〈「そんなとこで勝ち負け競う?」双子の男の子を出産したら周りの反応に引いた…妊娠・育児で感じる母親への“圧”〉から続く
女性にとって、母にとってハードモードな社会での妊娠出産体験を描く『わっしょい妊婦』の著者である小野美由紀さんと、「中絶の責任は100%男性にある」と書いてアメリカで大きな反響を呼んだ、ガブリエル・ブレア著『射精責任』の訳者である村井理子さん。
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一見「異色」でありながら、根幹のテーマは繋がっている2冊を書いた両名が、2023年10月4日にX(旧Twitter)のスペース機能で行った対談の一部をまとめた。参加者は小野さんと村井さんに加え、『わっしょい!妊婦』の担当編集者である伊皿子りり子さん、『射精責任』の担当編集者であるふじさわさんの4名。
日本の現状において「射精責任」を問う難しさ、そして意外にも40代の中絶が10代より多い理由とは――。(全2回の2回目/最初から読む)
AFLO
◆◆◆
村井理子さん(以下、村井) うちの高校生の息子は友達に「お前のお母さんすごいの書いてないか」って言われたらしい(笑)。家で爆笑してた。私、子どもたちや子どもたちの同級生みんなにSNSアカウントをフォローされてるんですよ。それで「お母さんなんかまたやったらしいな」「炎上しとったぞ」って言われたらしくて。息子も全然普通に受け取ってた。
小野美由紀さん(以下、小野) すごいなあ。それは『射精責任』の内容も抵抗なく受け取ってるんですか。
村井 「射精責任か、ふーん」みたいな感じで、ギョッとしたりも全然ないんですよ。友達間で避妊の話をしたり避妊具の購入をしたりも普通にしてて、「当然じゃない?」みたいな感じで、うちの子は結構オープンです。多分、今の高校生の性教育はこちらが思ってるよりも、もうちょっと踏み込んでるんだと思います。学校にもよると思いますけど。
伊皿子りり子さん(以下、りり子) 小野さんが『わっしょい妊婦』に書いた話で、小野さんの夫さんはめっちゃ優しくて明るくて素敵な人なんだけど、マタニティーマークを知らんかったんですよね。
村井 うちの夫は今も知らないと思います。
りり子 やっぱり、知識にはばらつきがありますよね。でも私たち世代と比べたら、若い人たちの感覚は変わってきてるのかもしれないですね。
ふじさわさん(以下、ふじさわ) この前、灘高等学校の生徒が甲南女子大学の学生と一緒に性教育の授業を受けたニュースがありましたけど、ネットで茶化してるのはみんなおじさんで、灘高生たちが「気持ち悪いこと言うのやめてもらえますか」みたいに言ってましたよね。
一同 (笑)。
小野 痛快でしたね。
ふじさわ 結局「女子大生にエロいこと教えてもらってよかったね」って茶化したりするのは上の世代で、下の世代の本人たちは「せっかく授業しに来てくれたのに失礼なこと言うのやめてもらっていいですか」ってマジメに返していて。日本の性教育って不十分な面もたくさんあるとは思うんですけど、そのときはちょっと希望のあるやり取りだなと思って見てました。
村井 今の高校生ってみんなストレートに愛情表現もするし、セックスに関しても素直で、見ていて正直いいなって思います。
小野 へえ。「恥ずかしいもの」「後ろ暗いもの」ではない?
