子どもに「デパコスほしい」と言われた親の”正答”

一般の人のメイクをすることが好きだというイガリさん。講談社の講堂で実施された親子メイクイベントでも、イガリさん自ら参加者にメイクを施していた(写真/大倉英揮撮影)
YouTubeやTikTokといったSNSの普及によりメイクの低年齢化が進んでいる。メーカーからは子ども向けに作られたキッズメイク商品が次々に登場する一方で、親世代の懸念も生まれているのが実情だ。
昨年は小学生向け雑誌で、いわゆる「デパートコスメ(デパコス)」と呼ばれる高価格帯の化粧品が紹介されたことで、「子どもにはまだ早いのではないか」という困惑の声が上がり話題となった。
小学生向けのメイク本を出したばかりで、自身も2児の母親であるヘアメイクアップアーティスト・イガリシノブさんに、メイクをし始めた小学生とその保護者に気をつけてほしいことについてアドバイスをもらった。
【写真を見る】子どもたちが憧れる「カリスマ小学生ギャル」“りゅあちゃん”のメイクと、「3COINS」で販売された超人気のキッズコスメセット
「キッズメイク」はもはや新しい常識になりつつある。従来のように七五三やダンスの発表会といったイベント時に部分的にメイクをするだけでなく、日常的にメイクを楽しむ小学生が増えているという。
今や小学生向けの動画で本格的なメイクと出会い、雑誌でもメイクのハウツー企画が組まれ、付録にはアイシャドウパレットがつくことも。この流れは、デジタル化と同じで不可逆だと語るのは、ヘアメイクアップアーティストのイガリシノブさんだ。
「今の子どもたちにとってスマホやパソコンが当たり前になっているように、メイクも当たり前になっています。これはもうやみくもに禁止しても意味がない。4歳くらいには工作でメイクのパレットを作ってきたりするんです」
筆者にも3歳の娘がいるが、実際、ディズニープリンセスの工作ドリルの中に、口紅やパウダーファンデーションなどのメイク道具を模した工作紙のページがあり驚いた記憶がある。
「キッズコスメ」の商品自体も、おもちゃの一環として玩具メーカーが展開しているものだけでなく、本格的なコスメが増えてきている。サンリオキャラクターなどのライセンス商品を多く展開する「プチレシピ」シリーズは、70年もの歴史を持つ粧美堂という化粧品メーカーが手がけるブランドだ。
2024年12月には人気雑貨店「3COINS(スリーコインズ)」でも、キッズコスメセットを新たに発売。どれも水や石鹸で落ちるなど、安全性への配慮がされている。
「3COINS」で販売されたキッズコスメセット。2025年1月6日時点で「在庫なし」の人気ぶり(画像:3COINS公式サイトより)
自身のお子さんを見ていて、キッズメイクの盛り上がりを社会現象として感じ、本の執筆につながったというイガリさん(写真/大倉英揮撮影)
一方で、前述した「デパコス」のような大人向けのコスメを子どもに使う場合には注意が必要だ。
大人の肌であれば浸透しない成分も、13歳未満の成長途中の肌には浸透してしまい、肌荒れやアレルギーを起こすなど刺激が強すぎるものもあるという。
「メイクの仕事をしている私ですら、子どもたちがメイクをしている様子を見て、このティントリップ(落ちない口紅)やつけまつげって肌荒れしない? 子どもにとって大丈夫なんだっけ? と思うことがあります。メイクに詳しくない普通の保護者の方であればなおさら不安や疑問に思うこともありますよね。
私自身、10代後半のときに化粧品にかぶれて肌荒れしてしまって、20代もメイクができない日々を過ごしていました。子どもたちにそんな思いはしてほしくありません」
何よりメイクはあくまで「楽しむ」ためのもの。不安や争いの材料にはしてほしくないとイガリさんは語る。それは、肌へのダメージだけでなく、金額的な負担も同じことだ。
「私自身、自分のコスメブランドをつくったときに『バイト2時間分』という価格設定にしました。昔、モデルさんに憧れてブログで紹介されていた4万~5万円もする服を買い、借金を抱えてしまった友人がいたんです。そういうところで、どうしてもメディアの影響は出てきてしまいますよね。
あまりに高価な価格帯の商品を勧めてしまうと、大人との境目もなくなってしまいますし、度が過ぎると保護者の方も一緒に楽しめなくなってしまうのではないでしょうか」
かといって「子どもに化粧は必要ない」と突き放すのではなく「安全で楽しい美容への向き合い方」を早くから教えることが重要だという流れが、美容業界全体でも強まっている。
