【芳沢 光雄】「2億円は50億円の何%か」…就活中の大学生ですら「25%」と間違えてしまう問題の正解は?

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食塩水の濃度や往復の平均速度など、仕事などでちょっとした算数の知識が問われる場面に出くわして、ドキッとしたことはないだろうか。「昔は解けたのに……」、そう思うのに解けない。そんな大人たちは本連載で今一度、算数を基礎から学び直してみてはどうだろう。
長年、算数・数学教育に携わってきた桜美林大学名誉教授・芳沢光雄氏の新刊『大人のための算数力講義』(講談社+α新書)より抜粋して、「算数の重要な考え方」をお届けする。
『大人のための算数力講義』連載第12回
『1個30円のミカンが5個、1個120円のリンゴが3個、1個330円のパパイヤが2個。「加重平均」価格は?』より続く
算数の内容では、「もとにする量」と「比べられる量」の理解が最も難しいようである。中途半端に理解していることから、大きな間違いを引き起こすことになる。
何年か前から一部で「く・も・わ」なる奇妙なものが流行り始めた。
「%」に関してよく分からなくても、暗記した関係式を正しく思い出せれば、当面は困らないかもしれない。しかし、意味を理解しないまま大学生になってしまう者が少なくない。
「く」は比べられる量、 「も」はもとにする量、「わ」は割合で、
という図式で、
「も」×「わ」=「く」
というように、下段の二つを順に掛け合わせたものが上段のものになると暗記させる。そして、この関係式を忘れると、とんでもない間違いをしでかしてしまうことになる。
これから、「もとにする量」と「比べられる量」について基礎から理解しよう。
「もとにする量」は最初に基準とする量で、「比べられる量」はそれと比較する量である。ここで重要なことは、「もとにする量」の量と「比べられる量」の量は同じ内容で、一方が他方の何倍という関係の意味があるものに限る。
すなわち、両方とも距離のことであるか、両方とも金額のことであるか、両方とも重さのことであるか……等々。この一見当たり前な指摘をあまり見掛けないので、ここではっきり述べておく。
いま、母親の身長が150cmで子どもの身長が120cmとする。母親の身長をもとにする量とし、子どもの身長を比べられる量とすると、比べられる量はもとにする量の4/5倍である。
逆に、子どもの身長をもとにする量とし、母親の身長を比べられる量とすると、比べられる量はもとにする量の5/4倍である。
次に、「~を1とする」という表現を学ぼう。「2000円を1とする」の意味を次の図で考える。この1は同じ1でも、ちょっと大きい1だと思ってみる。
1の1/10は0.1で、1の1/100は0.01である。2000円を1とすると、図より0.1は200円で、0.01は20円である。この大文字を用いるのは導入時のみである。
ここから「%」を導入しよう。「もとにする量」と「比べられる量」の対象となり得る何らかの量を想定し、もとにする量として△を考える。
△を1としたときの0.01に相当する量(比べられる量)を△の1%という。
たとえば△を2000mとするとき、2000mを1としたときの0.01に相当する量は20mなので、2000mの1%は20mである。ここから、
20m=2000mの1%
200m=2000mの10%
4000m=2000mの200%
などが分かる。
上の三つの式の左辺のそれぞれは、2000mをもとにする量としたときの比べられる量である。
一般に、~%という表現を「百分率」という。また日本式の表現の「歩合」では、10%を1割、1%を1分、0.1%を1厘、0.01%を1毛という。そこで、34.56%は3割4分5厘6毛になる。
ところで、江戸時代の数学教科書『塵劫記』にも書かれているが、江戸時代には「割」の概念がなく、10%を1分、1%を1厘というように、一つずつずれていた。その後、明治から大正の時代にかけて「割」が割り込んできたのである。
よく、「その勝負は五分五分だ」、「その話は九分九厘成功する」と聞くが、それらにおける「分」と「厘」はもちろん「割」と「分」の意味なのである。
もとにする量に対する比べられる量の「割合」とは、比べられる量を「百分率」や「歩合」で表したものである。あるいは、もとにする量を1とするときの割合を示すものとして用いることもある。
たとえば、「2000円に対する460円の割合は0.23(23%、2割3分)」という。
ここで、その表現に注目すると、
2000(円)×0.23=460(円)
0.23=460(円)÷2000(円)
となっている。これらを一般化して述べると、
もとにする量×(もとにする量に対する比べられる量の)割合=比べられる量
(もとにする量に対する比べられる量の)割合=比べられる量÷もとにする量
という式になる。
2012年度の全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)に次の問題が出題された。参考までに述べる。
算数A3(1)(小学6年)
黒いテープと白いテープの長さについて、
「黒いテープの長さは120 cmです」
「黒いテープの長さは、白いテープの長さの0.6倍です」
が分かっているという前提で、以下の図から適当なものを選択させる問題。
「3」と解答した生徒が50.9%もいる半面、正解の「4」を解答した生徒が34.3%しかいなかった。もとにする量と比べられる量の表現について、小学生が苦手なことを示す結果の一つである。
もとにする量と比べられる量は、意味を理解せずに「く・も・わ」などの「やり方」を覚えるだけでは完璧に乗り越えることは難しい内容である。
たとえば、以下の4通り(1)、(2)、(3)、(4)の表現は、「…」をもとにする量、「~」を比べられる量として、意味としては同じことを述べている。
(1)~の…に対する割合は○%
(2)…に対する~の割合は○%
(3)…の○%は~
(4)~は…の○%
しかし、「やり方」だけで学んでいると、それら四つの表現で混乱してしまうことがよくあるのだ。
大学生でもその傾向があり、就活の適性検査でよく間違えてしまう。実際、「2億円は50億円の何%か」という質問をすると、「25%」と答える大学生が結構いる(正解は4%)。
『10%の食塩水を1000gつくるのに必要な食塩と水の質量は?』へ続く
10%の食塩水を1000gつくるのに必要な食塩と水の質量は?

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