「広陵とマック」今夏の大炎上に見られる”共通点”

日本中の関心を集める“コンテンツ”が大炎上(写真:右は今井康一撮影、左はアラヤシキ/PIXTA)
【写真】「ただの“呼びかけ”じゃん…」「抑止力になってない」批判が殺到した《ハッピーセットのルール》
“名物コンテンツ”が相次いで炎上しています。
日本マクドナルドの名物キャンペーン・ハッピーセットについて、8月9日から始まった「ポケモンカード」とのコラボ商品をめぐる争奪戦が混乱を呼んでいます。
夏の風物詩・高校野球も波乱の最中に。強豪校である、広島県・広陵高校の部員による暴行事件が発覚し、学校や日本高野連の対応が批判を受け、大会辞退に発展しました。
両者とも謝罪に追い込まれましたが、さらなる批判を生む事態になっています。
「謝罪」は、お詫びの言葉を述べるだけではなく、事態収拾こそが本来のゴール。今回は、合意を取るべき相手を見誤ったことが炎上につながったと考えます。
実施のたびに話題を呼ぶ、マクドナルドのハッピーセット。大成功したセールスプロモーションのお手本のような成果だと思います。
しかし一方で毎回起こるのは、キャンペーンのプレミア(景品)ほしさの買い占めや転売、そうした行為の結果、起きてしまう商品投棄といった問題です。
今回のポケモンカードも告知段階から大きな関心を呼び、結果として収益面での成功は達成できたようですが、一方の事前から懸念されていた転売ヤーの買い占め行為による混乱については、大失敗。大した対策もなく、単なる注意喚起程度の呼びかけに終わっていました。
“呼びかけ”に抑止力はなく、すでに報道されている通り、店頭は大混乱。買い占めやプレミア目当てで買った商品を食べずに投棄したり、買えなかった客が店員に食ってかかったりという殺伐とした様子が報じられました。
何の抑止力にもならなかった今回のルール(画像:日本マクドナルド公式サイトより)
経営数値的には売上利益に貢献できたと思われる本キャンペーンですが、本来キャンペーンで楽しみを得られると思った家族客や、キャンペーンに関係なく店を訪れた客が、混乱する店頭で不快な気持ちになったり、大行列で商品を買えなかったりと、数字上には現れないマイナスがあったと考えられます。
「キャンペーンの成功」の設定において、キャンペーン時の顧客の購買環境や、お祭り騒ぎを超える混乱によるストアブランド棄損にまで目が届いていなかったのではないかという疑問を感じました。
一方の、広陵高校部員による暴力事件。高校野球に限らず、これまでも、特に強豪・伝統校と呼ばれる強いチームにおける、部員や監督者による暴力事件はありました。
ただ、高校野球は日本高野連の厳しい管理下で、部員はもちろん、かつては部員以外の不祥事でも“連帯責任”で出場辞退をしてきた過去があります。
今回のように、高校が独自調査で関係者を処分したうえに出場を決め、日本高野連も厳重注意のみで大会出場を認めたという流れには、やはり対応の不平等さのような違和感があります。
こうした対応に被害者も納得できなかったのは当然で、大会直前の7月に被害者が県警に被害届を提出し、8月上旬には、被害者の親族と名乗る人がSNSで告発するにつながりました。
それにより、同校への批判は大会が始まってから火だるま式に膨れ上がりました。ついには、前述した通り1回戦勝利にもかかわらず、広陵高校は出場を途中で取りやめるという事態になり、あわせて同校の堀正和校長による会見が行われました。
この会見は非常に多くの問題を含んでいると感じました。
特に「SNSによる誹謗中傷や加害の予告があったため、大会を辞退する」という堀校長の発言。確かにネットリンチや犯罪である脅迫などは一切容認できるものではありません。SNSが批判をエスカレートさせた事実もあるでしょう。
しかし、今回の投稿によって問題の拡大がなければ、事実を隠蔽していたのではないかという疑惑もつきまとう以上、高校自体の責任を回避するかのような発言と受け止められ、またも炎上状態となりました。
会見で謝罪と釈明をするも、さらなる燃料投下となってしまった広陵高校の堀校長(写真:時事)
それにしても今回、事案が発覚してから、校内の調査や処分、そして日本高野連への報告と(おそらく承認も)、手続き上は適正なプロセスを踏んでいるにもかかわらず、批判が止んでいないのはなぜでしょうか。
一般的にもいじめ問題が炎上するのは、本来は暴行傷害という刑事事件にもかかわらず、校内で起こった未成年による事件は、「いじめ」というラベリングにより矮小化されることが原因だと考えます。
教育的配慮の名のもとに、被害者だけでなく加害者の生徒までも不必要に守っていると取られることが炎上の大きな原因です。
いじめ問題と高校野球強豪校という、かなりの批判リスクを呼びやすい要素が重なり、ハンドリングにはかなりの慎重さが求められるものだったといえます。
野球強豪校では、トラブルの顕在化を恐れて事件の矮小化が起こっているのではないかという声が必ず出ます。
今回の事件も実際には1月に発生したものが、SNSでの話題化によって、今頃やっと知れ渡ったという経緯があり、広陵高校も日本高野連も、騒ぎがなければ普通に大会を進めただろうということが批判の本質だと思います。
SNSを批判するかのような校長の談話が批判を拡大することになった原因でしょう。
マクドナルドと広陵高校、いずれも従来の対応に沿って進んだと予想します。
キャンペーンもトラブルも、多くの組織では対応マニュアルや手順が決まっており、その通りにきちんと進めることは管理者・責任者の役割です。ただ、その手順は本当に今現在の環境に適合しているでしょうか。
SNSやインターネットでは、個人や匿名での告発が一般的になってきています。転売ヤーの悪行がブランドイメージまでも毀損することを想定していたでしょうか?
また、身内ではない外部からの批判を無視して大会へ出場することは可能なのかどうか、リスク評定の精度においてアップデートできていたのか?
両者ともに大きな課題があると思います。
SNSのすべてが真実ということではありません。しかし、真偽はともあれ騒ぎが大きくなり、批判だけでなく脅迫や混乱が起き、店頭でのトラブルが発生するなど、現実のリスクがあります。
正しいかどうかではなく、想定して対策しておくべきリスクとして、準備しておかなければならない要素だと思っています。
批判する人との完全な合意形成は不可能ですが、少なくとも単なる言いがかりだとはいえない、現実的な問題点の指摘については、納得感のある対応策を打っておくべきだったでしょう。
ここまで大きくなったトラブルにおいて、社内や学校内、関係者といった、身内だけで事態が完結することはもはやありません。身内に向けた謝罪ととられれば、せっかく釈明しても効果がありません。
とはいえ、SNSやネット世論との合意を得ることはとてつもない高いハードルです。ですが、十分想定できる「ツッコミ」への説明が準備できていないことは、問題だと感じています。
(増沢 隆太 : 東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家)