ルールを犯して撮影する“迷惑撮り鉄”の主張「同じ構図だと誰でも撮れる写真に思えて…」

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写真撮影をする鉄道ファン、通称撮り鉄の一部による迷惑行為が社会問題化し、批判を集めている。なぜルールを犯してまで撮影するのか。当事者に直撃すると、彼らなりの理屈が浮かび上がってきた。
◆地雷鉄vs偽善鉄の争いにマスコミが拍車をかける
「お前、ふざけんなよ!」
若い男性が胸ぐらをつかみ、ホームの空気が一瞬ピリつく。この日、JR大宮駅には多くの撮り鉄がカメラを構えていた。物騒な様子を目の当たりにし、取材班の肝は冷えた。
昨今、一部の過激な撮り鉄によるトラブルが相次いで報じられている。迷惑行為をする撮り鉄は界隈で「地雷鉄」と呼ばれ、SNSや報道で明るみに出ることで、撮り鉄全体に悪いイメージを広げている。
「どの撮影地も開拓し尽されていて、同じ構図だと誰でも撮れる写真に思えてしまって。ならば、危険を冒してでも価値のある一枚を撮ろうと考えてしまう。ただ、踏切の信号に登って電車を止めたときは、やってしまったと思いました」
◆過激な撮り鉄の言い分は…
垢抜けた印象の塚本耕太さん(仮名・16歳)は、反省の色をのぞかせた。だが、「(線路内)乱入はアウトとグレーなところがある」と続ける。
「知人に運転士がいますが、人を発見したらルール上緊急停止させないといけないからそうしているだけだと。本当は撮り鉄に理解のある運転士が多いんですよ。それに乱入が黙認された撮影地もあって、遮断機がない踏切で線路内に入って30mの国鉄時代からの場所とかは、緊急停止も通報もされません。
撮り鉄にはローカルルールがあって、それを知らない一般人が通報したり、“偽善”の撮り鉄が承認欲求を満たすためにSNSで晒したりするのはやめてほしい。何か言いたいことがあれば直接言ってくれと思う」
鼻息荒く語るが、電車を止めている以上説得力に欠ける。
◆15歳男性が声を荒らげた「事情」
撮影をめぐり、罵声や怒号が飛ぶ現場は、通称「罵声大会」という。声を荒らげたことがある平井稔さん(仮名・15歳)にその理由を聞いた。
「ある関西の駅でのこと。撮影時はしゃがんだり脚立でひな壇をつくるルールがあるのですが、駅員さんや警察も『頑張って組んでな』と理解ある対応でした。
なのに、撮影直前に後ろから人が割り込んできて、ひな壇が崩されてしまい、誰一人撮影できなかったんです。現場を仕切っていた僕は責任を感じて、崩した人を責め立ててしまいました」
◆「鉄道会社や撮り鉄で基準の統一が必要」
正義感が空回りしているという感も否めない。平井さんは駅員と揉めたこともある。
「たまに否定的な駅員がいるんですよ。いつもならOKなのに突然脚立を禁止にするとか。『じゃあ椅子の上に乗っていいか』と聞いたら『勝手にしてください』と言うのでそうしたら、いざ電車が来たときに『危険だからやめろ』と止められて、カッとなって胸ぐらをつかんでしまった。
後日謝罪に行ったら、駅員も非があったことを認め、和解しました。混乱を抑えるためにも、鉄道会社や撮り鉄で基準の統一が必要だと思います」
どんな事情であれ、15歳の少年が駅員の胸ぐらをつかむとは、ただごとではない。裏を返せば、そのくらい熱意があるのだろうが、世間には理解してもらえないだろう。
「自分たちに向けられる目よりも、駅員が世間の目を気にして黙認されていたことが規制されることが問題。輪をかけてニュースになるけど、マスコミはしょうもないことをいちいち流さないでほしい」
◆界隈仲間は「注意したくてもできないよ」
迷惑しているのは、一般人だけではない。立ち入り禁止などの規制が強化され、撮り鉄も頭を悩ませている。

「違反する人は昔からいたけど、怒られたら謝ったり、バツが悪そうに姿を消していた。最近は無視して強行したり、駅員の指示を聞かない人が増えた」(51歳・カメラマン)
取材した“地雷鉄”2人に共通していたのは、鉄道会社と撮り鉄の間で築かれてきた暗黙の了解があるという主張だった。実際に関東の某大手鉄道会社の運転士に聞くと「撮り鉄の対応は会社で統一はしておらず、職員個人に委ねられている」という証言も。
迷惑系撮り鉄はどうしても悪目立ちする。撮り鉄界に横たわる問題の根は深い。
◆迷惑系撮り鉄 関連用語集
・置きゲバ三脚を置いて撮影場所を確保するNG行為。ゲバは学生運動より三脚の意
・キャタ禁脚立禁止のこと。使用例「○○駅、キャタ禁にされたらしい」
・偽善鉄NG行為を通報したり、SNSや報道機関に晒す鉄道ファンの蔑称
・激パ撮影地が激しく混み、パニック状態になること。「激しくパニック」の短縮語
・地雷鉄マナーやルールを守らず迷惑をかける鉄道ファンの蔑称。屑鉄ともいう
・税金警察の意。警察が現れることは「税金配給」という。比較的新しい言葉
・罵声大会人気の撮影スポットなどで、罵詈雑言が飛ぶ小競り合いが起きること
・乱入私有地や線路内に侵入して撮影するNG行為。使用例「線路内乱入した」
◆撮り鉄がいる日本は平和の象徴?
迷惑撮り鉄の要因について、ヨーロッパ在住の鉄道フォトライター・橋爪智之氏は、寛容な日本のお国柄を挙げる。
「欧米では駅は軍事施設と結びつけられるので、ホームでは撮影禁止で、指示に従わなければ逮捕されることもあります。自由に電車を撮影できる日本の状況は、ある意味平和の象徴。半面、基本的に駅員による口頭注意でしか対処できないので、マナー違反が野放しにされるんです」
一部の心ない者の悪質行為を食い止める手段はないのか。
「『何が悪いんだ』と開き直る人は改心しませんよ。たしかに、昔も線路立ち入りなどのルール違反はあって駅員も見過ごしてくれましたが、いまはSNSですぐに拡散されて世間から『またか』と怒りを買ってしまう。もう時代が許さなくなりました。
また、撮り鉄が駅に集中するのは、試運転情報などが鉄道会社の内部から流出し、SNSで拡散されていることも一因でないかと考えられています。これだけ社会問題になれば、鉄道会社も警察も黙認できなくなり、法改正が進む可能性もある。残念ですが、こうした厳罰化によって自然消滅させていくしかないのかもしれません」
撮り鉄たちへの“警笛”はけたたましさを増している。
【橋爪智之氏】チェコ・プラハ在住。ヨーロッパの列車の写真を日本の鉄道雑誌やWebサイトに寄稿している。日本旅行作家協会(JTWO)会員

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