かつて一大ブームを巻き起こした「高級食パン」が衰退の一途を辿っている。直近でも、同ジャンルの代表的なチェーン「銀座に志かわ」について、最盛期には140あった店舗数が50にまで激減するなど、その大量閉店ぶりが報じられ、話題を呼んだ。
そんな中、とある人気のベーカリーチェーンにも閉店ラッシュの波が押し寄せていることはご存じだろうか。“ホリエモン”こと実業家の堀江貴文氏が考案、経営に参画していることで知られる「小麦の奴隷」だ。
「田舎だろうがどこだろうが、パン好きは美味しいパンを毎日食べたい」
堀江貴文氏のそんな考えからプロジェクトがスタートしたという、ベーカリーチェーン「小麦の奴隷」。そもそもどういったチェーン店なのだろうか。
堀江氏といえば、完全会員制の高級焼肉店「WAGYUMAFIA」や、一杯1万円の和牛ラーメンを提供する「MASHI NO MASHI TOKYO」など、様々な飲食店のプロデュースを手掛けてきたことで知られる。そんな同氏が、ちょうどコロナ禍のさなかに発案し、開業したのが「小麦の奴隷」だった。
運営元は株式会社こむぎので、2020年に記念すべき1号店を北海道広尾郡大樹町にオープン。その後はFC(フランチャイズ)展開に乗り出すと、ハイペースで全国各地に出店を果たし、一時は124店舗を展開するなど、業界でも屈指の人気チェーンへと成長する。
〈全国1万店舗目指して爆進中!〉――「小麦の奴隷」のHPには、そんな景気の良い言葉が並ぶが、けっしてその公算がなかったわけではない。飲食事業の酸いも甘いも知る堀江氏ならではの戦略があった。
それは「小麦の奴隷」の商品ラインナップを見てもよくわかる。
〈ザクザクカレーパンという名物になる商材も開発した。(中略)コンビニのパンよりもクオリティが高く、種類も多い。そんな理由もあり、パン食の人に浸透してしまえばこっちのものだった。〉(「小麦の奴隷」HPより引用)
この堀江氏の言葉通り、研究を重ねて試行錯誤の末に完成させたという、同チェーンの看板商品である『ザックザクカレーパン』は、発売からわずか3ヵ月で1万個を売り上げる人気商品に。カレーパングランプリでも4年連続・金賞受賞するなど、話題性も非常に高かった。
くわえて、当時は世間的にまだ根強い人気を誇っていた高級食パンの領域も、「小麦の奴隷」はしっかりとカバーしていた。
それが、同チェーンで隠れた人気を誇る『プレミアム奴隷「生」食パン」。生クリーム、ハチミツ、練乳、バターを練り込んだ生地が特徴的で、「何もつけなくても美味しい」との評判で、一斤650円という価格設定ながら、カレーパンと共に飛ぶように売れていたという。
このように、高い知名度を誇るホリエモンが“発案した”という《影響力》、こだわりのつまった《商品力》、さらには、意図的に地方での出店を主とすることによる《競争力》と、三拍子揃ったのが、この「小麦の奴隷」だった。
ところが、だ。ここへきて同チェーンの閉店が相次いでいるという。
「小麦の奴隷」の閉店について、店舗のX公式アカウントなどで確認できるだけでも、当別店(北海道)が6月30日、平野店(大阪府)が7月31日、仙台若林店(宮城県)が8月31日、苫小牧店(北海道)が9月30日と、毎月1店舗以上のペースで閉店を余儀なくされている。
また現在、公式HP上で表示される店舗の数も56しかない。前述の通り、ピーク時には124店舗あったことから、実に半数以上が撤退に追い込まれていることがわかる。つまり、あのホリエモンですら「高級食パンブームの衰退」という荒波を乗り切ることはできなかったわけだ。
ここであらためて高級食パンブームとは何だったのか、考えてみたい。どのようにしてブームは起こり、なぜ定着しなかったのか――。数多くの飲食店を手掛けてきた経営コンサルタントの大久保一彦氏に聞いた。

少し前の話になりますが、高級食パンで知られる「銀座に志かわ」の大量閉店が取り沙汰され、話題となりました。一時期は1000店舗以上にのぼった高級食パン専門店ですが、一過性のブームで終わってしまいました。まずは同店について分析してみましょう。
「銀座に志かわ」は2018年9月13日にオープンしています。「食べログ」の口コミを見ますと、開業当初は開店時間の10時から20人ぐらいのお客様が、週末には30~40人が列をなしていて、一本二斤の食パン864円(税込)が一日600本(一店舗で仕込める製造上限)完売していたとのことです。
焼きたての美味しいパンを求める気持ちはわかりつつ、1本864円という売価は、食パンの市場価格の実に3~4倍。それが飛ぶように売れたというのが、ブームの凄さを物語っています。
この高級食パンブームですが、2021年くらいまでは右肩上がりでした。当時について「銀座に志かわ」を展開するOSGコーポレーションの湯川剛CEOは、メディアの取材に対して「高級食パンが当たり前に定着したものだと錯覚するくらいだった」と証言しています。
ではなぜ、高級食パン専門店は一転して大量閉店に至ったのでしょうか。【後編記事】『高級食パン専門店の閉店ラッシュ、もはや「マスコミのせい」だった…《安直なブーム》を生み出す者たちの「功罪」』にて、ブームの側面について言及しつつ、背景を推察したいと思います。
【つづきを読む】高級食パン専門店の閉店ラッシュ、もはや「マスコミのせい」だった…《安直なブーム》を生み出す者たちの「功罪」