先日、早稲田大学がXで反感を買いました。11月1日開催の早稲田祭で「『弱男祭り2025』~弱音叫び~」なるイベントを催すと告知したのです。イメージ写真は、大隈講堂を背に白ブリーフ姿の5人の男が両手を広げる図。「弱いなら、弱いなりに生きようじゃねえか。年に一度、弱者男性の祭典」とコピーに謳い、「早大生5万人の中から選ばれた5人の弱者男性の勇姿(ママ)を刮目せよ」とあります。
【実際の写真】白ブリーフで両手を広げ…「弱者男性」を自称する早稲田大生
これには「早稲田に行けてる時点で強者ですよ。貴族たちの遊び」「受かった瞬間から弱者脱出できるからな」といった冷ややかな意見が書き込まれ、話題になった告知のインプレッション(表示回数)は1000万回超に達しました。
私も、これらのコメントと同じく「人生全般の勝ち組がさらに強いカードを手にしたようなものでは」との感想を抱いた者です。局部を隠した裸体を悪ノリでさらす学生が「弱者」かよと。彼らが就職活動で「私がアノ『弱男』です」と面接官に告げ、その人が早大OBだった日には「キミ、度胸あるね。次に進めるようにしとくよ」なんて、むしろ「役得」にあずかれそうです。
今回の件を通じ、私が住む佐賀県唐津市にある「早稲田佐賀中高」の立ち位置についてふと思いました。
建学の祖たる大隈重信が佐賀市出身であることから唐津市に早稲田佐賀中高が設立されたのですが、当初、唐津の人々の反応は「あのぉ、ウチら鍋島藩ではなく唐津藩なのですが……。大隈重信にはそこまで愛着ないのですが……」といったクールなものでした。
そうした反応はさておき、2010年設立の早稲田佐賀の生徒とその保護者の姿が、街からいささか「浮いている」ように感じることも。何事かといえば「庶民vsセレブ」なんです。私も生徒や保護者と仲良くしてはいるのですけれど。
例えばです。唐津は軽自動車社会なのに、同校の親御さんの車は外車だったりします。お召し物も高級そうです。学費もお安くはなく、首都圏や近畿の私立進学校に負けていません。
早稲田佐賀の向かいにあったTといううどん屋さんのおばちゃんも、かつて寂しそうに漏らしていました。
「元々ここは県立唐津東高校やった。そこの先生は出前を頼んでくれたし、生徒さんも来てくれた。でも、早稲田の子はコンビニのお弁当を食べるんや」
私のような52歳のオッサンが行くランチ1500円也のお店にも同校の生徒は仲間と訪れます。他の県立高校の生徒は見かけません。早稲田の生徒の自転車は高そうでカッコいいです。
同校は早大の系属校で、高校1学年240人の定員に対して早大への推薦枠が140人分あります。きっと多くが「早大に行ける」という理由で入学してくるのでしょう。つまり、慶應義塾高校を目指すご家庭と動機は似ているのではと。
「反権在野の貧乏人の学校。これが早稲田の魅力だった。それが今や恵まれた家庭の子弟が集まる学校に。暫定的に佐賀に身を置き、心は東京を向いているというのならちょっと寂しいかも」
旧知の早大OBオヤジの述懐です。ただ、早大に進んだ子らが運転免許を取る際、安上がりな自動車教習合宿を選び、唐津に戻ってくるのは喜ばしい限りです。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』など。
まんきつ1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。
「週刊新潮」2025年11月13日号 掲載