「家の壁破損は学校のせい」 苦情に疲弊、保護者対応に専用窓口

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保護者からのあまりに理不尽な要求や苦情に教育現場が悩まされているとして、奈良県天理市は来年度から、市立の教育機関に対する意見などを一手に引き受ける窓口「子ども応援・相談センター」(仮称)を運営することを決めた。教員や保育士らを保護者対応から完全に切り離し、子どもらへの指導に専念できる環境を整える。市は「ここまで徹底した取り組みは全国でも例がない」と説明している。
【写真で見る】「子供の声うるさい」 市民の苦情で廃止になった公園 11月30日の定例記者会見で並河健市長が明らかにした。

市や市教委によると、窓口は市内の市教育総合センター内に設ける。市立の小中学校と幼稚園、保育所、こども園に寄せられた保護者からの意見や苦情などはすべて窓口に回してもらい、退職校長らの専門スタッフが対応に当たる。 組織内には心理士や発達相談員らによる「心理サポートチーム」と、市教委の指導主事らによる「教育サポートチーム」を設置。市の福祉部門や顧問弁護士も協力し、保護者や教員らへの精神的な支援も手がける。家庭内暴力やヤングケアラーなどの問題にも対処する。 市は一斉連絡アプリを通じて全ての保護者に相談窓口の新設方針を通知するとともに、12月1日付で準備室を開設した。今後は具体的な体制づくりなどを進め、来年度当初予算に関連予算を計上するという。 窓口設置の背景について、市や市教委は「モンスターペアレント」とも言うべき過激な保護者への対応で多くの教員らが疲れ切ってしまい、教育現場が崩壊しつつあると説明する。 市と市教委は今秋、教員や保育士らを対象にアンケートを実施。小中学校教員の8割近くが保護者対応を負担と感じ、6割以上が「保護者対応で授業に支障が出た」と答えた。この結果を基に、並河市長は「学校外のけがで夜間に呼び出されて謝罪させられたり、長時間にわたって土下座させられたりしている。これらは決して珍しいケースではなく、現場にひずみが出ている」と訴えた。 伊勢和彦教育長は、保護者対応への負担などが原因で、今年7月から9月半ばにかけて市内の教員5人が退職し、7人が休職に追い込まれたと明らかにした。「『おまえ辞めろ』などと責められれば、真面目な人ほど重く受け止めてしまう。保護者にとって、学校は『何を言ってもよい存在』になってしまっている」と語った。 窓口設置の意義について、並河市長は「教員らは子どもを育てるプロだが、大人対応のプロではない。保護者の重圧から解放されることで、教員らが子どもたちに向き合う時間と精神的余力を持つことができる」と説明。組織は中立的な立場で問題解決に当たるとし、「保護者の満足度も上がるのでは」と話している。【望月靖祥】天理市教員アンケートの主な結果(1)「保護者対応を負担に感じている」と答えた割合・小中学校 77.5%・幼稚園・保育所・こども園 72.4%(2)「保護者対応で教育・保育に支障が出た」と答えた割合・小中学校 63.3%・幼稚園・保育所・こども園 62.8%(3)「過去に保護者から理不尽なクレームを受けた」と答えた割合・小中学校 72.5%・幼稚園・保育所・こども園 66.2%(4)保護者からの理不尽なクレームの事例(抜粋) 【小中学校】・けんかをした子どもの双方に話を聞いたところ、一方の親から「うちの子が悪いと決めつけられた」とクレームを受けた・夜間の家庭訪問を強要され、担任の変更を要求された・年度末の大掃除について「まだ寒いのに子どもたちにぞうきんがけをさせる意味がわからない」と1時間半も抗議された・子どもが自宅の壁をけって壊したのは「学校のせいだ」と家に呼び出された・前年度の担任に対する不満で、3カ月間ほぼ毎日、夜間に来校し、数時間にわたり不満を怒鳴り散らされた・校外での生徒同士のトラブルのことで深夜に電話があり、「うちの子がおたくのクラスの子ににらまれた」と未明まで怒鳴り続けられた 【幼稚園・保育所・こども園】・子どもの唇にリップクリームを塗ってと要求され、家で塗ってほしいとお願いすると、大勢の保護者や職員の前で土下座を強要された・伝えたことも「聞いていない。先生がうそをついている」と言われた・台風警報が出たため家族に子どもたちを迎えに来てもらった際、親の代わりに来た祖母から「警報が出たからといって親は来られへんねん。考えろ!」と怒鳴られた・子どもの帰宅時に一日の様子の詳しい説明を毎日数十分も求められ、手が回らずに対応できない時には「気分を害された」と謝罪させられた※市立小中学校教諭アンケート=実施期間9月14日~10月6日▽対象210人▽回答者120人(回答率57.1%)※「市立幼稚園・保育所・こども園の教諭・保育士・保育教諭・看護師アンケート」=実施期間10月3~12日▽対象178人▽回答者145人(回答率81.5%)