村井 ないんですよ。隠さなきゃいけないものではなく「愛し合ってたらするでしょう」「好きな人といたらしたいよね」みたいな、そんな感じで話してましたね。
小野 いいですね。女子だけ別室に集められていた私たちの世代とは、全然違いますね。
りり子 『射精責任』は射精に責任を持つ話、『わっしょい妊婦』では中絶についても書いています。だから、出産せずに中絶という選択をするときの責任の所在問題について、皆さんに聞きたいと思ってたんです。
小野さんは日本における中絶について、女性が自分で決めるという感覚が希薄なんじゃないかって書いていますよね。確かに、同意書に男性がサインする欄があったりして、女性が1人で決めづらい現状がある。
じゃあ望まない妊娠が起きてしまった場合、男性も責任を負うんだけど、最終的な選択権は女性にあるわけで、男性はどんなスタンスでいるのがいいんでしょうね。
小野 それは女性の希望通りにするべきですよ。男性に責任取ってほしけりゃ責任を取らせるべきだし、女性が自分で決めたいなら自分で決める。責任の配分をどうコントロールするかの権利も女性にあるべきだと私は思ってます。
日本の場合は、産む権利・産まない権利が女性のものであるという意識もまだまだ希薄です。かといって男性側、女性のパートナーが責任を引き受けるものでもない。どこに責任があるのかわからない曖昧な感じになっていますよね。
だからこそ、例えば女性が中絶するのに男性の同意が必要とか、経口中絶薬が承認されるのに時間がかかったとか、承認されても10万円かかるとか、そういう状況になってるんじゃないかなって思うんですよね。
ふじさわ 今の日本では妊娠出産が誰のものでもないっていうのは、本当にそうですよね。女性は「自分の体のことは自分で決めるぞ」と思い切れてないし、かといって男性も「妊娠出産は俺のものなんだ」って感じでもないっていう。誰が何を決めてんの、みたいな。
小野 中絶ができる期間って決まってるんですよね。初期中絶は12週まで、中期中絶は22週までできるけど、すごく大変な手術になってしまったりとタイムリミットがある。
この前、8歳の重度障害児の息子を殺して心中しようとしたお母さんが逮捕されて、公判を受けたニュースが話題になっていましたよね。その人は5回流産していて、でも夫は子どもが欲しくて、なんでうちには子供がいないんだってずっとDVをされていたと。妊娠したくなくてもずっと妊娠させられ続けていて、子どもを産ませられていたことが背景にあったって。
今の日本の社会では、男性の同意によって中絶できるかどうかが左右されてしまうのは、女性にとってすごく危険だし、本当に「射精責任」を男性に100%問えるような社会になってからじゃないと難しいんじゃないかなっていうのが率直な感想です。
『射精責任』を読んだときにも思ったんですけど、こういう本が出て日本で話題になっているのは希望ではあります。でも、その内容が社会の肌感覚として導入されるまで、私達は一体あと何十年待たなきゃいけないんだろうという絶望も同時に感じました。
ふじさわ 確かに。それを早くするための出版でもあるんですけど……。
ふじさわ 『射精責任』はアメリカでもかなりセンセーショナルなものとして受け取られたと思います。でも、原稿を読んで本当にびっくりしたのは、向こうではピルやIUDなど女性主体の避妊方法がすごく普及してるんですよね。
普及しているからこそ、9割近くの男性が性行為の際にコンドームをつけてくれないことが問題になっているんです。日本の男性はアメリカの男性よりはコンドームをつけているんですけど、着用率35%ぐらいなんですよね。
10%と比べれば35%は多いかもしれない。でも100%ではないわけです。日本では女性主体の避妊方法の普及率が少ないことを考えると、避妊実行率はトータルでアメリカより劣るんですよ。十数%負けているんです。
避妊を男性に頼らざるを得ない日本の現状は遅れているし、一方で女性主体の避妊方法の導入が進んだときに、日本の男性は今まで通りコンドームをつけるのかっていうと、疑問だなと思ってしまいます。10年後20年後に、アメリカに遅れて「マジで日本の男性コンドームつけてくんないな」って話が出てきかねないなっていうのは感じてます。
小野 なるほど。女性主体の避妊が進むと、そこにあぐらをかくのではないかと。
