渋滞中の夫婦喧嘩でブチ切れ、妻も車も置き去りに…帰省ラッシュでトイレが我慢できず道端で放尿する父親…渋滞は人を狂わせる?《驚愕の渋滞事件簿》

〈東京から甲子園まで19時間、母校の応援に間に合わず泣き崩れる女子生徒…中国道と名神高速で135km、“お盆史上最悪の渋滞” はなぜ起きた?〉から続く
連日の酷暑を耐えてようやく迎えたお盆休み、帰省にレジャーにと、普段は行けない場所へのお出かけを待ち望む人は多いだろう。しかし車での長距離移動と切っても切り離せないのが、高速道路の渋滞だ。
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楽しみにしていた予定が大幅に狂うだけでなく、「車内の険悪ムード」や「トイレ問題」など、ストレスフルな状況に陥ることも少なくない。今回は「渋滞にまつわるトラブル」に焦点をあて、「こんなはずではなかった」という人々のエピソードを紹介する。
ストレスの大きな渋滞中の車内では、乗員同士の雰囲気も悪くなりやすい。とくに日頃から互いに不満を溜めている夫婦の場合、ちょっとしたすれ違いが「決定的な亀裂」を生じさせることもあるようだ。
数年前のお盆休み、夫婦で海辺の音楽フェスに向かった30代の小林さん(仮名)は、夫の横暴な振る舞いに辟易した経験を話してくれた。
「もともとの予定では朝7時に出発し、開演時間の9時頃には到着する予定だったんです。一番好きなアーティストが出演するのは午後からでしたが、夫婦ともフェスに行くのは初めてだったので、雰囲気を楽しみたくて。
でも当日、家を出てしばらくしてから夫が忘れ物に気づき、高速に乗るのがかなり遅れて……。案の定、思い切り渋滞にハマってしまったんですよ。なのに、なぜか夫の方がだんだん不機嫌になっていき、『これだからお盆はイヤだったんだよ』と、舌打ちを連発していました。
写真はイメージ Tomoharu_photography/イメージマート
雰囲気が最悪のまま、高速を降りたのは11時近く。しかも、会場が海水浴場と隣接していることもあり、下道も全然動かず……。あと3キロほどの地点から、ほとんど進まなくなってしまったんです。
さすがに焦りはじめ、『もうこの辺の駐車場に止めて歩こう』と提案したのですが、『暑いなか往復1時間以上も歩けない』と取り合ってくれません。
しばらくお互い無言のままピリピリした空気で、思わず私が『全然進まないね』と口にした途端、夫がいきなり『うるせぇな!』と怒鳴ってきたんです。さすがに私も我慢の限界で、『うるさいのはどっち? てか誰のせいだよ!』と叫んでしまいました。
夫は大きな溜め息をついたあと、『もういいわ』と、あろうことか運転席から降りてしまったんです。慌てて『どこ行くの』と聞きましたが、無視して車とは反対の方向に……。
呆気にとられながらも、とにかく運転席に乗り込んで。『もう意地でもフェスには行ってやる』と、コインパを探して止めて、会場まで30分くらい走りましたね。汗だくでゼェゼェいいながらも、どうにか目当ての歌には間に合いました。
家に帰ると、夫はぐっすりベッドで寝ていて、サーッと気持ちが冷めていくのを感じましたね。次の日には一応謝られ、欲しかったブランド品なんかも買ってもらったので、形として和解はしましたが……。正直、一生忘れることはないですね」
渋滞時、ドライバーは「自分のせいで予定が遅れてしまう」とナーバスな状態になりやすい。責任を追及する言動はなるべく控えたいところだが、これほど「逆ギレ」が甚だしいと、さすがに堪忍袋の緒も切れるというものだ。
なお車内での夫婦喧嘩の末に、妻を置き去りにしてしまう夫は一定数いるようで、ネット上にも「高速のパーキングで置いていかれた」などの経験談が散見される。
置いていった方は頭に血が上り、「目の前のストレス」から逃れることしか考えられなくなっているのだろうが、置いていかれた側としては一発で「離婚案件」になる振る舞いである。
渋滞で多くの人を窮地に追い込むのが「トイレ問題」だ。ノロノロ運転で車は進まず、ようやくたどり着いたサービスエリアも大混雑。小さな子どもはもちろん、大の大人であっても「限界」を迎えてしまうケースはあるだろう。
東京都に住む40代男性の村田さん(仮名)は、家族3人で長野にある実家へと帰省したあとの帰り道、なんとも苦い経験をすることになった。
