「猛暑なら蚊はいない」説は本当か…35度以上だと動けない? 要警戒、中国で感染症が大流行中

《蚊は35度以上だと活動できないと聞いてたのに今おでこを刺された。あいつ太陽を克服している》
この夏、SNSのこんな投稿に18万近い“いいね”がついた。
【写真を見る】蚊と並んで“夏を代表する虫”セミ。セミのチリソース他、絶品グルメを紹介
8月5日には群馬県伊勢崎市で国内観測史上最高気温となる41.8度を記録した今夏。ヒトの命にもかかわるほどの危険な暑さが続いているほどで、もしも蚊が《35度以上だと活動できない》説が正しいなら、おでこを刺されることもないはず……。
「“35度以上で活動ができない”とか“死ぬ”といった声もありますが、そんなことはありません。たしかに蚊は気温15度くらいから活動をはじめ、25度から30度くらいを好む。明るい日差しのもとではあまり見かけないかもしれませんが、少し日陰やエアコンのきいた屋内などでは、ちゃんと活動できるし、刺してきますよ」
と解説してくれたのは、害虫防除技術研究所所長で医学博士の白井良和さん。好きな蚊の種類はトワダオオカ、その理由は「大きく、美しく、ほかの蚊の幼虫を食べてくれるから」という、このシーズンは雑誌やテレビ番組に出ずっぱりの“蚊の博士”だ。
「われわれ人間だって、この暑さで日差しを浴びて活動するのはキツイ。いくら蚊に夏のイメージがあるといっても、気温が35度を超えるような場所には、人も蚊もあまり出てこないということでしょう」(白井さん、以下同)
『ウェザーニュース』の調査によると、5月末の時点で蚊に「もう刺された」「刺されていないが見た」と答えた人が東京では過半数、徳島では8割を超えたという今年。暑くなるのが早かったことで、“蚊の初動が早かった”年なのだろう。といっても、厳密にいえば種類によって快適な温度が違うそうで…。
「例えば、藪に潜むことから“ヤブ蚊”と呼ばれるヒトスジシマカは比較的暑さに強め。33~34度くらいでも元気に日中活動します。逆に家の中によくいるアカイエカなどは20~30度が適温なので、夜から明け方にかけて活発。寝ている耳元にプ~ンと飛んでくるのは大体アカイエカです」
ほかにビルや地下マンホール内などに生息するチカイエカは、10度くらいでも吸血行動ができて、ほぼ1年中活動するという。それぞれの蚊の種類や特性を知って、しっかりと対策をしよう。
そんな蚊は“世界で最も多くの人命を奪う生き物”としても知られる。2024年のWHOの発表によれば、蚊が媒介した感染症による死者数は年間約60万人にも達するという。こう聞けば遠いアフリカ大陸のことを想像するかもしれないが、日本にとっても他人事ではなさそうだ。
「現在、中国・広東省で熱帯病のチクングニア熱が流行中です。これは人から人に直接うつることはありませんが、デング熱やジカウイルス感染症と同様に、蚊を介して感染します。前出の、日本によくいるいわゆる“ヤブ蚊”、ヒトスジシマカもチクングニア熱を媒介する種類。中国からの旅行者も多いので、まずは蚊に刺されないようにするのが予防として大事です」
「激しい痛みのために体を折り曲げて歩く様子」を意味するアフリカの言葉が病名の由来というチクングニア熱。国内での感染例はまだないものの、青森県以南に幅広く生息するいわゆるメジャーな“ヤブ蚊”が媒介する病気となれば、あまりうかうかしていられない。このヒトスジシマカはほかに、デング熱やジカウイルス感染症といったおそろしい感染症も媒介する。また“日本でもっともよく見られる蚊”であるアカイエカも日本脳炎、フィラリア症、ウエストナイル熱などを媒介する。いずれにせよ、蚊に食われていいことなどひとつもない。
「35度以上で蚊は活動できない」説ではないが、巷でささやかれる“蚊にまつわるウワサの真相”を白井さんに教えてもらった。
【O型は刺されやすい】⇒実際にO型>B型>AB型>A型の順で刺されやすい。
【太っていると刺されやすい】⇒表面積の大きさや体温の高さ、水分と二酸化炭素の排出量で蚊に認識されやすい。
【赤ちゃんは刺されやすい】⇒生まれたばかりの赤ちゃんは体温が高いので刺されやすいが、抗体がないので痒みはない。
【蚊は黒い服が好き】⇒黒だけでなく、紺色など暗色は認識されやすい。白など明るいゆったりとした服を着ると刺されづらくなる。
【蚊は風に弱い】⇒蚊の体重は2ミリグラム。風で飛ばせるので、うちわやハンディ扇風機をあてると寄ってこない。
【足の裏をアルコールで拭けば全身刺されない】⇒足を拭いても刺されにくくなるのは足のみ。いちばん蚊を誘引するのは顔の皮脂。こまめな洗顔、タオルで拭うなどして。
【蚊は逃げるとき縦方向に飛ぶので、蚊をつぶす際は上下にはたく】⇒考えるより先に、見た瞬間に、方向関係なく蚊をよく見て叩いてつぶすべし。
ボウフラがわくような水たまりが干上がり、バケツの水もお湯になるような猛暑が続くこの7~8月は動きも鈍く、“あまり見かけない”と言われていた。だが、蚊にとって快適な25~30度に落ち着く9月くらいには、再び勢いを増すように感じるかもしれない。そうなってから慌てないように、いまからしっかりと蚊の対策をイメージすることが必要そうだ。
デイリー新潮編集部