「大麻グミ」2粒食べて体調不良に 30代女性「二度と食べない」

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「心臓が爆発するかと思った」。大麻に似た成分を含むグミを食べたという30代女性が取材に応じ、突然の体調悪化に焦りを感じたと証言した。「大麻グミ」の成分は12月2日から規制対象になったが、一見して危険な薬物に見えない商品はグミだけでなく、クッキーやチョコレートといったかたちでも流通している。専門家は「薬物を菓子に含ませることで摂取への抵抗が少なくなる」と警鐘を鳴らす。
【写真】「大麻グミ」見た目はどんなの? 福岡県に住む女性が問題のグミを食べたのは、2023年の夏のことだ。居酒屋で知人男性から「新しい『大麻グミ』が流通しているから、やる?」と誘われ、グミ2粒が入った透明の小袋を渡された。その場で1粒食べたが効果を感じられず、十数分後に2粒目を食べた。そのまま飲食を続けていると、1時間ほどたったあたりで心臓がバクバクし始め、寒気を感じ、脂汗も出てきた。急いで帰宅し、水をがぶ飲みしたが、症状は翌日の午前1時まで約3時間続いた。 女性が食べたグミは、大麻の成分に似せた合成化合物「HHCH」(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)が検出されている商品と色や形が同じだったという。女性は「軽いノリで試したけど、二度と同じ思いはしたくない。もう食べない」と語った。 HHCHは、大麻由来の違法成分で幻覚や意識障害を引き起こす「THC」(テトラヒドロカンナビノール)と構造が似ている。THCは大麻取締法で所持などが禁止されるが、化学構造が似た成分まで一律に規制されるわけではなく、HHCHはこれまでは合法だった。 事態が動いたのは、東京や大阪でグミを食べた人が体調不良を訴え、救急搬送されるケースが相次いでいると報道された後だ。厚生労働省の麻薬取締部は11月、グミの製造会社(大阪市)や販売店を相次いで立ち入り検査。一部でグミからHHCHが検出された。厚労省は、健康被害をもたらす恐れがあるとして、HHCHを医薬品医療機器法に基づく「指定薬物」にした。12月2日から所持や使用、流通が禁止されている。 厚労省などによると、THCと似た合成化合物をチョコやクッキー、グミに含ませた商品は数年前からインターネット上を中心に販売されるようになった。記者がある通販サイトを確認したところ、HHCHを含むクッキー(7枚入り)が6600円で売られていた。国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部の嶋根卓也室長は、大麻類似成分を含む菓子を食べた場合、大麻を直接吸引するよりも効果が出るのに時間がかかるとし、「効果が感じられないと追加で食べてしまう。お菓子なので摂取への抵抗も少ない。結果として過剰摂取で急性中毒となるケースがあるのではないか」と話している。【木島諒子、岩本一希、土田暁彦】「いたちごっこ」に鳥取県が包括規制 大麻に似た成分を含む商品を巡っては、厚生労働省がその都度、成分を特定したうえで指定薬物に追加している。一方、成分の化学構造をわずかに変えて規制を逃れる手口が繰り返されており、「いたちごっこ」の状態が続いている。 厚労省は2022年3月に「HHC」(ヘキサヒドロカンナビノール)、23年8月に「THCH」(テトラヒドロカンナビヘキソール)とTHCに似た合成化合物を相次いで指定薬物に追加している。その網をすり抜けたのが「大麻グミ」に含まれていたHHCHだった。今後も、規制対象外の成分で「合法」と称する商品が販売される可能性がある。 こうしたなか、包括的な規制をしている自治体もある。鳥取県は14年から、興奮や幻覚作用など健康被害をもたらす恐れのあるものを「危険薬物」と定義して条例で規制。成分を特定せず、県の判断で製造や購入、使用などを禁止できるようにした。中止命令に従わなければ2年以下の懲役または100万円以下の罰金などが科される。 まだ適用例はないが、県の担当者は「国が規制した成分の構造を少し変えた商品を出すというのは、鳥取では通用しない」と話す。 武見敬三厚労相は11月の閣議後の記者会見で「今後もHHCHに類似する化合物の出現が予想されるため、包括的な指定についても検討を進めたい」と話しており、国も類似化合物をまとめて禁止する措置の導入を視野に入れている。【木島諒子】
