“転勤辞令で転職検討”は甘え? 元キーエンス営業トップ「時代どうこうではなく、言われたことをやるのは当たり前」 働き方改革の影で管理職も“罰ゲーム”化?

もし自分に「転勤辞令」が出たら――人材サービスの「エン・ジャパン」が興味深い調査結果を公表した。今後、転勤辞令が出た場合に退職を検討するきっかけになるかを聞いたところ、全世代で59%が「なる」「ややなる」と回答。その理由として、「地元もしくは住みたい地域でなければ、転勤してまで仕事を続けたいとは思わない」(20代)や「家族との時間を大切にしたいので単身赴任も考えられない」(40代)といった意見が挙げられた。
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X(旧Twitter)では、「転勤辞令は禁止にしろ」「転勤制度マジで時代遅れ」といった声が上がる一方、「入社前に転勤の可能性くらいわかるでしょ」「高い給料もらって転勤は嫌ってワガママすぎ」という意見も噴出している。
残業や休日出勤の拒否など、労働者の権利を主張する人が多い現代に、どこからが“ワガママ”と見なされるのか。『ABEMA Prime』でこれからの働き方について議論した。
パーソル総合研究所主席研究員の小林祐児氏は、転勤は「だいぶ評判の悪い制度」だと指摘。特にコロナ禍以降はテレワークが普及し、人を物理的に動かさなくても良いという感覚が広がったこと、共働き家庭が増え男性も子育てに参加するのが当たり前になり、転勤が家庭に与える影響が大きくなったことなどを背景にあげる。
一方、株式会社アレグリア代表の小野松健太氏は、こうした転勤拒否などの意見に対し「全部生意気だと思う」と断言する。「転勤がある前提で入っているし、サラリーマンである以上は会社のルールだ。いろいろな意見があるが、(会社は)そんなものだと思う」。
小野松氏は前職のキーエンスで、一日電話150件、訪問5件などのノルマをこなし、2年目で年収1000万円を達成、成績1位を3度受賞した実績を持つ。去年、営業代行・コンサル会社のアレグリアを起業し、「これまでのボリューム(労働時間)を外で生かせればもっと稼げる」との考えだ。スタッフへも朝6時にチャット、業務中に30分おきに上司と細かくチャットする働き方を求めるが、「甲子園を目指して野球に必死になっているのと似た感覚。みんなで決めたら別に何も思わない」とした。
小野松氏は地元・北海道から京都府の同志社大学に進学後、社会人1年目で岡山県へ、3年目で広島県へ転勤し、苦悩を経験した。「友達はいないし、打ち解けられる仲間もいない。“今はまだ会社にぶら下がってる。強くなったら自分でいくらでもできる”と思い頑張った。嫌なことが自分を高ぶらせた」という。
ある種の「若手のうちに働くべきだ」という風潮に対し、小林氏は「いつまで頑張ればいいのか」と疑問を投げかける。「成功した方は『若いうちにやっておいて良かった』という振り返りができる。しかし、40代、50代でも若手のように働いて、出世できなかった場合にどうするのかと」。
また、若手の成長志向の低下も指摘した。「無理してまで◯◯しない」という意識が浸透した上、未婚率上昇で「一人で暮らすコストを稼げればいい」という意識が出てきたこと。職場環境のホワイト化や売り手市場化の進展で、業務外の学習・自己啓発活動が減少、加えて生成AIなどのテクノロジーによって「成長」の定義が揺らいでいる可能性があるとする。「日本は未経験入社が多く、一人前になるまで時間かかる中では、この成長意欲の低下のほうがずっと問題ではないか」。さらに、ハラスメント対策が進んだことで、「無理してまで学校行かなくていいよ、今の会社で働かなくていいよ」という感覚が広まったことも影響していると分析した。
小野松氏は、キーエンスでの働き方を振り返り、「自分が“前向け”と思ったら、前に行かなければいけない」「言われたことをまずやるのは、時代がどうこうではなく人として当たり前だ」と主張。「飲み会は行くものだし、空気は読むもの。そうした“前提”に『いやいや…』と言うのは違うと思う」との考えを示す。
しかし小林氏は、「そのような働き方が通用するのは、労働時間を投下して同じものを作って稼げるモデル、いわゆる製造業モデルだ。それができる企業ではある種正解だが、通用しない企業は持たない」と返答。さらに、「人が集まらない。稼げていれば問題ないが、労働人口が減っていく中では、“何歳まで持つか・何人まで規模を拡大するか”の分かれ道になる」と見通した。
小林氏は、管理職の負担が増え、“罰ゲーム化”している現状を訴える。パーソル総合研究所の調べによると、管理職の業務量の増加は、働き方が進んでいる企業で62.1%、進んでいない企業で48.2%と、前者のほうが多い。
「労働時間を減らすために経営会議で見るのは、非管理職の一般層。そこの働き方改革が進めば進むほど、管理職が割りを食うわけだ。賃上げのニュースなんかも基本的には一般層の話で、春闘も管理職は関係ない。負荷が増えているのはまさに、あまり働きたくない若手をどうマネジメントするか。“みんなが18時に帰ってからが自分の仕事だ”という背中を見せても、若手は憧れてくれない。かといって目標も下がらず、いろんなしわ寄せが管理職にいく」
転勤に管理職も忌避される中、「社内で人脈を作っている人が強い」そうだ。「『隣の部署の人は元々上司だったから言っておくよ』という一言が出るか出ないかで、仕事の進み方は変わってくる。そこは転勤することの良い作用でもある」と述べた。(『ABEMA Prime』より)