「帰りはUターンのピークとは少しタイミングをズラしたので、途中までは割とスイスイ動いていたんです。そのまま1時間くらいで着けるかな、と思っていたのですが、東京に入る手前で『この先事故渋滞4キロ』という表示があって。
ちょうど渋滞に入る前にサービスエリアがあったので、一応トイレに寄っておこうかと思いましたが、SAに入ろうとする車列が本線まで続いていて……。時間のロスが惜しくて、スルーしてしまったんですよね。
ですが、間もなく渋滞にさしかかると、想像以上に車の流れが悪く、もはや歩いた方が早いようなペースでした。「いつになったら解消されるのか」と思うと、尿意がどんどん激しくなっていって。

もうダメかも、と最悪の事態が頭をよぎったとき、少し先に高速のバス停が見えたんです。『バス停ってことは、道路の外に通じているのでは?』と思い、車をそっちに寄せてみると、やはり出入りするための扉がありました。
もうモラルや法律など気にする余裕もなく、階段を降り、そのまま道端で……。罪悪感がすごかったですし、車に戻ったときの『パパおしっこしてたの? 手洗った?』という息子の声に、なにか人として大事なものを失った気がしました」
高速道路上ではSAやPAなど指定場所以外での駐停車が禁じられているので、事故や故障でやむを得ない場合を除き、一般車両がバス停や路側帯に車を止めることは道交法違反にあたる。
トイレが「やむを得ない事情」にあたるかどうかは、現場の判断による部分もありそうだが……。いずれにせよ、道端での立ち小便も、軽犯罪法に触れる行為である。「切迫した状況では細かい法律など気にしていられない」というのも理解できるが、そうした状況に至る前に、なるべく余裕をもったトイレ休憩を心がけたい。
渋滞によるイライラは、車内の険悪なムードにとどまらず、他のドライバーとの「路上トラブル」を引き起こすことがある。これは一般道のケースだが、過去には道路の混雑に起因するトラブルの結果、死亡事故にまで発展してしまった例もある。
2014年11月5日、東京都町田市内のY字路で事件は起きた。
当時23歳の男子大学生だったAは、脇道側から右折し本線に合流しようとするが、先の道路が渋滞で詰まっていたために交差点内で停止してしまう。これにより、本線の反対車線で信号待ちをしていた車の進路を塞いでしまった。
信号待ちの先頭には、当時45歳の男性会社員Bと、その7歳の娘が乗る車。Bは信号が青になってもAの車両が動かないことから、クラクションを小刻みに鳴らし、Aにバックするようジェスチャーで示す。ところがこれに腹を立てたAは、車を降り、Bの方へと向かっていった。
この際、Aはサイドブレーキを引かず、ドライブギアのまま車を離れてしまっており、車両はそのまま進み、前方のガードレールに衝突。自車が傷ついたことでAはさらに逆上し、Bに向かって怒鳴りながら、全開になっていた窓から腕や顔を車内に入れて「ぶっ殺すぞ」などと怒声をあげる。
Bは危機感からゆっくりと車両を発進させるが、Aが窓枠を掴んだまま並走し、再度「てめぇ、ぶっ殺すぞ」と怒鳴ってきたことから、さらに車を加速させる。結果、Aは速度についていけずに転倒し、頭部をBの車の後輪に轢かれ、脳挫傷などによりその後死亡が確認された。
この件でBは傷害致死罪で起訴されるが、裁判ではAの侵害行為に対するBの正当防衛が認められた。Aが車に掴みかかっている状態で車を発進・加速させたBの行為そのものは、Aの生命を危険に晒すものであり、裁判でも「暴行の故意」が認定されている。一方で、Bの行為が自身と娘の身を守るための「逃走」を主な目的としていたこと、また発進後にAが車から手を放していれば同様の結果は回避可能であったことなど複数の条件が勘案され、正当防衛が成立し、無罪判決となっている(東京地裁立川支部、平成28年9月16日判決)。
混雑した道路では、焦りや苛立ちから攻撃性がむき出しになるドライバーも少なくない。上のように、車両の動きが止まりがちになることから、クラクションひとつで路上トラブルに発展する可能性もある。
冷静さを欠いた状態での「いつもと違う言動」は、それだけで本人や他人の人生を大きく変えてしまうことがある。たとえ苛立ちを覚えたとしても、決して一時の感情に身を任せず、まずは大きく深呼吸をしてから落ち着いて対処するようにしたい。
(鹿間 羊市)