「ユリ・ゲラー」初来日から50年 今なら間違いなく炎上する“スプーン曲げの超能力ブーム”はなぜ起きたか

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ユリ・ゲラーという名前を聞いて、今の若い人たちは何を思い浮かべるだろう。彼が初めて日本にやって来たのは1974年2月、ちょうど50年が過ぎた。テレビでスプーン曲げを披露すると、日本中が超能力ブームとなった。
***f
【写真を見る】インチキ?本物? スプーン曲げブームでテレビに引っ張りだこだった日本人の“超能力少年”
1974年といえば、田中角栄が金脈問題の責任を取って首相を辞任した年だ。ジャイアンツの長嶋茂雄が「我が巨人軍は永久に不滅です」の言葉と共に引退し、フィリピンのルバング島で独り戦闘を続けていた元日本兵の小野田寛郎が終戦から29年を経て帰国した年でもある。
そんな日本にやって来たのが、イスラエル出身のユダヤ人超能力者、ユリ・ゲラー(77)だった。まずは2月25日、人気番組「11PM」(日本テレビ)に出演。その様子を「週刊新潮」(74年3月14日号)が報じている。
《大橋巨泉と松岡きっこの司会者コンビにスプーンを持たせ、「あなた方も曲がるように念じて下さい」というや、ゲラー氏、自らもスプーンを持って三人で、アラジンの魔法のランプよろしく、せっせとこすり始める。途中からは彼の独演会である。たしかにスプーンは曲がってくるけれど、怪獣番組が作れるテレビにはあんなこと朝飯前だろう、としか思えない》
真っ向から超能力を否定しているのだが、視聴者はそうではなかった。
3月7日に「木曜スペシャル」(日テレ)に出演すると、瞬く間に日本中が超能力ブームとなったのだ。当日のラテ欄にはこうある。
《「驚異の超能力!!世紀の念力男ユリ・ゲラーが奇跡を起こす!」念力で金属が曲がる▽テレパシー透視術▽そして……“今日午後8時35分”日本全国に何かが起こるか?》
当時、小学生だった50代後半の人に聞くと、「ユリ・ゲラーがカメラの前で『スプーンを手に持ってください。そして、私と一緒に念じてください』と視聴者に向かって呼びかけるんだ。慌てて台所からスプーンを持ってきて、テレビの前で念じたよ。翌日の学校では、『曲がった!』という子も多かった」という。
当時、テレビではなく実際にユリ・ゲラーを見たというのは、超常現象研究家で日本宇宙現象研究会(JSPS)会長の並木伸一郎氏(77)だ。
「初来日の時、ユリ・ゲラーのショーというかイベントがあったんですよ。僕は日本空飛ぶ円盤研究会の荒井欣一会長に誘われて行ったんです。会場はどこだったかな、結構広い会場が満員でしたが、僕らはかなり前のほうで見ることができました。お客さんはみんなスプーンを持参していました」
全員でスプーン曲げをやったのだろうか。
「『曲がれーっ!』が合言葉でね、スプーンを目に前に掲げて念ずるわけです。すると実際に曲がる人が半分くらい出てきたんです。壊れた時計が動いたという人もいました」
並木さんのスプーンは曲がったのだろうか?
「曲がらなかった。もし曲がっていたら、超能力の研究もしていたかもしれません。僕は信じる力が足らなかったのかもしれない。物事を疑ってかかってしまうから」
JSPS会長なのに?
「もちろんUFOを見たという人の話も客観性を持って聞きます。ただね、超能力というものを信じていないわけではないんです。ユリ・ゲラーのショーでも実際に一般の人が曲げるのを見たし、テレビを見て曲がったという人が僕の周りにも何人もいました。人間って、火事場の馬鹿力じゃないけれど、自分が思っている以上の思わぬ力を出す時があるじゃないですか。念じる力というものもあるかもしれません」
来日前のユリ・ゲラーは、超能力者として有名だったのだろうか。
「少年漫画誌などでは、以前から特集されていたと思います。ただ、それほど話題になっていたわけではありません。世界的に見ても、そうだったのではないでしょうか。当時、日テレのディレクターだった矢追純一さんが、たまたま見つけたと聞いています。それほど当時のテレビの力は大きかったんです。ユリ・ゲラー人気は最初に日本で火がついたと言っていいでしょう」
ユリ・ゲラーの登場後、日本には何人もの超能力少年が現れ、テレビで引っ張りだこになった。
「有名な清田(益章)くんもそうでした。後にスプーンを力で曲げているところを撮影されてインチキ呼ばわりされてしまいましたが、そうした能力っていつでも出せるものではないと思うんですよ。念力という精神的なものでもあるから、撮影が入ると能力を出せないことだってあると思います。実際、僕が立ち上げから関わったオカルト情報誌『ムー』(ワン・パブリッシング)の編集部が、清田くんに実験をお願いしたことがありました。合羽橋(東京・台東区)の道具街で、人の手では絶対に曲げることができない頑丈なスプーンを買ってきて渡すと、彼はグニャグニャに曲げてしまい、編集部一同が彼の“信者”になったこともある。ですから、本当の超能力の持ち主はいると思っています」
ユリ・ゲラーは本物の超能力者なのだろうか。
「それは何とも言えません。2017年にCIA(米国中央情報局)が公開した資料の中には、ユリ・ゲラーのテレパス能力を試した実験結果も入っていましたから、普通の人とは違う何らかの能力を持っているのでしょう。超能力で油田を見つけて悠々自適の生活とも聞きますし」
06年には彼が大ファンというエルヴィス・プレスリーの旧宅を90万5100ドル(当時の約1億円)で落札したとの報道もあった。お金に不自由はしていないようだ。
「その一方で、英国のビッグ・ベンを大晦日に止めてみせると発表したものの止められなかったこともある。また、任天堂のポケットモンスターのキャラクター『ユンゲラー』は明らかに自分をイメージしたキャラで、ストーリー上、悪役であることでイメージが傷つけられたと、6000万ポンド(当時の101億円)の賠償を求めて任天堂を訴えると宣言したこともありました。余計なことをしてはダメなんでしょうね」
後に彼は任天堂の一件について、自身の公式X(当時のTwitter)で「20年前のことを本当に後悔しています」と反省している。
ともあれ、彼が超能力というブームを巻き起こしたことには間違いはない。なぜそれほど盛り上がったのか。
「今なら考えられませんよね。番組の放送中にSNSで炎上してしまうかもしれません。当時は、70年安保も失敗に終わって、学生運動の夢も潰えた時代でした。73年にオカルト映画『エクソシスト』がアメリカで公開されて大ヒットし、この年に出版された五島勉氏の『ノストラダムスの大予言』がベストセラーになったことで、オカルトブームに下地ができた。ちなみにJSPSが設立されたのもこの年です。そこに超能力やUFO、ネッシーをはじめとする未確認動物(UMA)といった、いるのかないのかわからないけど完全には否定しきれないという点に感じる謎とロマンが新鮮に映ったのかもしれません」
あれから50年、またオカルトブームが生まれることはあるのだろうか。
デイリー新潮編集部

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。