「低支持率にあえぐ岸田政権が崩壊するのは予測していたが、先にうちの派閥がダメになるとは思ってもみなかった」と話すのは、安倍派の衆議院議員だ。
岸田文雄首相は、臨時国会が閉幕翌日の12月14日、安倍派の政治資金パーティーのキックバック、裏金問題で、閣僚、党幹部の更迭を行った。
安倍派から起用されていた松野博一官房長官、西村康稔経産相、鈴木淳司総務相、宮下一郎農相は、それぞれ林芳正氏(岸田派)、齋藤健氏(無派閥)、松本剛明氏(麻生派)、坂本哲志氏(森山派)に交代させられた。
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また堀井学内閣府副大臣、堀井巌外務副大臣、青山文部科学副大臣、酒井経済産業副大臣、宮沢防衛副大臣の5人も交代。後任の内閣府副大臣に古賀篤氏(岸田派)、外務副大臣に参議院議員の柘植芳文氏(無派閥)、文部科学副大臣に阿部俊子氏(無派閥)、経済産業副大臣には参議院議員の上月良祐氏(茂木派)、防衛副大臣には鬼木誠氏(森山派)が起用される。
萩生田光一政調会長と高木毅国対委員長、世耕弘成参院幹事長も辞任した。
安倍派の常任幹事会の中心的な「5人衆」全員が、無役へとなり下がることになったのだ。
「もう毎日、派閥の関係者や議員秘書らが東京地検特捜部に呼ばれている。検察からどんな話を聞かれ、どう答えたのか、深夜になるとそういう情報が伝わってくる。派閥の幹部か事務方のトップしか知らないような話をどんどん秘書に聞いてくるそうだ。特捜部は想像を絶するスピードで捜査をしている」
こう語るのは、安倍派の幹部のひとりである。
臨時国会が終われば「5人衆」をはじめ、パーティー券のキックバックを得ていた国会議員が、特捜部から次々と呼びだされるのは、決定的な状況だ。
「国会が終わったので議員本人を一気に調べる。安倍派だけで20人以上だ」(捜査関係者)
現在までに、大野泰正参議院議員が5000万円、池田佳隆衆議院議員と谷川弥一衆議院議員が4000万円、松野氏、高木氏、世耕氏と橋本聖子元五輪相が1000万円超など、高額のキックバックを受けていた議員がターゲットになる見込みだ。
安倍派内では強気の発言も出ている。
「岸田首相は誰のおかげで総理大臣になれたんだ? うち(安倍派)がバックアップしたからだ。支持率低迷でも、うちは支え続けた。問題が出たとたんに、切って捨てるというのはひどい」
しかし先の安倍派幹部はこう語る。
「うちはひどすぎた、やりすぎたということ。自民党の存亡にもかかわってくることで仕方ないな」
このような意見が大勢を占めているという。
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5人衆をはじめ、安倍派の議員が有力なポストから去っていくことで、前述したように安倍派の4閣僚、5副大臣はすべて他派閥か無派閥議員に取って代わられた。
「支持率が低空飛行で打つ手がない岸田首相にとって天から降ってきたクリスマスプレゼントですよ。これまで派閥人事に徹してきた岸田首相は、安倍派に関係なく閣僚人事ができたわけです。それも、まだ安倍派の誰かが特捜部に立件されたわけでもなく、捜査中の早いタイミングでの決断。少しは支持率が回復するんじゃないか」
自民党幹部はそう期待感をにじませる。
だが、実際の岸田首相はそれどころではないという。12月8日金曜日、岸田首相自身が広島でランチをかねた政治資金パーティーを予定していたことがわかった。しかし、一連の派閥のパーティー券問題が浮上してあわててキャンセルしたのだ。
「パーティーは昼食をとりながら、広島県の湯崎知事の講演という内容でした。総理大臣がパーティーをやるのは珍しく、金曜日昼で仕事はあったが出席するつもりだった。安倍派をはじめとするパーティー券問題がニュースになって、岸田首相自身がやっている場合じゃないだろうと思っていたんですが、『延期になりました』という知らせが電話で入ったのは12月はじめのことでした」(岸田首相の後援会関係者)
「現代ビジネス」に後援会関係者が提供してくれた案内状には『第37回新政治経済塾 広島と日本の未来を考える会』とある。広島では有名なホテルで会費は2万円。政治資金パーティーである旨が印刷されている。
そんな背景もあってか、岸田首相は右往左往する日々だという。
「岸田派もパーティー収入の一部を除外、不記載というった報道が出るたびに、官邸は慌てふためいています。今、官邸では検察、特捜部の情報をとれる人物がいないので、よけいに岸田首相は焦っているのです。岸田派もなにかあるんじゃないか、特捜部から調べの要請はないのかとばかり気にしている。
安倍派を一掃して支持率がアップなんて考える余裕はない。だからこそ、安倍派の政務官もやめさせようとしたが、キックバックをもらえるほどの議員はいないと反撃を食らって、クビにはしないとなった」
と自民党幹部はいい、安倍派の反撃で方針が定まらないというのだ。だが、立憲民主党の幹部はこう語る。
「いずれ岸田首相は解散総選挙をやらねばならない。そうなれば、自民党は終わりだ」
特捜部の捜査次第では「政権交代」もありうる状況に、岸田首相はどう対応するのだろうか?