福岡県に住む女性が問題のグミを食べたのは、2023年の夏のことだ。居酒屋で知人男性から「新しい『大麻グミ』が流通しているから、やる?」と誘われ、グミ2粒が入った透明の小袋を渡された。その場で1粒食べたが効果を感じられず、十数分後に2粒目を食べた。そのまま飲食を続けていると、1時間ほどたったあたりで心臓がバクバクし始め、寒気を感じ、脂汗も出てきた。急いで帰宅し、水をがぶ飲みしたが、症状は翌日の午前1時まで約3時間続いた。
女性が食べたグミは、大麻の成分に似せた合成化合物「HHCH」(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)が検出されている商品と色や形が同じだったという。女性は「軽いノリで試したけど、二度と同じ思いはしたくない。もう食べない」と語った。
HHCHは、大麻由来の違法成分で幻覚や意識障害を引き起こす「THC」(テトラヒドロカンナビノール)と構造が似ている。THCは大麻取締法で所持などが禁止されるが、化学構造が似た成分まで一律に規制されるわけではなく、HHCHはこれまでは合法だった。
事態が動いたのは、東京や大阪でグミを食べた人が体調不良を訴え、救急搬送されるケースが相次いでいると報道された後だ。厚生労働省の麻薬取締部は11月、グミの製造会社(大阪市)や販売店を相次いで立ち入り検査。一部でグミからHHCHが検出された。厚労省は、健康被害をもたらす恐れがあるとして、HHCHを医薬品医療機器法に基づく「指定薬物」にした。12月2日から所持や使用、流通が禁止されている。
厚労省などによると、THCと似た合成化合物をチョコやクッキー、グミに含ませた商品は数年前からインターネット上を中心に販売されるようになった。記者がある通販サイトを確認したところ、HHCHを含むクッキー(7枚入り)が6600円で売られていた。国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部の嶋根卓也室長は、大麻類似成分を含む菓子を食べた場合、大麻を直接吸引するよりも効果が出るのに時間がかかるとし、「効果が感じられないと追加で食べてしまう。お菓子なので摂取への抵抗も少ない。結果として過剰摂取で急性中毒となるケースがあるのではないか」と話している。【木島諒子、岩本一希、土田暁彦】
「いたちごっこ」に鳥取県が包括規制
大麻に似た成分を含む商品を巡っては、厚生労働省がその都度、成分を特定したうえで指定薬物に追加している。一方、成分の化学構造をわずかに変えて規制を逃れる手口が繰り返されており、「いたちごっこ」の状態が続いている。
厚労省は2022年3月に「HHC」(ヘキサヒドロカンナビノール)、23年8月に「THCH」(テトラヒドロカンナビヘキソール)とTHCに似た合成化合物を相次いで指定薬物に追加している。その網をすり抜けたのが「大麻グミ」に含まれていたHHCHだった。今後も、規制対象外の成分で「合法」と称する商品が販売される可能性がある。
こうしたなか、包括的な規制をしている自治体もある。鳥取県は14年から、興奮や幻覚作用など健康被害をもたらす恐れのあるものを「危険薬物」と定義して条例で規制。成分を特定せず、県の判断で製造や購入、使用などを禁止できるようにした。中止命令に従わなければ2年以下の懲役または100万円以下の罰金などが科される。
まだ適用例はないが、県の担当者は「国が規制した成分の構造を少し変えた商品を出すというのは、鳥取では通用しない」と話す。
武見敬三厚労相は11月の閣議後の記者会見で「今後もHHCHに類似する化合物の出現が予想されるため、包括的な指定についても検討を進めたい」と話しており、国も類似化合物をまとめて禁止する措置の導入を視野に入れている。【木島諒子】

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