欠陥が発覚して以降、組合側の調査から違法建築物との烙印が押されてしまった「東急ドエル・アルス世田谷フロレスタ」(以下、フロレスタ)。その建て替え計画はスタート当初から混乱に次ぐ混乱を巻き起こしていた。
中編記事につづき『「耐震、全然ダメです」そして誰もいなくなった…世田谷・違法高級マンションで住民らを襲った「悲劇の数々」』では違法建築を巡って巻き起こった住民らと東急との間に勃発した新たなトラブル、そして過去の調査で「構造に問題はない」と説明した東急不動産の発言について詳しく報じる。
マンションの管理組合の関係者が語る。
「建て直しに関する東急不動産の敷地測量で、建物の真北が西に14度ズレていることが発覚しました。これによりフロレスタは建築基準法の高さ制限に引っかかり、違法建築物に。判明後の検証で、同様のマンションを正しく建てるとなれば現在の49戸から30戸程度しか確保できない構造になる試算結果も出ていました。
さらに東急不動産はスリット不足などの施工不良に関しても『社内チームの検討で、同じ構造物を作ることが可能という結果が出た』と説明。住民側は『以前の設計図では耐震性や設備に問題があったわけですから、難しいのではないか』と投げかけましたが、東急側は同じ建物という路線を変更せず、計画を推進しました。しかし、建て替え計画が始まってすぐに設計会社の方から『やはり同じものを建てるのは難しい』との判断が出ています。もはや何が起こっているのか分からない状態です」
違法建築問題により暗礁に乗り上げていた建て替え協議が再スタートを切ったのは2024年2月だった。東急不動産から建て替えにまつわる事業協定の延長と今後のスケジュールについて提案を受けた組合は総会を経て内容を承認。ここでようやく棚上げを余儀なくされていたフロレスタの本格的な再建へと舵をきったのだ。
この時点で、すでに仮住まいから2年以上が経過しており、住民らの心労もピークに達していた。だが、ここからさらなる悲劇がフロレスタを襲う。
「合意から1ヵ月後となる今年3月に突然、東急不動産が『建て替え事業は断念し、事業協定の更新は行わない』との通知を組合宛てに送り付けてきました。さらに今後は東急不動産が部屋の買い取りを行い、応じない場合は法的措置を取ってでも現在の仮住まいから出て行ってくださいとの旨の通達を出してきた。
あまりに突然かつ一方的な要求に言葉を失うしかありませんでした。問題を引き起こしていた張本人がどうしてここまで強気の要求ができるのか。住民たちからすると全くもって納得できません」(前出・組合関係者)
組合として事業延長の承認を出したのが2月25日。わずか1週間ほどで東急不動産は前言撤回を行い、取り壊しの方針へと変更したことになる。まさしく急転直下の出来事だ。住民の一人が言う。
「東急不動産は買い取りをあくまでも提案と言っていますが、実際は組合との話し合いには一切応じていません。それでいて住民個々の仮住まい先には売買を急かす手紙を何度も送りつけてくる。うちの妻はその手紙を見るたびに気が滅入ってしまい、ノイローゼ状態になっています。一部の反発した住民は『だったらあなたたちには売らず、フロレスタに戻ります』と伝えると今度、東急は『戻らないでください』と言う。結局、こちらには家を売るしか選択肢が残されていないんです」
さらに東急は「今年の12月20日までに現在の買い取り内容に応じない場合は提案内容を変更する可能性がある」と住民らに説明している。
「期限を設けて、内容を変えるなんてまるで脅しのようなやり方ですよ。現在、30戸以上が買い取りに応じていると報道にもありましたが、合意した住民のなかには『もう東急の対応に心が折れてしまった』『これ以上、東急と関わりたくないし、大事な時間を取られたくない』と組合にこぼしています。みんながみんな喜んで売っているわけではなく、なくなく自宅を手放している人たちもいるんです。
住民たちにはすでに近所の学校に通っているお子さんがいる家庭もあれば、終の棲家のために購入した2人合わせて180歳に迫るという老夫婦もいます。組合としては従来の約束通り、個数が少なくとも建て直しを行ったうえで住民と買い取り交渉を行うべきだと今後も主張していきます」(前出・組合関係者)
不可解なのは前編で触れた構造確認だ。2005年の姉歯事件を受け、翌年、組合側は東急不動産に「マンションの建築構造上、問題はないのか」という問い合わせを行っている。その際、東急不動産から管理組合宛て送られた書面には「構造の安全性につきましては国土交通省が現在確認検査機関に求めているチェック項目に準じて行いました。(中略)構造計算と構造図との断面諸元の照合、構造詳細図の確認を行いました」と記されていた。
