インフル・コロナ同時流行指針に現場苦慮 「自己検査の陰性だけでは…」

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今冬に懸念される新型コロナウイルスと、季節性インフルエンザの同時流行を見据えた政府方針を巡り、自治体や医療現場が対応に苦慮している。
医療逼迫(ひっぱく)を回避するため、発熱外来の受診を絞り、オンライン診療の活用を促すが、対応する医療機関が限られる上、インフルの診断や処方薬の配送などに課題が残る。実効性に疑問が生じれば、混乱に拍車がかかる恐れもある。(外崎晃彦、深津響)
「同時流行すれば、通常医療は第7波よりも深刻になる恐れもある。最悪の事態を想定することが会議の役割だ」。政府方針を踏まえ、17日に開かれた東京都の対策会議の冒頭、帝京大病院の坂本哲也院長はこう危機感を示した。
都は同時流行を前提に、病床や宿泊療養施設の居室数確保を図る一方、発生届の対象外となるコロナ患者が自ら登録する「陽性者登録センター」の対応人数も引き上げる方針。都民には解熱鎮痛薬や抗原検査キットの事前準備を呼びかけ、高齢者を中心にコロナワクチンとインフルワクチンの同時接種も促す。
政府方針に基づけば、軽症のインフル患者にも自宅療養を求めるため、都は調剤薬局から抗インフル薬を受け取る仕組みづくりを進める。抗インフル薬は発熱から48時間以内の服用が求められることから、会議では「どう迅速性を担保できるかが課題だ」との認識が示されたという。
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医療現場からは、オンライン診療によるインフルの診断に疑問符がつく。
コロナの発熱外来を設置する「いとう王子神谷内科外科クリニック」(東京都北区)の伊藤博道院長(48)は「オンライン診療では情報量が少ない。(コロナの)自己検査の結果が陰性だったというだけで、インフルエンザと診断するのは難しい」と漏らす。
インフルはコロナだけでなく、一般的な風邪などとも症状が似ている。異なる診断を出し、症状が改善されない場合、患者が再び医療機関を受診することも想定される。伊藤院長は「医療逼迫が考えられるからこそ、正しい診断をして正しい治療につなげていくべきだ」と強調する。
同院では約1年前からコロナ疑い患者らを対象にオンライン診療を実施しており、抗原検査で陽性だった場合には速やかに処方薬を出したり、登録センターを案内したりするなどしてきた。
伊藤院長はこうした経験を踏まえ、インフルについても自主的な抗原検査を認めるように求めており、「インフル患者も陽性と分かっていれば、安心して診察に臨むことができる」と訴える。
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体制面にも課題を抱える。厚生労働省によると、オンライン診療に対応した医療機関は昨年12月末時点で、全体の15%程度の約1万7千にとどまる。さらに、処方薬の配送に対応できる調剤薬局が限られることも懸念材料だ。
いとう王子神谷内科外科クリニックの場合、オンライン診療で薬の処方を依頼できるのは2つの薬局だけだといい、「薬局で配達機能を持っているのは一握り。国の力でサポートするべきだ」(伊藤院長)。
東京都西東京市で調剤薬局4店を運営する「田無薬品」の薬剤師、磯部紀子さんは「コロナで処方薬の配送の仕組みはすでに確立している」としながらも、「地域密着型で運営しており、地元周辺への配送は受けられるが、都内のどこへでもというわけにはいかない」と打ち明ける。
都内の保健所の担当者も「医療現場がしっかり納得していないと、最終的に保健所や自治体にしわ寄せがくる」と話した。

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