部活動の活動費、広告収入でねん出…「何で金を出さなあかんねん」と最初は突き放されました

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■変わる部活動 ビジネス<上>
サッカーボールを追う中高生約60人のユニホームには、米穀店、和菓子店とスポンサーのロゴが所狭しと並ぶ。
プロチームではない。大阪府枚方市で中高生が参加する民間運営の部活動だ。
同市の「ナガオサッカースクール」は、部活動に有料広告を導入するアイデアで会費ゼロを実現した。地元企業から年5000~1万円の出資を受け、今年は約20万円をユニホーム代などに充てる。府立長尾高と近隣中学校の生徒を教員がボランティアで教え、同高で練習することで場所代もかからない。
同高教員でサッカー部顧問の尾島大樹さん(36)は一昨年秋に民間移行を見据えてスクールを設立した時、部活動の有料化を不可避とする議論に疑問を抱いた。「経済的な理由で参加できなくなる子が出る。生徒側に負担を強いるのはおかしい」と広告の導入に踏み切った。
ロゴ入りユニホームは中高生の主な大会で禁止され、練習でしか着られない。だが、スポンサーは1年目の17社が今は32社とほぼ倍増した。
◇ 「何で金を出さなあかんねん」と突き放され、「先生が何してんの?」とけげんな顔をされた。大阪府枚方市で「ナガオサッカースクール」の設立準備をしていた約3年前、府立長尾高サッカー部顧問の尾島大樹さん(36)がユニホームに有料広告のロゴを出してくれる地元の商店や企業を探していた時のことだ。
ロゴは袖が年5000円、背が8000円、表が1万円。「営業って難しい」と悩んだが、地元の小中高のサッカー部で一筋に打ち込んできた尾島さんには強い思いがあった。
「会費制にするのは簡単だけど、誰もがほぼ無料で参加できるのが部活動のよさ。次世代に残してあげたい」。公立中を中心に部活動を民間に委ねる改革が進む中、府立高を拠点に近隣の中学生を受け入れ、中高生が一緒に活動するスクールを作る夢を描いた。会費ゼロを実現するためには収益源が必要だった。
放課後や休日、客として店に足を運んだ。「マホロバ珈琲堂」にはコーヒー豆を買いに通い、5、6度目に訪れた際、経営者の坂田仁生さん(49)に「地域のために」と力説した。熱意を感じ取った坂田さんは1万円の出資を決めた。2021年11月にスクールを本格的に始める時には17社から約10万円が集まっていた。
「支援に報いたい」。そう考えた尾島さんは、ロゴ入りユニホームを着て汗を流す中高生の姿を動画で撮影し、SNSで発信を始めた。グラウンドの活動だけでは露出が少ないからだ。学校の部活動で広告収入を得るのは「禁じ手」で、着用は全国高等学校体育連盟や日本中学校体育連盟主催大会では原則禁止され、練習や非公式戦に限られる。
人気の音楽をつけて編集した動画は、約134万回の再生回数を稼いだこともある。不動産建設業「サンエース」代表取締役の谷岡倫常(りんじょう)さん(42)は昨年、SNSを見て「応援することで地域愛を発信できる」とスポンサーになった。今年、出資企業は32社、収入は計約20万円に増えた。
高校生約40人、中学生約20人のスクール生も前向きに受け止める。同高2年の選手(17)は練習帰りに出資元の米穀店に仲間とジュースなどを買いに立ち寄り、「頑張れ」と応援されたことが励みだ。隣の交野市から通う中学3年の選手(15)は「高校生との練習は刺激になる」と目を輝かせる。
尾島さんの試みには課題もある。小口の広告収入は用具代で消える。会費ゼロは教員らがボランティアで指導し、府立高のグラウンドを無償で使い続けることが前提だ。
生徒を見つめ、尾島さんは思う。「みんなが好きなサッカーに打ち込める場所が必要。とんがったやり方でも、運営資金を自ら担える組織を作っていかないと」
◇ 民間移行に必要な費用を企業に出資してもらえないか。香川県西部の三豊市は自治体としてスポンサー探しを始めた。8月に多国籍企業とパイプを持つ「PwCコンサルティング合同会社」(東京都)と提携。基金を作って世界的な企業に出資を呼びかけ、運用益で移行を進める絵を描く。同社は「地域の公教育に関心がある企業4、5社から前向きな感触を得ている。三豊市とともに1年で設計図を描きたい」と説明する。
人口約6万人。少子化で市内の公立中7校でサッカー部があるのは1校だけになり、生徒が好きな競技を選べない。山下昭史市長(57)は「子供が夢を諦めれば第2の大谷翔平選手は生まれない」と危機感を抱くが、財源は限られ、資金集めのノウハウもなかった。そこで異例の手を打った山下市長は「全国に通じるモデルを作りたい」と力を込める。
企業の力を借り、生徒の経済的負担をできる限り減らす仕組みはできるのか。挑戦が始まった。
◇ 学校から切り離された部活動には経営の感覚が求められ、立ち遅れた運営の効率化も課題だ。ビジネスの視点で解決を目指す取り組みを追う。
■「勝利至上」懸念も
学生スポーツ界ではスポンサー企業から運営資金を確保する流れが生まれている。先端をいくのが大学。2016年に一般社団法人化した京都大アメリカンフットボール部が多数の企業とスポンサー契約を結び、箱根駅伝では21年からロゴ入りユニホームでの出場が可能に。高校のサッカーやバスケットボールではロゴ入りが認められた一部の大会で着用するケースがある。
民間移行した公立中の部活動でも、地元企業から小口の協賛金を集める例が増えつつある一方、企業参入には懸念も残る。関西大の神谷拓教授(スポーツ教育学)は「収益化は悪いことではないが、企業が結果を求めれば『勝利至上主義』につながるリスクもある。義務教育年代だけに、社会性を養う部活動の意義を見失わないように配慮が必要」と指摘する。

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