子供を作らず、さまざまな理由から2人きりの生活を選んだ夫婦がいます。身体的・経済的な状況、年齢とキャリア。幾重にも重なる要因が、夫婦の決断を左右するでしょう。しかし、時が経ち状況が変化したとき、一度は下したはずの結論が再び揺らぐことも……。本記事ではAさんの事例とともに、現代社会の夫婦の実情を社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が深掘りします。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
Aさん夫婦は、共働きです。26歳で結婚。当初は「2人とも子供が好きだし、家族が増えると楽しいよね」と話をしていました。妻は30歳までに子供を産んで、仕事に復帰したいと考えていました。
しかしながら、妊活を行うもなかなか授かることができず、同僚や友人に妊活していると笑いながら話していた妻は、しだいに笑顔が消えていきます。「夫婦どちらかに問題があるのでは? 一度病院で検査してもらおう」といいました。Aさんが「検査や不妊治療はしたくない。子供がいなくてもいいじゃないか」と答えると、妻は「もうすぐ私は35歳。高齢出産になると、身体的負担が心配なため、今年が最後のチャンスかもしれない」といって引き下がりません。
Aさんは、不妊治療に対する経済的負担や治療に対する偏見もあり、子供ができなくても2人でいつまでも恋人同士のように過ごすのも悪くないだろうと妻に諭します。
「そこまで夫がいうなら……。子のいない夫婦で2人の生活を楽しむことにしよう」妻も自分をなんとか納得させました。
2021年国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」では、予定する子供数が1人の割合は15.0%、「子供は持たない」を含めた予定子供数が1人以下の夫婦が全体の2割を超えています。いまを充実させ楽しく過ごすことを考えようと、平日は仕事に没頭し、休みの日は趣味のゴルフをしたり、温泉に行ったりと夫婦2人の時間を楽しむことにしました。
Aさんは営業職で大きな商談が複数件決まり、40歳のころには年収1,000万円を超えました。妻の収入と合わせると世帯年収は1,600万円となり、俗にいうパワーカップルです。
ある日、温泉旅行を楽しんでいたところ、夫から提案がありました。「以前は収入が少なく経済的に苦労するだろうと、子供がいない生活を選んだが、ここまで出世できるとは思わなかった。いまからでも遅くないと思う。やっぱり子供が欲しい」というのです。このとき妻は39歳、初産が40歳以上は高齢出産の中でも、母体と胎児の両方にリスクが伴う可能性があるといわれています。20代のときの妊活も上手くいかなかったことを考えるといまさら、子供が欲しいといいだす夫に妻は驚きを隠せません。
「子供を持たない夫婦でいようと、諦め前向きに考えたのはなんだったのか……」妻はやりきれない思いを感じました。
Aさんは妻に内緒で検査をしました。自分には子供を作るのに身体的な異常がなく、いまからでも遅くないといいます。さらに、妻に検査をしてみてはどうかと勧めました。経済的な問題はないから必要であれば不妊治療をしようと持ちかける始末。
妻は子供を諦めてから、仕事に没頭し、のってきたところ。いまでは支店の支店長代理となり将来的には支店長と、キャリアアップをしたいと考えていたのです。
「経済的な負担が解消されても私(妻)の身体的、精神的な負担はどうでもいいのか」という妻に、Aさんは、「いまは晩婚が増えていることもあり、高齢出産は珍しくないし、不妊治療にいい病院を探すから頑張ろう」というのです。
同調査によると、不妊を心配したことのある夫婦は39.2%と増加(3組に1組以上)。実際に不妊の検査・治療を受けたことがある夫婦の割合も、22.7%に増加しています(4.4組に1組)。
どうやら再熱した子供の問題を妻は受け入れられないようです。夫は子供を諦める様子がなく、話し合いは平行線に。
妻が子供を諦めた35歳時は、とてもつらい時期でした。当時の夫の言葉が支えとなり、子のいない夫婦を望んだはずでした。妻はもともと生理痛が酷く、婦人科で検査したところ、子宮内膜症と診断されました。医師に妊娠できないとはいわれませんでしたが、妊娠率が低下し、不妊を引き起こす原因となるといわれていました。
精神的、身体的につらくなった妻の決断は……。夫は40歳。まだまだ子供を作るのに遅くはない年齢です。妻は高齢出産できるかもしれません。しかし身体的な問題、仕事の事情、そして当時は子供を望まなかった夫が急変したことによる精神的な負担から選んだ道は、離婚でした。
Aさん夫婦にとって子供の問題は、夫婦関係の継続を左右する問題となり、お互いの主張を譲れなかったようです。Aさん夫婦は、それぞれ新たな道を進むことにしました。
司法統計からみた離婚の動機について、男女とも「性格の不一致」がトップとなっています。
Aさんの離婚に至ったケースから、夫婦にとって「自分の子供が欲しい」という考え方は、経済的、身体的、精神的な問題を総合的に考えることの重要性がわかります。不妊の相談を躊躇するという気持ちはわかりますが、それぞれの専門家に相談し、夫婦関係が悲しい結末とならないよう、よく話し合うことをおすすめします。
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
代表