保護ウサギ200匹が物語る「多頭飼育崩壊」の惨状

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

多頭飼育崩壊でウサギが200匹に……(写真:ジュノ/PIXTA)
神奈川県での多頭飼育崩壊、滋賀県での動物愛護管理法違反(遺棄)と、ウサギに関するニュースが続き、大きな話題になりました。
神奈川県の例では、30代夫婦が飼育していたペットのウサギ2匹が繁殖し、わずか2年足らずで結果的に200匹以上になってしまったというものです。自宅内を“ウサギに占拠”され困った飼い主が、今年7月上旬に県動物愛護センターに相談したことで、約100匹の多頭飼育崩壊が発覚しました。
しかし、飼い主のSOSを受けた県担当者やボランティアも経験がなく、困惑する事態となりました。ウサギたちが保護されたのは約1カ月後。行政が対応を模索している間もウサギは増え続け、約200匹にまで達しました。8月5日に同センターが約60匹、支援に加わった動物愛護団体が約150匹を引き取る事態となったのです。
滋賀県の例では、同居する無職の男女2人が「世話が大変で、(ウサギが)言うことを聞かなかった」ことを理由に、ネザーランドドワーフ種のウサギ1匹を自宅近くの駐輪場に捨てた疑いで書類送検されました。6月2日に滋賀県警甲賀署員が小さなケースに入ったウサギを発見し、保護。県内のペットショップでの購入履歴から2人が浮上したとされています。
ウサギは繁殖力が非常に高く、簡単に妊娠できる動物です。自然界で食物連鎖の底辺にいて、肉食動物などに捕食される側です。絶滅しないためには、捕食される以上の子を産み、子孫を残す必要があります。繁殖力を強固に進化させていったのは自然の流れなのです。
ウサギの性成熟は、雌は生後4~8カ月、雄は生後6~10カ月と早く、成長具合によっては生後3カ月で発情期を迎えます。ウサギは交尾のたびに排卵する「交尾排卵動物」で、健康体であれば100%の確率で妊娠し、約1カ月の妊娠期間を経て、5~10匹の子ウサギを出産します。30秒程度の短時間で交尾を終えるので、飼い主が気付いたときには子ウサギが生まれていたということも多いのです。また妊娠中でも、交尾によってさらに妊娠する「重複妊娠」が可能です。
多頭飼育崩壊の背景には、飼い主がこうしたウサギの生態を理解せず、また雄と雌であることを確認しないままに一緒に育てていたことにあります。1回目の出産以降にそれぞれに不妊手術をする、あるいは個々にケージ飼育をしていれば、それ以上増えることを防げたはずです。すべては飼い主の知識不足と怠慢にほかなりません。
また、行政の対応にも問題がありました。ウサギによる多頭飼育崩壊は神奈川県では初の事例であったため、飼い主からのSOSがあったものの対応に遅れが生じ、さらに繁殖が進んでしまったのです。
SOSを受けたすぐあとに「とりあえず、これ以上増えないように1匹ずつ分けて飼育してください」と、その方法も含め飼い主に指導する必要があったのではないでしょうか。「緊急性を持って対応すべき案件だった」と反省の弁を述べていますが、県の担当者の知識不足も否めません。
ウサギは犬や猫に続いて飼育数が多いとされている哺乳類です。人気の理由はもちろん「可愛いから」ですが、「手間がかからない」「飼いやすい」というイメージから飼い始める人が多いようです。
しかし、長年にわたりウサギの飼育経験がある筆者には、そのイメージはありません。個体差はありますが、かじれそうなものはかじって破壊します。床やカーペット、ラグマット、壁などを掘って傷つけます。床には穴が開きました。換毛期には大量の毛が抜けるので、掃除が大変です。部屋で運動させると、あちこちで排泄します。
ストレスや環境の変化に弱いので、よく体調を崩します。寒さや暑さ対策は必須で、電気代がかかります。基本的には抱っこは苦手で、鳴かないので感情が読みにくい。気性が荒い子もいます。
骨はとてももろく、少し高い所から飛び降りた、ドアに挟まれた、ケージ内で暴れたなど、些細なことで骨折します。筆者が飼っていたウサギは玄関の踏み台から落ちて、後足を骨折しました。手術はせずに済みましたが、ギプスをはめることになってしまいました。
また、ウサギの寿命は7~8年といわれますが、今はフードも飼育環境もいいので、10年以上生きることもあります。当然に老化は訪れるので、介護が必要な場合もあります。ウサギを飼うのであれば、犬や猫と同じように事前に特性や病気などを学び、前述したマイナス面も理解する必要があると思っています。
