【渋澤 和世】妻にも不倫相手にも逃げられた60代男性が迎えた「路上生活」、思いもよらなかった人生の「晩年」

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自分は人生の最期をどんな状況で迎えるだろうか。そんなことを想像する時が誰にもあるはずだ。多くの人は、できれば家族に見守られて穏やかな最期だといいなとか、できれば有料老人ホームで静かで豊に過ごせればいいな、などという夢を描くことが多いだろう。
しかし、全てのこうした理想的な形で人生の晩年を過ごせるわけではない。自分で選んだ道が失敗だった、ということもある。
そうなると、それまでの人生をどれだけ真面目に過ごしてきたにも関わらず、思わぬ晩年を過ごさなければならなくなる。そんなケースを在宅介護エキスパート協会代表で、社会福祉士の渋澤和世氏による取材事例を紹介しよう。
北海道出身の山田敬さん(67歳)は、現在、神奈川県で一人暮らしをしています。
過去には結婚して時期もあり、ひとり娘にも恵まれました。しかし、22年前に妻とは離婚。娘は元妻が引き取り、元家族は全くの疎遠状態です。
離婚の原因は、山田さんの不倫でした。当時、山田さんは長距離トラックの運転手をしていたました。勤めていた会社に身寄りのない若い女性がいて、彼女から身の上話や悩みの相談を受けているうちに情が移り過ちを犯してしまったのです。
「好きって感情というよりも、自分が理解者になりたかったというのかな。女性だからおしゃれもしたかろうと、多少ですが金銭も渡していました」(山田さん、以下鍵括弧内同)
ところが、その女性から自宅に電話があり、妻に二人の関係がばれてしまいました。元々山田さんの奥さんは感情の起伏が激しいタイプで、夫の浮気を知り、家庭内は修羅場になったと言います。
浮気相手の女性も山田さんの奥さんの剣幕を知り、いつの間にか会社も退社、山田さんの前から姿を消してしまいました。反省した山田さんは懸命に妻に許しを請いますが、妻には許してもらえず、そのまま夫婦は離婚してしまいました。
「多少ですが養育費を渡していた間は僅かながらも元家族とも交流があったのですが、娘も大人になってからは連絡も途絶えました。私の行動がやっぱり許せなくなったのでしょうね。今では電話番号も住んでいる場所もわかりません」
山田さんは離婚後もトラックの運転手を続けました。頑張れば頑張るほど収入は増えるのですが、長時間の運転は肉体的、精神的なストレスが蓄積していきます。
ある日、顧客である荷主とトラブルを起こしてしまいました。あの業界では荷主の要求は絶対で、時間厳守鉄則です。時間に遅れるのは当然のこと、早すぎてもクレームをうけます。事故や渋滞もあるわけで、休憩もとれないことも珍しくありません。
「イライラが溜まっていたのでしょう。30分到着が遅れたとき、少し言い訳してしまったら、それを『歯向かった』と勘違いされて。とりあえず相手の叱責は聞いていたのですが、プツンと糸が切れたというか、そのまま会社を辞めてしまいました。養育費からも開放されその安心から頑張った仕事もどうでもよくなったかもしれませんね」
それからは、まさに坂道を転げ落ちるような人生です。
仕事を失うと、家賃を支払うことができず、路上生活になるのもそう時間はかかりませんでした。当時の収入源は、引っ越しなどの日雇い労働が中心。時にはまだ使用できる洋服や家具、家電がごみとして捨てられているのを拾っては、リサイクルショップに持っていくこともありました。お金が入った時はカプセルホテルや漫画喫茶に行きました。
「(路上暮らしは)割と周りにも似た境遇の人たちがいて結構、居心地がいいんですよ。時には将棋や昼からお酒も飲むようになったのも、この頃からです。変に聞こえるかも知れないけど、ホームレス生活を楽しんでいたところもありましたね」
心のどこかでは「このままではいけない」「社会復帰もしたい」という気持ちも持っていたようなのですが、思いのほかの気楽さから、ずるずると年月を過ごしていきました。
そんなある日、路地裏で食べ物を探していた山田さんは男女二人組から声を掛けられました。明後日、公園で相談会を開くから来ませんか、とうのです。特に予定もない山田さんが行ってみると、先日の男性がいました。
そして、ニコニコと笑顔で「よく来てくれました」と、手を握ってきたのです。暖たかい手で握られたのはいつだっただろう。ふと、別れた家族の顔が浮かびます。
手を握ってきた男性は、ホームレス支援のNPO団体に所属していました。彼の導きで、山田さんの人生はどう変わっていったのでしょうか。
その詳細については、〈妻にも不倫相手にも逃げられた60代男性が迎えた「路上生活」、思いもよらなかった人生の「晩年」〉にて紹介していきます。
路上生活をしていた60代男性が「養護老人ホーム」に入所、訪れた「まさかの事態」

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