【栗田 シメイ】通称「渋谷の北朝鮮」…!異常ルールで支配する管理組合を相手に立ち上がった住民たち…!ルポ「秀和幡ヶ谷レジデンス」

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老朽化マンションの増加にともない、管理組合による行き過ぎた監視体制も問題化している。住民がマンション自治への無関心を続けた結果、いつのまにか組合理事会の権限が強くなりすぎ、それによってトラブルが起きるケースが各地の築古マンションで頻発しているのだ。
住民側は泣き寝入りするしかないケースが大半を占めるなか、それでも「異常管理組合」を打ち負かした稀有な例もある。
京王線・幡ヶ谷駅(渋谷区)から徒歩4分。「秀和幡ヶ谷レジデンス」は、総戸数298、築約50年の大型分譲マンションだ。
デザイン性の高い外観でファンの多い「秀和シリーズ」の一つであるうえ、立地も良い。しかし、幡ヶ谷レジデンスは最近まで、付近の相場と比べて格安な価格で取り引きされていた。
その理由は、管理組合の理事会による独裁だ。住民を縛り付ける異常なルールが数多く存在し、不動産価値が下落。幡ヶ谷レジデンスはSNS上でも有名で、一部では「渋谷の北朝鮮」とも呼ばれていた。
理事長を中心とした数名の固定メンバーによって、約30年にわたり支配されてきた幡ヶ谷レジデンス。住民への取材から判明した「異常ルール」は、驚愕のものばかりだ。
・家族や友人を連泊させると、「転入出金」として1万円の支払いを求められた。支払いを拒むと管理人や理事が部屋を訪れ、「払わないなら出ていけ」と恫喝してきた。
・専有部分であっても1ヵ月を超える工期のリフォームは禁止。理事会が内装業者に対し、「入館料」として5万円を要求し、応じなければ認可しないとしたことも。
・非常口を南京錠で施錠。
・介護ヘルパーやベビーシッター、工事業者などは、平日17時以降と日・祝日、入館禁止。
・共有部分でのキャリーケースやベビーカーの使用禁止。
・ウーバーイーツは利用禁止。
・廊下での立ち話や携帯電話は禁止。
などなど。しかも、これらは「異常ルール」のほんの一部だ。住民が深夜に救急車を呼んだが、管理人が寝ていて入館できず、対応が遅れるという危機的状況もあったという。
理事会は、ルール徹底のため、敷地内に約60台もの防犯カメラを設置。理事会に従う管理人だけでなく、理事たちによる「録画確認」も毎日行われ、住民たちは常に監視されている状況にあった。
これらのルールは管理規約や細則に一切記載がないものだったため、当然、反発する住民もいた。しかし理事会は、「8割の住民の賛同を得ている」と、一向に取り合わない。
不満があっても泣き寝入りするしかなかった理由について、約40年にわたり居住する70代の女性はこう語った。
「理事会に異を唱える住民は、これまでも何人か出てきましたが、反対運動が広がるまえにいつも潰されてしまった。そしてその後、反対運動に参加した人たちは露骨な嫌がらせを受けるんです。それを見ていたほかの住民たちは身の危険を感じ、行動に移すことができなくなった」
まさに「渋谷の北朝鮮」……。しかし、そんな独裁管理組合も、’21年11月、ついに打倒された。京王プラザホテル(新宿区)で開かれた総会で、理事会のメンバーが全員刷新されたのだ。
反対運動が始まったのは、’18年のこと。中心となったのは、現・代表理事の手島香納芽氏(59歳)だ。
手島氏は賃貸オーナーだったが、幡ヶ谷レジデンスに移り住むことを考え、’18年の年始に開催された総会に初めて参加した。手島氏はそこで、幡ヶ谷レジデンスの現実を初めて目にしたという。
「管理費の値上げについて住民から質問が出たんですが、その理由が一向に明示されない。しかも、理事長は質問した組合員を徹底して人格攻撃していました」
強い違和感を覚えた手島氏は、総会に参加していた住民から話を聞き、幡ヶ谷レジデンスの異常な管理実態を知った。
「許せないという気持ちから、総会に参加していた同じ思いの方々と活動を始めました」
有志の会の初期メンバーは人。8月に1~2回、マンションから離れた喫茶店に集まり、相談を重ねた。
手島氏らは、警察、消防、区議会議員など各方面に「助けてほしい」と相談したが、いずれも「民事不介入。力になれない」という回答。また、過去の判例を見ても、住民自治に委ねるという判断で終わっているものばかりだった。
手島氏は区分所有法を調べあげ、異常な管理を止めるには、賛同者を増やし、総会で議決の過半数を取るしか方法がないと悟った。
理事会のメンバーが四六時中監視しているため、マンション内で大っぴらに活動することはできない。そこでまずは、賃貸オーナーに匿名で手紙を送った。しかし期待したほどの返答は戻ってこない。
「所有者は高齢者も多く、ことを荒立てたくないという考えの方が多かったのだと思います」(手島氏)
後編記事『「秀和幡ヶ谷レジデンス」に学ぶ、ヤバすぎる「管理組合」との戦い方』へ続く。
「週刊現代」2024年3月9日号より
「持ち家か賃貸か」「戸建てかマンションか」…ついに正解がわかった

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