美容はメイクだけでなく、スキンケアもそうだ。大手化粧品会社コーセーでは、2024年から子ども向けのスキンケア事業「Dear Child Skin」が立ち上がっている。
「Dear Child Skin」のサイトでは、商品だけでなく、スキンケアの重要性やその方法についても説明する(画像:コーセー公式サイトより)
イガリさんの本『わたしもまわりも笑顔になる 小学生のメイク本』でも、皮膚科学的な観点からキッズメイクとどう向き合うべきか、メイクとセットで考えたい肌の健康のことなどについて専門家に取材している。
「今の小学生にとって、メイク道具は文房具みたいなもの。不要といって切り捨ててしまうよりも、メイクをしたらちゃんと落とす、肌荒れしているときはメイクをしないなどのルールを決めて、安全に楽しむ方法を一緒に学んでいくことに目を向けてほしいです。
また、メーカーによっては子どもが使えるものとして公式サイトに情報を載せているブランドもあります。
日本では学校の校則でメイクを禁止されることがほとんど。ですが、就活のときになって急に、それまで禁止していたメイクをしなさいというのでは、当然うまくできないし子ども本人も戸惑いますよね。
もちろんルールは守らないといけません。ですが、ダンスが必修科目になったように、将来的には学校教育でもメイクとの向き合い方を授業に取り入れられるような社会になればいいなと思っています」
かわいらしいパッケージのキッズコスメが複数のメーカーから発売されている(写真/大内カオリ撮影)
とはいえ、ネット上では親世代の批判的な意見ばかりが目立つ。実際のところはどうだろうか。
美容に特化したコンサルティングファーム「ampule(アンプル)」が15歳以下の子を持つ親600名を対象に「中学生以下の子どものメイクについてどう思いますか?」という調査を実施。
すると、「メイクを早くから学ぶべき」と回答する人は約3人に1人おり、「周りの目は気にならない」と回答する人は約9割いた。また、安全性の面で不安があると答えた人は、約6割という結果になった。
こうした結果からも、安全性への配慮は求められるものの、実際にはキッズメイクに否定的な親ばかりではないということが言えるのではないだろうか。
調査方法:インターネット調査調査期間:2024年11月15日~16日調査対象:15歳以下のお子様がいる女性 600名
昨年末には前出の小学生メイク本の出版を記念して、イガリさんが教える親子向けのメイクレッスンイベントが発行元の講談社で開催された。
本の中でモデルを務め、小学生向けギャル雑誌『KOGYARU』の専属モデルでもある、りゅあちゃんをゲストに迎えた会場には、豹柄やフサフサの尻尾、レッグウォーマーなど2000年代のギャル文化を思わせるようなファッションの子どもたちが多数押し寄せた。
子どもたちから熱視線を浴びた、小学生ギャルモデルのりゅあちゃん(写真/大倉英揮撮影)
憧れのりゅあちゃんに会えたと喜ぶ子どもたちが、イガリさんや保護者のアドバイスのもとに涙袋やリップのメイクを笑顔で楽しむ様子はとてもハッピーな空気に包まれていた。イベントに訪れた小学5年生の子にメイクをする理由について聞いてみた。
「メイクは友だちに教えてもらいました。キラキラするものが好きで、キラキラをつけると嬉しいし、鏡を見るのが楽しくなります」
講談社の講堂で実施された親子メイクイベント。いわゆる「ギャル系」だけでなく、ごく普通のファッションの親子も見られた(写真/大倉英揮撮影)

そうした小さな変化が、彼女たちの自信につながっているのだ。日本財団が2024年に日本や米国など6カ国で各1000人の若者を対象に実施した「18歳意識調査」(※)では、日本の若者の自己肯定感は他国の若者に比べても低いという。
イガリさんは、そういった日本の若者の自己肯定感を上げるためにもメイクが一助になればと話す。
時代とともに価値基準は移り変わる。キッズメイクについても、決して自分たちの時代の常識に当てはめずに、子どもたちと一緒に考えたり調べたりすることで、新たなコミュニケーションツールにもなるのではないだろうか。
(※)日本財団18歳意識調査結果 第62回テーマ「国や社会に対する意識(6カ国調査)」
(イガリ シノブ : ヘアメイクアップアーティスト)(岡部 のぞみ : ライター/編集者/「ampule」ブランディングマネージャー)