「白黒思考の人は危険」精神科医が警鐘!ミニマリストに憧れる「捨てすぎ病」の深刻

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昨今、SNSなどでシンプルライフを発信し、インフルエンサーとして支持されているミニマリスト。なかには、家具ひとつない部屋で暮らしている人もいる。あまりにもスッキリとして生活感のかけらもない空間は、憧れの対象ではあるが、異和感も……。
【写真】「捨てすぎ病」と同じメカニズムとされる「摂食障害」の特徴
「極端に何もかもを捨ててしまったり、衝動的にすべて手放したくなったりする人は、メンタルに不調を抱えている可能性があります」
そう注意を促すのは、精神科医の益田裕介先生。
「何もない状態が必ずしもダメというわけではありません。生活において不要かどうかを判断して手放していったのであれば問題ないが……」
と前置きをしつつ、精神科医目線で見ると、やはり“普通ではない状態”に見えてしまうと言い切る。
「すべてをなかったことにするという意味の“水に流す”という言葉がありますが、捨てるという行為は、この言葉と重なります。物を捨てすぎるというのは、すべてをゼロにしたいという思いの表れだと考えられます」(益田先生、以下同)
何らかの問題に直面して、潜在的にその現実から目を背けてしまいたい気持ちがあるとき、“代償行為”として物を捨てるという行動につながることがあるという。
「例えば、人間関係の悩みや不安を抱えていた人が部屋を片付けて一気に断捨離を行うことで、何となく気持ちがスッキリし、現実の問題まで解決したかのような錯覚を起こすことはあります。
問題はまったく解決していないのに、一時的に満足感や万能感が得られてしまうからです」
その快感が蜜となり、本来、快適に暮らすための“物を捨てる”という行為が、目的に転じる倒錯的行動パターンに陥ることも少なくないと益田先生は指摘する。
では、どんな人が物を捨てる行為にハマりやすいのか。益田先生によると、危険度が高いのは“白黒思考”の人だ。
「完璧主義で、0か1しかないという極端な思考の人は、全部捨てないと気がすまない、すべて捨てることで生まれ変われると思い込んでしまいがちです」
さらに、“捨てる”という行為は、他者と関わらず自分でコントロールできる行動によって万能感を得られるため、依存しやすいと話す。その構造は、食事を極限まで制限することで引き起こされる摂食障害と同じだ。
「美容整形やタトゥーなどの肉体改造に依存する心境にも通じると思います。捨てる爽快感にとりつかれ、エアコンまで捨ててしまい暑さ寒さを我慢しながら生活しなければならなくなったり、洋服をすべて捨てて毎日同じ洋服を着ることになったり。
冷蔵庫を捨ててしまって、お腹を壊してしまった人も。そうやって生活に支障をきたしてしまう“捨てすぎの人”をたくさん見てきました」
結局、ほとんどの人が“買い直し”をし、自己嫌悪に陥るハメに。
「白黒思考」に陥りやすい!?チェックリスト□完璧主義である□自責感情が強い□マイナス思考になりがち□「~すべき」「どうせ~」が口グセ□すべて水に流したいと思うことがある□ダイエットにハマったことがある□熱しやすく冷めやすい□物事をじっくり考えるのが苦手
「お金も時間も無駄になりますし、自分がやったことが失敗だったとわかるわけですから、自己肯定感がぐっと下がります。さらに、家族やパートナーからは“やめとけばよかったのに”と責められることも。周囲の人との関係も悪くなる可能性が大きいです。
何より、現実に抱えている本当の悩みや問題は解決できていないままですから、断捨離してストレスが増えただけ、という結果になりかねません」
家族のひとりが“捨てすぎ病”に陥ると、全員が巻き込まれるという懸念もある。母親がミニマリストに猛進し、子どものおもちゃや夫の持ち物を勝手に全部捨てるという事例も。
「親に大切な物を捨てられた経験をすると、子どもはそれがトラウマになり、嫌だと感じるものはすべて排除するようになって人間関係がうまくいかなくなることがあります。
例えば、上司から指導されたら“嫌われた”と思って、すぐに会社を辞めてしまったり、ひきこもりの原因になる場合も。
コロナ禍を経て、近所や親せき付き合いが希薄になった今、家庭の密室化が進み、ひとりの極端な価値観に家族全体がコントロールされてしまう危険は高まっていると感じます」
では、家族が強引に物を捨て始めたらどうすればよいのか。益田先生は、周囲との会話の必要性を訴える。
「捨てている本人は、捨てることに執着している、目的化していることには客観的に気づけません。どうして何もかも捨てたいと思っているのか、その根本にあるものを聞いてみることが大切です」
捨てたいと思っている理由を共有できて、納得できれば捨ててもいいし、会話の中で本人が抱える本当の悩みが見えてきたら、解決に一歩近づいたといえる。
「それでも捨てたい欲求が収まらず、どんどん捨てていくようだったら、別に原因があるかもしれません。例えば、ひどい更年期障害や躁うつ病。
“代償行為”として急激に大量の物を捨てるのは、逆に不要なものも捨てられない“ため込み症”と同じ発達障害の特徴ですから、その可能性も捨て切れません。
親世代にその兆候が表れたなら、認知症の疑いも。たかが“物をたくさん捨てているだけ”と思わず、該当する病院に相談をするのも選択肢の一つです」
もし、自分が捨てすぎているかもと心配になったら、大きな物を捨てる前に、捨てないメリットを考えてみること。それでも、“捨ててスッキリしないと気がすまない!”が続くようであれば、メンタル不調からの行動である可能性がある。
もちろん、物を持ちすぎないことは、部屋を美しく保つ意味でメリットはある。思い切って物を捨ててリフレッシュすることも悪ではない。
ただし、その爽快感で不安感は除去できない。それを繰り返しても何かが変わるわけではなく、捨てすぎはデメリットが多いと理解すべきだ。
「人間関係や仕事、家庭のことなど、抱えているストレスは何か一つを変えたからといってキレイになくなるものではありません。小さく重なった石を一つひとつ取り除いていくように、向き合っていくことが大切なのです。
“嫌だな”と思う現状があったとして、それをすぐに打破できないとしても、そんな自分を責めずに許して、長い目で見ることが大切だと思います」
取材・文/河端直子

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