滋賀県の動物愛護管理法違反(遺棄)の件は、飼い主が何の知識もないままに「手間がかからない」というイメージから安易に飼い始め、実際とのギャップからその行為に及んだものです。命を粗末に扱う「捨てる」という愚行は許しがたい犯罪です。
筆者が小学生の頃は、多くの小学校で動物が飼育されていました。筆者の通う学校にもニワトリ、アヒル、キジ、ホロホロ鳥、インコ、ウサギ、モルモットなどがいました。
飼育委員だった筆者は放課後に動物たちの世話をするのですが、その生態や飼育方法などは、みんなで事前に勉強しました。クラスでは飼育報告はもちろん、意見交換しながらみんなで動物たちのことを考えました。動物を愛おしいと思う気持ち、動物の死に直面して悲しいと思う気持ちなど、「愛情」と「命」の大切さを身をもって知りました。筆者がペットジャーナリストとして活動する原点はここにあり、いい経験をさせてもらったと思っています。
しかし、大手前大学現代社会学部中島由佳准教授の論文「小学校における鳥インフルエンザ後の動物飼育状況―全国調査」によると、動物を飼育していない小学校が増加傾向にあることがわかりました。
この調査は2017年7月~2018年10月に全国の小学校2062校から回答を得たものです。飼育が減少する「鳥・哺乳類」ではニワトリやウサギが顕著で、その要因として2004年以降の鳥インフルエンザが流行し、児童が感染することへの不安や懸念、それを考慮して動物飼育の比重が教員に移ったため、その負担増から新たに動物を飼うことを避ける傾向になったことが挙げられています。児童の心をはぐくむ機会が減りつつあるのです。
近年、特にウサギに関しては、動物愛護団体が学校からの「飼いきれない」という要請を受けて引き取る場合もあると聞いています。命の大切さを教えるためにウサギを飼育するはずが、学校側の知識不足や教員の負担増から、結果的に命を粗末に扱うことになるのは悲しいことです。児童への悪影響も否めません。
筆者は、自らの経験も含め、小学校で動物を飼育することを推奨しています。もちろん改善すべき点、検討すべき点はあります。しかしながら、動物を「可愛い、愛おしい」と思う気持ちを持つこと、飼育動物への理解を深めること、命への責任を実感することなど、幼少期にそれらを経験していれば共感性や思いやりが育まれ、大人になってからの行動が多少なりとも違ってくると思うのです。
ウサギに限らずすべての動物に共通することですが、前述したような例を少なからず回避できるのではないか、幸せな飼育のあり方を自ら模索できるのではないかと感じています。
新たに動物を飼う前には、対象となる動物の生態や飼育法を学ぶことは必須です。イメージだけで何の知識もなく迎え入れることは、その動物を間違った方法で飼育したり、命に関わる事態を引き起こしてしまったりする可能性があります。
なかでも「多頭飼育崩壊」は長期間にわたって動物を劣悪な環境に置き、状態によっては命を危険にさらすことになります。また、飼い主の生活や健康をむしばみ、末路は家庭崩壊にもつながります。まして、「動物愛護管理法違反(遺棄)」は犯罪であり、即動物の命に関わる問題です。どちらの場合も、飼い主と動物の双方がつらい思いをするだけで、本来得られるはずの癒やしや幸せはありません。
しかし、学ぶことでそれらを回避することは可能です。また、学ぶことで飼わないという選択肢も見えてくることでしょう。
動物との暮らしは、私たちの日常に幸せと彩りを与えてくれます。同時に、その動物が健康で快適に暮らせるようにとその幸せを補完し、最後まで飼い続ける責任があります。
飼い主の責任には「動物がその命を終えるまで責任を持って飼育する」「動物の病気や感染症についての正しい知識を学び予防に努める」「他人への迷惑を未然に防ぐ」「むやみに繁殖をさせない」「盗難や迷子を防ぐため所有者を明らかにする」などがあります。動物を飼った以上は、「こんなはずじゃなかった」は通用しないのです。
コロナ禍では生活の変化から動物を飼う人が増えました。同時に、安易に飼育放棄をする人も増えています。知識がないままに飼うことで、動物をつらい目に遭わせている人もいます。飼う前に学ぶことがいかに重要であるか、私たちはそれをしっかり理解する必要があるでしょう。
(阪根 美果 : ペットジャーナリスト)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。