万博「空飛ぶクルマ」、12日にも3か月ぶり運航…部品落下の原因ようやく判明し再発防止にめど

大阪・関西万博の会場で、次世代の移動手段として期待される「空飛ぶクルマ」のデモ飛行が、12日にも再開される見通しとなった。
4月下旬、丸紅が運航する機体の一部が飛行中に破損し、部品が落下して以降、運航を見合わせていた。部品が設計通りに作られていなかったことが判明し、再発防止にめどがたったという。近く発表する。
複数の運航関係者が明らかにした。再開するのは、米リフト・エアクラフトが開発した1人乗りの「ヘクサ」(全長4・5メートル、高さ2・6メートル)。12~14日と19~21日の計6日間、会場西端の離着陸場の上空を飛行する計画という。
事故は4月26日に発生した。プロペラモーター18個のうち1個が破損し、このモーターを覆うプラスチック製のカバー2個が落下した。デモ飛行は見学者が入れないエリアで行われており、パイロットの男性にもけがはなかった。
国土交通省は、航空法上の「航空事故」には該当しないと判断した一方で、原因の究明と再発防止策の検討を求めた。丸紅がリフト社と調査した結果、部品が設計通りに作られていなかったことがわかり、交換することなどで安全が確保できると判断した模様だ。
一方、丸紅は10月に英バーティカル・エアロスペースの機体(5人乗り)でも、大阪市此花区の万博会場と兵庫県尼崎市の2地点間をデモ飛行する予定だったが、見送る方向で調整していることがわかった。機体の開発スケジュールに遅れが生じているためとみられる。
万博での空飛ぶクルマのデモ飛行は会期中、運航事業者ごとに期間を区切って披露されることになっている。スカイドライブは7月下旬~8月下旬、ANAホールディングスと米ジョビー・アビエーション陣営は9月下旬~閉幕日の10月13日に運航を予定している。
大阪・関西万博でデモ飛行中に部品が落下した「空飛ぶクルマ」。万博の目玉の一つとして期待された次世代の技術だが、運航再開までに2か月以上を要することになった。なぜか。
最大の理由は、原因究明そのものに時間がかかったからだ。丸紅によると、事故が起きた米リフト・エアクラフトの「ヘクサ」は、すでに米国でレジャー用として実用化されており、シミュレーターを使った訓練を受ければ誰でも操縦できる。現地では数百人が操縦を体験しているが、これまで同様の事故は確認されていないという。
このため、リフト社にも、原因が数百点に上る部品にあるのか、設計にあるのか、あるいは米国から持ち込んだ部品を日本で組み立てた際に問題があったのか、すぐには把握できず、あらゆる可能性を考えて一から調べなければならなかったという。
空飛ぶクルマを所管する国土交通省無人航空機安全課は「再開に向けては、表面上の理由だけでなく、問題に至った原因を含めて再発防止策を立ててもらう必要があった」と説明する。
丸紅が慎重だったことも大きい。丸紅は将来、空飛ぶクルマをビジネスとして運航することを見据えている。万が一、再び事故が起きれば逆風となることは避けられず、判断に時間がかかったとみられる。
一方、業界内では今回の事故は冷静に受け止められている。メーカーによって設計の考え方も機体の構造も異なるためだ。このため、デモ飛行を予定するほかの2陣営も、当初のスケジュールを変えることなく運航する予定だ。
航空経営研究所の橋本安男主席研究員は「万博は最新のテクノロジーを世に問う場で、注目度が高い。だからこそ、空飛ぶクルマの運航事業者はイメージを損なわないよう慎重に運用する必要がある」と指摘している。