コロナワクチン冷凍庫、不要な新品ズラリ…自治体「負の遺産になる」「邪魔」

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新型コロナウイルスのワクチン用の冷凍庫が十分に活用されていない実態が読売新聞の調査で明らかになった。
使っていないものを会議室にまとめて置いたり、別の用途で利用したりするなど置き場や使い道に苦慮するケースがあった。一方、追加発注する自治体もあり、無駄な冷凍庫を増やさないためにも融通を求めるなどの声があがっている。(田中浩司)
■新品のまま
山口市中心部から約20キロ南にある市役所秋穂(あいお)総合支所の一室には、電源の入っていない「超低温冷凍庫」(74リットル)8台が並ぶ。氷点下75度で保管できる高さ約1メートルの据え置き型で、うち1台は稼働するかを確認しただけの新品だ。
市は、国から提供されたワクチンを冷凍保管する拠点の民間医療施設1か所に冷凍庫8台を設置し、昨年4月の接種開始後、7台を稼働させた。約1か月後、冷凍保管できる配送業者が確保できると、拠点はいらなくなり医療機関の負担も減った。使わない冷凍庫は支所に集約した。事業が続く限り所有せざるを得ないといい、市担当者は「8台も予備があるのは心強いが……」と言葉を濁す。
新潟市は、国からの70台のうち一度も使っていない15台を庁舎会議室にまとめて置いていた。家庭用洗濯機サイズの据え置き型で、担当者は「邪魔になっている」と明かす。那覇市は、一度配備した医療機関から「使わないので引き取って」と連絡があり、1台を保健所に設置したものの、市職員は「本来は必要ない」と話す。中部地方のある自治体は保冷剤しか入れていないのに稼働させていた。
■融通案断られ
冷凍庫を他の自治体に融通できないか検討した自治体もある。初回のワクチン接種の対象者が約140万人いた福岡市は一斉に接種するため、国から割り当てられたファイザー用91台をフル稼働させる予定だった。
その後、モデルナ用の47台も届いたが、肝心のワクチン供給が滞り、ファイザー用28台は使う機会さえなかった。接種が落ち着き、9月1日時点での稼働は計138台のうち、ファイザー、モデルナ用合わせて36台。市は「他の自治体に譲ることができる」と福岡県に提案したが、県からは「ニーズがない」との説明を受けたという。
福岡市の担当者は「9月に始まったオミクロン株対応ワクチンでは一度も使っていない冷凍庫も大半を使う可能性があり、事業が動いている間は適正台数の見極めは難しい。国の見通しもない以上、不要と言えず、自治体間で融通しあうのが現実的なのだが」と話す。
■フル稼働 追加発注も
冷凍庫が足りない自治体もある。本紙調査で配備された冷凍庫をフル稼働しているのは108自治体のうち28自治体。オミクロン株用の対応で冷凍庫が新たに必要になる自治体も多く、厚生労働省によると、8月以降、計約600台の追加発注があったという。
ただ、同株用の接種希望者は初回より少なく、接種率の伸びも不透明なため、冷凍庫の余剰台数は、さらに増えるとみられる。
冷凍庫は国が無償提供し、自治体に適切な管理を求めている。接種事業が終了すると不要になるため、公募で民間への売却を検討する自治体もある。ある市の職員は「大きな自治体になるほど台数が多く、引き取り先を見つけるのは難しい。維持費がかかり、廃棄の費用が必要で負の遺産になる」と危機感を募らせる。別の市職員は「事業後を見据え、リース契約などを検討すべきだったのでは」と語った。
自治体は使わない冷凍庫の活用策や廃棄を国に示してほしいが、厚労省は「すでに自治体の所有で、稼働状況の把握や回収をする予定はない。余剰があるなら、自治体間で調整してほしい」としている。

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