でダンス」「1駅戻る」「1駅ワープ」などをする予定だった。
しかし、高野被告がサバイバルナイフを振りかざし、佐藤さんは30ヶ所以上を刺されて死亡した。
凄惨な事件から8ヶ月余。春から夏、秋を経て冬に差し掛かった栃木県小山市の高野被告の実家を訪れた。父親と思しき男性は「答えられませんのでお帰りください」と話を遮るようにインターフォンを切った。
近くに住む女性は両親を気遣うようにこう語った。
「お父さん、お母さんは時々見かけて挨拶はされますが、これまでとお変わりないですよ。もともとご自身たちのお話をする感じの方たちでもないですし、健一さんの話をしていたこともありませんでしたから。私たちの方から事件について尋ねるようなこともいたしませんのでね……」
中学時代の同級生の女性は、当時の高野被告の印象と凄惨な事件が結びつかないようだった。
「ああ。事件のことですか。最初に報道を見た時はまったく高野君と気づきませんでした。ライブ配信中に映り込んだ男性をネットで見ましたがなんか凶悪な感じでしたし……。
中学時代はおとなしく、きゃしゃな可愛らしい感じで、学校で誰かに暴力をふるったとかそんな話もいっさいありませんでしたから。目立つタイプではなく、事件が起きて卒業アルバムを見てそれで私も存在を思い出したくらいです。だから、あの高野君が犯人とわかってとても驚きました」
他の同級生もみな似たような印象を持っていたという。そして女性は、高野被告の追い詰められた心境をこう思いやった。
「夏ごろに中学校の同窓会に30人くらいが集まって、自然と事件の話題になりました。被害者の方にはお悔やみ申し上げるしかありませんが、同級生のみんなは高野君のことを心配していました。高野君と仲の良かった同級生も『優しくておとなしくていいやつだった高野があんなことするなんて、よっぽど追い詰められたんだろうな』って言っていました。
人と争うというのとは無縁な印象しかありませんし、それだけに『利用されてお金とられてもうどうすることもできなかったのかもな』とみんな同情的でした。酷い事件だし、絶対にやってはいけないことだとは思うのですが、それはそうなんですけどね……」
フィアンセがいた東北出身のシングルマザーのライバーと、気弱な北関東の中年男。気弱な北関東の中年男。東京で起きた惨劇の実相は、今後の公判でさらに明らかにされるだろう。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班