ふじさわ そうですね。私は低用量ピルを服用してるんですけど、それを言うと相手がしれっと1回(コンドームを)外すんですよ。「え? 勘弁してくれよ」って。私は自分の健康や、自分が安心したい気持ちでピルを飲んでいて、あなたのためじゃないんだよ、みたいな。
それが、いわゆるワンナイトの相手じゃなくて、継続的なパートナーシップを結ぼうと思って選別に選別を重ねた人ですら起きるってなると、どれだけの人がそういう意識でいるんだろうってちょっと考えちゃいますね。 だから、男性に当事者意識を持ってもらうのは、本当にすごく難しいことなんだなって思います。例えば妊娠したときに女性が感じる不安とか、そうやってしれっとコンドームを外したことで、知らないうちに妊娠して中絶してるかもしれないってことを、想像もしないんだろうなって。小野 理想を言えば、女性主体の避妊方法を普及させつつ、男性にも「射精責任」を感じてもらう、その2本の柱でやっていかなきゃいけないですよね。そうしないと全然追いついていかないから。だって日本ではIUDの存在すら知られてないもんね。ふじさわ 私も『射精責任』を読んで初めて2種類あるって知りました。村井 存在するのは知ってたけど、どういう形なのか、どれぐらい入れるのかといった細かい部分は私も女性なのに知らなかったです。だから男の人が知ってるかっていうと、知らないと思う。小野 本当に。男性も知っとくべきかもしれないですよね。40代の中絶が多いふじさわ 雑誌「VERY NAVY」の方が取材してくださったときに、40代の中絶やリプロダクティブ・ヘルスの特集を何回もしてるそうで、その方にミレーナやIUDを入れてるご友人の話も聞いたんです。すごく快適になる方もいるし、数ヶ月出血し続けて抜いた方もいるし、本当にいろいろなんですって言っていて。 確かにお腹に何か入れるのは合う合わないもあるだろうし、そもそも手術できる人とできない人がいると思いますし、費用感とかも全然知らなかった。実際に使ってる人の声なんて聞いたことないから。 例えば赤ちゃんの産み落とし事件のニュースに対して「ピルでも飲んどけ」みたいなリプライやヤフコメがついちゃうじゃないですか。でもピルだって血栓症のリスクがあるから持病によって飲めない人はいるし、毎日同じ時間に同じものを服用するのは発達障害や精神疾患のある人にとってはすごくハードルが高い。『射精責任』にも出てきてましたけど、病院を予約して受診して処方箋もらって受け取った薬を毎日同じ時間に……って、その過程を知れば、簡単に人に「やればいいじゃん」なんて言えるもんじゃないってわかると思うんですけど。小野 ピルは日本ではまだ薬局で販売されてないですもんね。「ピルでも飲んどけ」っていう前に、お前も「コンドームつけとけ」って話ですよね。一同 (笑)。村井 それを『射精責任』は1冊かけて書いてるんですよね。ピルよりも安くてもっと簡単だからコンドームちょっと頼むよ、っていうのが「射精責任」だと思うんですけどね。女性は妊娠しちゃったらこれだけ大変なんだからってことが、なかなか男性に伝わってないのが今の現状かなとは思います。 さっきふじさわさんがおっしゃってましたけど「VERY NAVY」の記事で、10代よりも40代の中絶のほうが多いと知ってさすがにショッキングで。40代女性の中絶が多いってことは、同世代や上の世代の配偶者・パートナーが避妊をしなかったってことですよね。 今の40代の女性でも「避妊して」って言えなかったんだなっていうのが悲しいし、まだ言わなくちゃいけないんだっていうのも悲しいし、なかなか難しいですね。もう十分な大人って思っていた40代、50代でさえそうなんだ、という。結構道のりが長いなって思います。小野 成熟しといて、なんでそれができないのって思いますよ。ふじさわ みんな関係ないと思ってるんですよ。自分は妊娠しないと思ってるから、避妊せずにセックスして、妊娠しちゃってから焦る方が40代以降は多くって。村井 それは女性自身が自分の体のことをちゃんと把握できていないっていう面もあるのかもしれないけども、でも防げることなのでね。小野 夫婦間DVとかもありますもんね。村井 そうそう。どうしても私達は若い世代に向けて語りがちなんだけど、実際は自分たちに降りかかってる問題なんですよ、これって。私達もちゃんと考えなきゃいけない。小野 そうですね。当事者ですね我々は。村井 そうそう、当事者だったなと思う。(「文春オンライン」編集部)
