臭いキツイ「焼酎水割り」を口元に押し付けられ…泥酔させられて大金支払う

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庶民的な居酒屋が軒を連ねるJR赤羽駅(東京都北区)周辺の繁華街で、悪質な客引き行為が深刻化している。
中国人らのグループが客を泥酔させて大金を支払わせる手口で、警視庁は一斉摘発に乗り出すなど取り締まりを強化。北区も罰則付きの条例を施行した。千円札1枚で気軽に楽しめることから、「せんべろの街」として親しまれてきた赤羽を守るための取り組みが続く。(坂本早希)
■焼酎で意識失う
「お兄さん飲みに行こう」。北区で運送会社を営む男性(47)は今年5月、友人との飲み会を終えた後、赤羽駅東口で中国系の女性2人に声をかけられ、雑居ビルの店に入った。
席につくなり、臭いがきつい「焼酎の水割り」を勧められ、グラスを口元に押し付けられた。途端に意識がもうろうとし、植え込みに放置されたことは覚えているが、前後の記憶はあいまいだという。
財布からは20万円がなくなっただけでなく、クレジットカードで家電2点など計約100万円分を買ったことになっていたという。男性は「地元でこんな目に遭うとは」と悔やむ。
■通報急増
警視庁によると、赤羽地区の客引きに関する110番は、2019年の195件から翌20年は269件、21年には459件と急増した。今年の上半期も231件で前年同期を上回るペースで、警視庁は6月以降、客引きや店の経営者ら計22人を風営法違反容疑などで次々に逮捕した。
共通する手口はこうだ。酔客を狙って声をかけ、アルコール度数の高い中国酒の「白酒」などを飲ませて酩酊(めいてい)させた上で、カードが「決済できない」などとうそを言って客を現金自動預け払い機(ATM)まで連れ出し、現金を引き出すのだという。
背景にはコロナ禍に伴う飲食店の苦境もあるとみられている。捜査関係者によると、それまでJR新橋駅(港区)周辺を拠点にしていた中国系の客引きがスカウトされ、赤羽で活動を活発化させたという。
摘発された経営者と従業員のSNSには、「コーラに白酒を入れた。相手の話を聞いて『偉いですね』と言えばいい」「この客は期待できない。意識がはっきりしている」といったやり取りが残されていた。
■条例で罰則も
地域の歴史に詳しい北区飛鳥山博物館の学芸員、久保埜企美子さん(60)によると、赤羽駅周辺は戦後、闇市として発展し、高度経済成長に伴って近隣の工場で働く労働者たちが酒を楽しむ街になった。1000円でべろべろに酔える「せんべろの街」と呼ばれるようになったのは、10年頃からという。
庶民の街に暗い影を落とす「ぼったくり被害」に対処するため、北区は7月、赤羽駅周辺での居酒屋やガールズバーによる客引き行為を禁じる条例を施行した。今月からは、違法行為を繰り返した場合に過料を科し、氏名なども公表することになった。
罰則がある同様の条例は、新宿、港、豊島など8区ですでに導入されている。北区の坂内秀年・生活安全担当課長は「警察に頼るだけでなく、地元としても危機意識を持っていきたい」と語る。
警視庁の相次ぐ摘発や巡回強化を受け、悪質な客引きは減少傾向にあるものの、現在も深夜から未明にかけて被害に遭う人は少なくない。駅周辺の商店でつくる赤羽一番街商店街振興組合の山県純子さん(52)は、「赤羽は安くて気軽に飲めると若い人にも人気になっている」とし、「お客さんが足を運びやすい安全な街を守っていきたい」と話している。

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