小5の私は校内で強姦され、養護教諭には無視された…都内の区立小で51年前に起きた「レイプ事件」の顛末

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父親の性的行為とマスターベーションは、ずっと続いた。よくないことだとわかっていたので、母親にはなにも言えなかった。
そして、美智子さんに対する大人たちの性的虐待は、父親の悪戯だけでは終わらなかった。
「その頃、友だちが『鈴木(仮名)先生、美智子ちゃんのことをよく見にくるよね』って。『覗いていつも探しているよね』」って。小学5年生のときにほかの学年の先生が、よく私のことを覗きにくるようになった。ストーカーみたいな感じで」
現存する足立区立の小学校での、51年前の話になる。鈴木教師は30代後半、メガネをかけた地味な教師だったという。
美智子さんは、いつも赤いネクタイをしていたのを覚えていた。
「私、5年生のときに図書委員だったんです。図書委員は交代で放課後に図書室を掃除する。それで、放課後に図書室で一人で掃除をしているとき、突然鈴木先生が後ろからドンッてきた。ガバッと後ろから抱きつかれて、乱暴に胸を揉まれて、パンツを脱がされて激痛がした。ドンとかズンとか、そんなすごい痛み」
鈴木教師は図書室に誰もいないことを確認し、音を立てないように内鍵をかけ、掃除をしている美智子さんに後ろから抱きついた。欲望のままに胸を揉み、パンツを脱がして性器を悪戯する。興奮しながら自分のズボンを脱ぎ、隆々とした男性器を露出させ、お尻を鷲掴みしてバックの体位から挿入した。
「後ろからでした。それがどういうことなのかって、保健の時間で習っているからわかるじゃないですか。え、私、大人じゃないって。先生はなにもしゃべらないで荒い息でずっと腰を振っていて、私はとにかく痛い。それに怖い。パニックになりました。叫んだり、逃げたりはできません。体も小さいし、やられるしかなかった」
鈴木教師はお尻に精液を放出して、慌ててズボンを穿いていた。そして、呆然としている美智子さんにパンツを穿かせてから図書室から出て行った。
初体験である。性器は1週間以上、痛かった。
強姦をされてから、ずっと性器はじんじんと痛い。数日経ってから、保健の授業で習った避妊をされたのかが心配になった。胸が痛くなるほど心配になって、どうにもならなくなった。
勇気を出して保健室の先生に起こったことを話して、どうすればいいか相談することにした。
「あんたが鈴木先生を誘ったんでしょ。とんでもない子どもだね! 帰りなさい!」
保健室の先生は、40代の女性だった。数日前の出来事を話すと、鬼のような表情になってそう言った。美智子さんは、どうして怒られているのかわからなかった。
保健室の先生に言われるがまま、部屋を出て泣きながら教室に戻った。
小学5年生の美智子さんは男性教師に力ずくで強姦されて、頼った女性教員に恫喝された。
鬼畜の鈴木教師は、生きていれば85歳くらいだ。
この小学校は同じ校名のまま現存するし、被害に遭遇した女子児童は、美智子さん一人だけとは思えない。
教師が小学生を学校内で強姦するなど、本当にそんなことがあるのか驚いたが、美智子さんは自分の身に起こったことを、ありのままに話しているだけである。
少女に降り注ぐ悲劇は、これだけでは終わらなかった。
美智子さんは図書室で鈴木教師に強姦され、さらに追い討ちをかけて保健室で女性教員に恫喝されたことが大きなダメージとなった。精神的に追い詰められて登校拒否となったのだ。悪夢を思い出して眠れなくなり、頑張っても週一度くらいしか学校に行けなくなった。
「いろいろショックで怖くなって、家に閉じこもっていた。でも、新学期がはじまってすぐの4月、鈴木先生がうちに来た。学校が終わったばかりの15時くらい、玄関を開けたら鈴木先生がいた。家には誰もいなかった。先生に『久しぶり。学校にどうして来ないの?』って言われた」
「怖くてなにも言えなくて、先生は笑顔で近づいてきた。『またしよう、大好きなんだ』って抱きつかれました。玄関で脱がされて、先生も下半身裸になって正面からやられました。最中は先生が怖い表情で腰を動かして、叫びたくても口を押さえられているので叫べない。すごく痛くて、怖くて、硬直してされるがままだったことを覚えています」
鈴木教師は性交が終わると、慌ててズボンを穿いて逃げるように帰った。美智子さんは裸のままで放置され、しばらくして服を着た。体の震えは止まらず、涙も止まらなかった。
美智子さんには、どうして男の人が自分の体を触って、興奮するのかわからなかった。
保健の授業で男女のその行為は、子どもができるかもしれないこと、いけないことであるのは教わっている。
下半身裸の鈴木教師を思い出すと、恐怖心といけないことをしている罪悪感で、胸が痛くなる。体中に嫌な気持ちが渦巻いている。
「保健の先生に怒られたことがトラウマになっていた。でも、訳がわからないので自分だけでは抱えきれない。誰かに話さなきゃ、相談しなきゃと思って、父親に電話をした。翌日、父親は母親がいない時間に家に来て、鈴木先生にされたことを話したんです」
登校拒否をしていることと、その理由は図書室での強姦が原因であること。妊娠が怖くて保健室の先生に相談したら、怒りだして恫喝されたこと。それがとてつもなくショックだったことを、父親に泣きながら話した。
鈴木教師は4月から弟の担任になり、1週間前に突然家に来て、自宅で再び強姦されたことも伝えた。父親は弟の担任に怒り、電話をすると言った。小学生なので妊娠はしないだろうけど、体調がどうなのか随時教えてほしいと言った。