それが、いわゆるワンナイトの相手じゃなくて、継続的なパートナーシップを結ぼうと思って選別に選別を重ねた人ですら起きるってなると、どれだけの人がそういう意識でいるんだろうってちょっと考えちゃいますね。
だから、男性に当事者意識を持ってもらうのは、本当にすごく難しいことなんだなって思います。例えば妊娠したときに女性が感じる不安とか、そうやってしれっとコンドームを外したことで、知らないうちに妊娠して中絶してるかもしれないってことを、想像もしないんだろうなって。
小野 理想を言えば、女性主体の避妊方法を普及させつつ、男性にも「射精責任」を感じてもらう、その2本の柱でやっていかなきゃいけないですよね。そうしないと全然追いついていかないから。だって日本ではIUDの存在すら知られてないもんね。
ふじさわ 私も『射精責任』を読んで初めて2種類あるって知りました。
村井 存在するのは知ってたけど、どういう形なのか、どれぐらい入れるのかといった細かい部分は私も女性なのに知らなかったです。だから男の人が知ってるかっていうと、知らないと思う。
小野 本当に。男性も知っとくべきかもしれないですよね。
ふじさわ 雑誌「VERY NAVY」の方が取材してくださったときに、40代の中絶やリプロダクティブ・ヘルスの特集を何回もしてるそうで、その方にミレーナやIUDを入れてるご友人の話も聞いたんです。すごく快適になる方もいるし、数ヶ月出血し続けて抜いた方もいるし、本当にいろいろなんですって言っていて。
確かにお腹に何か入れるのは合う合わないもあるだろうし、そもそも手術できる人とできない人がいると思いますし、費用感とかも全然知らなかった。実際に使ってる人の声なんて聞いたことないから。
例えば赤ちゃんの産み落とし事件のニュースに対して「ピルでも飲んどけ」みたいなリプライやヤフコメがついちゃうじゃないですか。でもピルだって血栓症のリスクがあるから持病によって飲めない人はいるし、毎日同じ時間に同じものを服用するのは発達障害や精神疾患のある人にとってはすごくハードルが高い。
『射精責任』にも出てきてましたけど、病院を予約して受診して処方箋もらって受け取った薬を毎日同じ時間に……って、その過程を知れば、簡単に人に「やればいいじゃん」なんて言えるもんじゃないってわかると思うんですけど。
小野 ピルは日本ではまだ薬局で販売されてないですもんね。「ピルでも飲んどけ」っていう前に、お前も「コンドームつけとけ」って話ですよね。
一同 (笑)。
村井 それを『射精責任』は1冊かけて書いてるんですよね。ピルよりも安くてもっと簡単だからコンドームちょっと頼むよ、っていうのが「射精責任」だと思うんですけどね。女性は妊娠しちゃったらこれだけ大変なんだからってことが、なかなか男性に伝わってないのが今の現状かなとは思います。
さっきふじさわさんがおっしゃってましたけど「VERY NAVY」の記事で、10代よりも40代の中絶のほうが多いと知ってさすがにショッキングで。40代女性の中絶が多いってことは、同世代や上の世代の配偶者・パートナーが避妊をしなかったってことですよね。
今の40代の女性でも「避妊して」って言えなかったんだなっていうのが悲しいし、まだ言わなくちゃいけないんだっていうのも悲しいし、なかなか難しいですね。もう十分な大人って思っていた40代、50代でさえそうなんだ、という。結構道のりが長いなって思います。
小野 成熟しといて、なんでそれができないのって思いますよ。
ふじさわ みんな関係ないと思ってるんですよ。自分は妊娠しないと思ってるから、避妊せずにセックスして、妊娠しちゃってから焦る方が40代以降は多くって。
村井 それは女性自身が自分の体のことをちゃんと把握できていないっていう面もあるのかもしれないけども、でも防げることなのでね。
小野 夫婦間DVとかもありますもんね。
村井 そうそう。どうしても私達は若い世代に向けて語りがちなんだけど、実際は自分たちに降りかかってる問題なんですよ、これって。私達もちゃんと考えなきゃいけない。
小野 そうですね。当事者ですね我々は。
村井 そうそう、当事者だったなと思う。
(「文春オンライン」編集部)