つまりフロレスタについては確認したが、構造の問題はなかったと明言していたはずだった。しかし、蓋を開ければ住民の想定以上となる施工不良の数々が発見されていった。その理由を組合関係者が明かす。
「もちろん東急不動産側には『あの時の確認では問題はないと言っていたじゃないですか』と尋ねています。向こうの返答は『隣のマンションと間違えていました』というもの。隣は5階建てでフロレスタは8階建てです。どうやったら間違えるのか。構造の確認で階が違うものを見ても気が付かないなんてあり得ないですし、仮に事実だとすれば、そんなずさんな確認作業を行っていることの証拠になります」
さらに住民の一人はこうも訴える。
「この問題はフロレスタだけではなく東急の企業体質が大きく影響し、起きたことだと思っています。東急の手掛けるドエル・アルスシリーズは全国にも展開しており、姉歯事件同様、他のマンションでも同様の施工不良が起きていないとは断言できない。特に耐震性については人命に関わる大事な問題です。他の東急の物件に住む住民や組合自らの早急な点検が必要だと感じます」
昨年12月11月には管理組合と弁護士らが会見を開催。これまでの経緯を説明したうえでフロレスタの構造問題、そして東急不動産の対応について怒りを滲ませた。
果たして東急不動産は住民たちの訴えをどう受け止めるのか。昨年12月24日、同社に連絡を入れると以下の回答があった。
―一連の施工不良についてご見解をお聞かせください。
「建物の構造については専門的な分野になり、またマンションの検査は東急建設が行っております。ただ、施工不良に関しては我々も把握はしております。それに対して住民の方々や周辺の方にご迷惑をおかけしているのは確かなことです」
―施工不良の原因についてお聞かせください。
「原因については施工を担当した東急建設が調査を行っていると認識しております。もちろん発注側の我々にも責任はございますが、具体的になぜ発生したのかという点については東急建設が調査、解明しているところです。これまでにも調査報告は上がってきておりますし、当然ながら様々な関係機関にも東急建設側が説明を行っていると思います」
―2006年に「構造確認を行った」との文書を組合に送付したが、実際には隣のマンションと取り違えて確認を行っていたのは事実でしょうか。
「文書は弊社が出したもので間違いありません。そのように住民の方にご説明したのは事実です」
―真北のズレの原因についてお聞かせください。
「原因については調べていました。東急建設も設計管理は別の会社に発注しておりましたので、そこで原因究明がなされていたと思います。当時、測量された方が亡くなっているのは事実です」
―建て替えから一転、取り壊しとなった理由についてお聞かせください。
「建物が完全に安全ではないということで、住民の方々には2021年4月以降で一度、仮住まいに退去いただいております。その調査のなかで建て替えをする際に真北のズレが見つかり、その問題を是正して新しく設計をすると49戸の建物が建たないという状況になりました。元のような大きな建物に戻せないということで、どなたが戻って、どなたが戻らないといった住民の方のなかの不公平が生まれかねないと考えています。
現在、マンションは補強を行っておりますが、違法建築状態であるものを我々としては早く解決したいと思っておりますので、建て替えから買い取りに変更しました。なぜ買い取り期日を設けているかについては、すでに49戸のうち、30戸以上は買い取りが決まっております。残りの住民の方にも当社の提案にご納得いただけるよう個別で交渉しております。そのなかで早めに買い取りを決めて頂いた方と現在も仮住まいに住んでいらっしゃる方もいます。そこで住民のなかでの不公平が生まれる可能性がありますので、期限を切って交渉させていただいているのが現状です」
―期限を区切った理由についてお聞かせください。
「早期の買い取りをしたいというのが我々の思いでして、条件を変える期限を設けさせていただいております。一方で期限は区切ってはいますが、住民の方々とは個別の交渉で様々なお話し合いをさせていただいております」
―組合、住民への取材のなかでは「従来通りの建て直しを行い、その後に住民と買い取り交渉を行うべきではないか」という声もある。その点についてお聞かせください。
「今の方針としましては買い取りさせていただいて、現在のマンションでは耐震構造上、問題がありますので、解体して早期解決するというものです。1998年に建設し、長く住まれている方がいらっしゃり、また思い出が詰まっている場所というのは理解しております。我々も非常に心苦しいですが、実態として法令違反があるわけで、そういう建物を残しておくのは周辺の方々にとっては不安だと思いますので、住民の方と個別具体的に交渉している状態であります」
―取り壊した後の土地はどうする予定でしょうか。