11月30日の定例記者会見で並河健市長が明らかにした。
市や市教委によると、窓口は市内の市教育総合センター内に設ける。市立の小中学校と幼稚園、保育所、こども園に寄せられた保護者からの意見や苦情などはすべて窓口に回してもらい、退職校長らの専門スタッフが対応に当たる。
組織内には心理士や発達相談員らによる「心理サポートチーム」と、市教委の指導主事らによる「教育サポートチーム」を設置。市の福祉部門や顧問弁護士も協力し、保護者や教員らへの精神的な支援も手がける。家庭内暴力やヤングケアラーなどの問題にも対処する。
市は一斉連絡アプリを通じて全ての保護者に相談窓口の新設方針を通知するとともに、12月1日付で準備室を開設した。今後は具体的な体制づくりなどを進め、来年度当初予算に関連予算を計上するという。
窓口設置の背景について、市や市教委は「モンスターペアレント」とも言うべき過激な保護者への対応で多くの教員らが疲れ切ってしまい、教育現場が崩壊しつつあると説明する。
市と市教委は今秋、教員や保育士らを対象にアンケートを実施。小中学校教員の8割近くが保護者対応を負担と感じ、6割以上が「保護者対応で授業に支障が出た」と答えた。この結果を基に、並河市長は「学校外のけがで夜間に呼び出されて謝罪させられたり、長時間にわたって土下座させられたりしている。これらは決して珍しいケースではなく、現場にひずみが出ている」と訴えた。
伊勢和彦教育長は、保護者対応への負担などが原因で、今年7月から9月半ばにかけて市内の教員5人が退職し、7人が休職に追い込まれたと明らかにした。「『おまえ辞めろ』などと責められれば、真面目な人ほど重く受け止めてしまう。保護者にとって、学校は『何を言ってもよい存在』になってしまっている」と語った。
窓口設置の意義について、並河市長は「教員らは子どもを育てるプロだが、大人対応のプロではない。保護者の重圧から解放されることで、教員らが子どもたちに向き合う時間と精神的余力を持つことができる」と説明。組織は中立的な立場で問題解決に当たるとし、「保護者の満足度も上がるのでは」と話している。【望月靖祥】
天理市教員アンケートの主な結果
(1)「保護者対応を負担に感じている」と答えた割合
・小中学校 77.5%
・幼稚園・保育所・こども園 72.4%
(2)「保護者対応で教育・保育に支障が出た」と答えた割合
・小中学校 63.3%
・幼稚園・保育所・こども園 62.8%
(3)「過去に保護者から理不尽なクレームを受けた」と答えた割合
・小中学校 72.5%
・幼稚園・保育所・こども園 66.2%
(4)保護者からの理不尽なクレームの事例(抜粋)
【小中学校】
・けんかをした子どもの双方に話を聞いたところ、一方の親から「うちの子が悪いと決めつけられた」とクレームを受けた
・夜間の家庭訪問を強要され、担任の変更を要求された
・年度末の大掃除について「まだ寒いのに子どもたちにぞうきんがけをさせる意味がわからない」と1時間半も抗議された
・子どもが自宅の壁をけって壊したのは「学校のせいだ」と家に呼び出された
・前年度の担任に対する不満で、3カ月間ほぼ毎日、夜間に来校し、数時間にわたり不満を怒鳴り散らされた
・校外での生徒同士のトラブルのことで深夜に電話があり、「うちの子がおたくのクラスの子ににらまれた」と未明まで怒鳴り続けられた
【幼稚園・保育所・こども園】
・子どもの唇にリップクリームを塗ってと要求され、家で塗ってほしいとお願いすると、大勢の保護者や職員の前で土下座を強要された
・伝えたことも「聞いていない。先生がうそをついている」と言われた
・台風警報が出たため家族に子どもたちを迎えに来てもらった際、親の代わりに来た祖母から「警報が出たからといって親は来られへんねん。考えろ!」と怒鳴られた
・子どもの帰宅時に一日の様子の詳しい説明を毎日数十分も求められ、手が回らずに対応できない時には「気分を害された」と謝罪させられた
※市立小中学校教諭アンケート=実施期間9月14日~10月6日▽対象210人▽回答者120人(回答率57.1%)
※「市立幼稚園・保育所・こども園の教諭・保育士・保育教諭・看護師アンケート」=実施期間10月3~12日▽対象178人▽回答者145人(回答率81.5%)

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