「ひどい先生だったな。でもお前も大人になったということだ。俺ともするか」
父親は一通りの経緯と話を聞いてから、最終的にそう言いだした。
父親は近づいて後ろから抱きついてくる。いつものようにカラダを触られて、頬を舐めてくる。
美智子さんはどうしてそうなるの? そう思いながら我慢した。父親の欲望を受け止めた。
「先生に強姦されたことを父親に話してから、父親も求めてくるようになった。本番の近親相姦です。この父親の性的虐待というか、カラダを要求するみたいなことは高校卒業まで続きました。数十回はやっていると思います。本当に気持ち悪いし、つらかったけどそんな感じになってしまいました」
登校拒否になった美智子さんは、父親に日常的に強姦されるようになった。それから、さらに精神的に閉じこもった。怖くて学校に行けないだけでなく、いつ父親が来るかわからないので、自宅にいるのも怖くなった。
この頃から統合失調症の症状がはじまっている。
「死ね、死ね。もう死のう。死んじゃってもいいよ」
たまにそんな幻聴が聞こえる。実際に団地のベランダから飛び降りようとしたことも何度もあった。
飛び降りるのは怖い。ベランダに出て飛び降りようとしても、躊躇(ちゅうちょ)して実行することはできなかった。
結局、小学6年生の1年間は学校に行けなかった。中学校は地元の公立ではなく、自宅から離れた寄宿舎付きの特別支援学校に進学した。
自宅から離れたことで、父親との関係もストップした。
「中学校の3年間だけは平穏でした。自宅から離れたのでなにもされなかった。勉強もちゃんとして、学力も取り戻して普通に過ごせました」
「高校は足立区に戻って、私立の女子高校に進学した。足立区に戻ったら父親がまた自宅に来るようになって、カラダを求められた。なにも変わらない、母親の名前を呼びながら私のカラダを触って挿れてくる。本当にうんざりしました。『嫌だ、やめてほしい』って何度言っても聞いてもらえない。まあまあ、いいじゃないかみたいな感じでやってくる」
高校生のときの美智子さんはアイドルのような容姿だった。魅惑的な美智子さんに対して男性親族が狂っていった。肉体関係は、実の父親だけでは終わらなかった。
「高校2年生のときに母親の兄である伯父に迫られました。たまたま伯父と伯母が遊びに来ていて、母親と伯母が北千住に買い物に行って2人きりになった。私は伯父のために昼食の準備をしていたんだけど、伯父が後ろから抱きついてきた。ものすごい力で洋服を脱がされて、やめて、やめてって手を払ったんだけど、止まらなかった。伯父は『美智子ちゃん、美智子ちゃん』って異常な興奮状態で、ものすごい勢いでズボンとパンツを脱いでその場で挿れられました」
キッチンで立ちバックの体位で強姦された。伯父は「かわいい、かわいい、きれいだ、美智子ちゃんはきれいだ」と、腰を振りながら声をあげる。下半身は痛い。数分間、ズンズンする痛みを我慢して終わった。
「伯父と伯母は昔から私によくしてくれたけど、結局そんなことになった。2時間くらいで母親と伯母は楽しそうに帰ってきたけど、レイプされたとか言えない。なにごともなかったように振る舞うしかなくて、父親との関係も続いていたし、もう頭がおかしくなりそうだったし、本当に頭がおかしくなっていた」
美智子さんは幼少時からの性的虐待、繰り返される強姦被害、誰にも言えない精神的なダメージによって、まだ初潮がきていなかった。
初潮がきたのは家族から離れて父親と縁を切った20歳になってからである。
高校を卒業して、就職活動をした。高校の推薦でメガバンクに採用され、東京本店の窓口業務をするようになった。
高卒の一般職女性は独身男性行員の嫁候補という扱いが当たり前の時代だった。入社早々、様々な男性行員が入れ代わり立ち代わり美智子さんに近づいてくる。
「銀行で今まで溜まってきたものが爆発して、完全に精神的におかしくなってしまいました。『彼氏いるの?』『デートしたい』『飲みに行こう』『エッチしたことあるの?』『俺の好みなんだ』とか……出社をすると、ひたすら男性に声をかけられる。ずっと虐待とか強姦とかそんな経験をしているので男性は怖いし、関わりたくない。ずっと我慢していたけど、一日中、次から次へと男性に話しかけられるので、本店の営業中に『もういやぁぁぁぁ~』『ぎゃぁぁぁぁ!』って絶叫しちゃったんです。そこで初めて精神科に行きました。精神分裂病(現在は統合失調症)と診断されて、銀行は2年もたないで辞めました」
退職と同時に、悪夢しかない足立区綾瀬の団地を出た。父親や伯父、鈴木教師に絶対に会わないように多摩地区のほうに引っ越した。
地獄のような性加害を繰り返されたことで患った統合失調症が治ることはなかったが、薬を飲みながら、男性を避けながら、従業員が女性だけの環境の小さな会社で働いた。
———-中村 淳彦(なかむら・あつひこ)ノンフィクションライター1972年生まれ。著書に『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)、『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮新書)『歌舞伎町と貧困女子』(宝島社)など。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買、介護、AV女優、風俗などさまざまな社会問題を取材し、執筆を行う。———-
(ノンフィクションライター 中村 淳彦)

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