「全くの白紙の状態です」
―フロレスタ以外にも「東急ドエル・アルスシリーズ」は全国各地に建設されているが、他のマンションの点検は行っているのでしょうか。
「すべての物件で異常がないかどうかはモニタリングなど定期検査、また特別な事象があれば特別検査を実施しております。また同様の事象が起きているという報告は現時点では上がってきておりません」
―フロレスタの件があって再度、点検を行っているのでしょうか。
「常にしております。もちろん今回の問題があったということで点検は行っていますが、ひび割れなど施工不良の予兆についても常にモニタリングしております」
―世田谷フロレスタもその「常にモニタリングするマンション」に含まれていたはずだが、なぜ施工不良の発見に時間がかかってしまったのでしょうか。
「建物の異常が起きた時に関して我々が対応するということになっておりまして、何も起きてなければ何も起きてないだろうということになります。ですので、そのマンションで『こういうことが起きましたよね』『こういうことがおかしいですよね』というものがなければ、そこの部分は基本的にあったものを対応していく形にしております。他社の物件の事例なども参照しながらモニタリングしている状態です」
―会見など会社としてのご説明を行う予定はあるのでしょうか。
「今のところ予定しておりません。理由としましては、分譲マンションの場合は販売すると住民の方、管理組合の方に権利が移ってしまいます。そのなかで我々が会見を開いて何かを説明してしまうと他人の資産を棄損してしまう可能性がありますので、住民の方々と水面下で交渉を進めていたのが事実であります。今の状態にあっても現在も交渉を進めておりますので、こちらでリリースを出したり、会見を行う予定はございません」
―取材のなかで、問題発覚後の東急不動産の対応について納得がいかない住民の声も把握しております。その点についてのご見解をお聞かせください。
「我々としては調査して、その結果をお知らせするなど段階を踏んでご説明している流れではあります。ただ住民の方のご心労をおかけしているのは確かです。我々としては個別の交渉で早期解決のために努力を続けております」
一方、施工を担当した東急建設はこう回答した。
―組合の会見内容についてご見解を聞かせてください。
「今回の件で住民の方にご迷惑をおかけしていることについてお詫びを申し上げます。会見の詳しい内容自体は把握しておりませんが、施工不良、施工の不具合があったことは事実でございます。その点については事業主である東急不動産とも連携しながら対応している状況でございます。引き続き誠意を持って対応していきたいと考えております」
―施工不良の原因についてお聞かせください。
「大変恐縮ではございますが、個別の工事の内容についてはこれまでも開示をしておらず、詳細については回答していないことをご了承ください」
―真北のズレの原因とご見解をお聞かせください。
「個別の内容になりますのでご回答は差し控えさせてください」
―今回の問題を踏まえドエル・アルスシリーズの点検は行っているのでしょうか。
「会社としてこのような施工があったことは非常に重く受け止めております。品質自体は当社にとって非常に重要な要素になります。全社での体制の整備、従業員教育を引き続き実施し、再発防止に努めて参りたいと思っております」
―自治体への報告はどのように行っているのでしょうか。また公金補助の返金についてのご予定はあるのでしょうか。
「個別の内容ですので回答は差し控えさせていただきます」
―記者会見のご予定はあるでしょうか。
「会見の予定は今のところございません。今回の件で住民の方にご心配をおかけしたことはお詫びを申し上げたいと同時に今後、このようなことが起きないように再発防止に努めて参りたいと思います」
取材に応じた住民の一人はこう苦しい胸の内を明かす。
「地下ピットの一件から組合側は東急と1ヵ月に1度の話し合いを続け、次々と噴出するトラブルで2週間に1回、1週間に1回のペースになっていった。それが7年間です。そして最後は『やっぱり建て壊しますので、出て行ってください』のひとこと。私たちが怒っているのはなにもフロレスタの施工不良についてではありません。住民の感情を逆撫でするような東急の対応に憤っているんです。これは企業体質の問題です。買い取りの期限は遅くても今年の秋頃を予定しています」(前出・組合関係者)
施工不良、耐震構造の不備、そして違法建築という三重苦を生み出した東急。グループの理念である「美しい生活環境を創造し、調和ある社会と、一人ひとりの幸せを追求する」という約束が果たされる日は来るのだろうか。
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