《ツケは私と担当との『愛の絆』なんです》歌舞伎町ホストクラブ「売り掛け問題」ホス狂いたちが「ツケを支持」するヤバい現実

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ドラマ化もされた大ヒット漫画『明日、私は誰かのカノジョ』(をのひなお・著)を皮切りに『地雷忍者るるの失恋』(西瓜士・著)などホストクラブやホス狂いをテーマにした人気作が続々と誕生し、ROLAND(ローランド)のようにお茶の間の人気者となるホストも誕生──ホストムーブメントが巻き起こるなか、“聖地”といわれる東京・歌舞伎町では、恐喝事件に殺傷沙汰、果ては飛び降りによる自殺未遂まで、連日あらゆるトラブルが起きている。とりわけここ最近大きな問題となっているのは、「売り掛け」問題だ。
【写真】悪質ホスト対策を政府の担当者に要請する立憲民主党の長妻昭政調会長、塩村あやか議員らなど 歌舞伎町の住人を取材した『ホス狂い~歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る~』の著書があるノンフィクションライターの宇都宮直子氏が“ホス狂い”当人たちに売り掛けをめぐる問題について単刀直入に聞いた。* * * 売り掛けとは、現金やクレジットカードなどでその日に料金が支払えない客が「ツケ」にすること。 特に缶チューハイ1本が2000円もする非常に単価の高いホストクラブにおいて、売り掛けは珍しいことではなく、私が取材してきた中でも100万から200万円程度の「カケ」をしているホス狂い女性はザラにいた。 しかし11月14日、売り掛けをめぐる諍いが元となって客の女性に暴行を加えたホストが逮捕される事件が起きたことにより、テレビや新聞などで「“ホスト沼”にハマる女性の実態」などと売り掛けシステムに苦しむ女性の実態が取り上げられるようになった。 SNSでも「ホストクラブへの規制」や「売掛け制度の撤廃」が声高に叫ばれ、11月17日には新宿区長がホストクラブの売り掛け金を自主規制するように呼びかけ、ついには国会でも議論される事態に発展。実際にローランドは「一連の報道を重く受け止めた」として運営するホストクラブ全店で「売り掛け禁止」に踏み切ることを宣言した。 膨大な借金に苦しむ女性たちを救うべく、自治体や国まで動き始めた形になるが、当人たちに話を聞いてみると「私たちにとって、売り掛けは必要なんです」と思いもよらない、しかし切実な答えが返ってきた。 自身も3桁超えの売り掛けをした経験のあるユーチューバー「ホス狂いあおい」さん(26才)は当時を振り返り、ひとりの「ホス狂い女子」としての心境を、こう語る。「カケを返すために風俗で働くことを強制された子がいるなどトラブルや事件が起こっていることはその通りですが、それは個々のケースであり、すべてのカケが悪と断定するのは違うと思っていて。売り掛けって、悪い面ばかりとは思いません。 例えば私の場合は、応援するホストのために店に行くのが生きがいだったし、カケがあると、その分『働いて返さなきゃ』という労働へのモチベーションにもなっていました。 あとは物理的に、毎日ホストクラブに通うようになると当然手持ちのお金がない日もあるけれど、売り掛けがなくなればそういう日はホストに会えなくなる。これはホス狂いにとってはかなりつらいことです。 そもそも、ホストクラブは高額だとわかっているものですし、そこでカケを作ってでも遊ぶというのは『ステイタス』。そう思ってせっせとお金を稼ぐ女の子たちと、その子たちのためにより魅力的であろうとするホストたちにより、歌舞伎町は輝いているのではないでしょうか……」 借金がモチベーションになる──にわかには信じがたい話だが、実際、筆者は彼女たちへの取材を進める中で「カケに命を救われた」とすら話すホス狂いに出会ったことがある。 20代前半である有名店のホストへの思いを「人生最後の本当の恋」と表現し、全身全霊で支えるべく時間もお金もすべてつぎ込んでいた彼女は私に「売り掛けがある限り、店を“出禁”になっていても、担当(※指名するホストのこと)との縁は切れることはない。カケは私と担当との『愛の絆』なんです」と語った。 聞けば、彼女は売り掛けを返すために、担当とスケジュールを共有し、支払い日を逆算して「一日いくら」と稼ぐ額を決めているという。「店へのカケは、いまや『自殺しないための理由』ですらあるんです」 何不自由のない家庭に育ったが、歌舞伎町に足を踏み入れるまで生きがいを見いだせなかったと話す彼女はそう言って目を輝かせたが、ホストクラブへの借金しか生きる意味を見出せない彼女の境遇には、もっと大きな根本的な問題があるのではないのだろうか。私は二の句が継げなかった。「売り掛けを返すために働きまくった結果、“自分の伸びしろ”がわかった」と振り返る元ホス狂いもいる。 30代前半のキミコさん(仮名)は5年ほど前、当時勤めていたキャバクラの同僚と行った歌舞伎町のホストクラブで同店のナンバーワンホストに“お互い一目惚れ”をし、交際を開始。彼を系列グループのナンバーワンに押し上げるために自ら「売り掛け」を希望して稼ぎまくったという。「とにかくふたりでトップに登り詰めたいと思って無我夢中でした。クラブのほかにパパ活やAV出演とあらゆる手段を駆使して、ほとんど休みなく働きました。その結果得られたのは“自分って、ここまでできるんだ”という自己肯定感でした。 結局、稼げるようになったことで新しい世界が開けて、肝心の担当ホストが小さい男に見えてしまって破局しましたが、売り掛けという“負荷”がなかったらあそこまでは頑張れなかったと思ってしまうのは事実です(苦笑)」 もちろん、ホストクラブに通うすべての客がこのような極端な意見を持っているわけではないだろう。しかし「歌舞伎町」という“現場”では「売り掛け」を必要とする声が少なからず上がっていることは確かだ。 SNSのハンドルネーム「あおりんご」さんは、40代半ば。愛する担当のためにホストクラブに“連勤”しながらも、昼間は料理人として働く。彼女は社会人としての視点を交えながら、こう話す。「そもそも売り掛け制度はホストに限らず大衆的な飲食店でも広く用いられていますよね。私は商業科出身ですし、料理人でもありますが、そういった立場から考えても売り掛けそのものに大きな問題がある訳ではないと思っています。 ただ、ホストクラブは飲食代としては金額が高額であるし、女性は男性に比べて価値を感じたものに体を張ってまでお金を落とし込もうという意志が強く、また実際に稼げてしまう。一連の騒動は女性の見栄と購買意欲がどんどんエスカレートしていった結果だと思うので、何らかの歯止めは必要だと思います。しかし、それは水商売での売り上げの金額を、適切で限度のある価格帯にするようにすれば良いだけのことでは? 当事者たちの声を置き去りにして、現場を知らない人たちに国会などで、『ホストクラブの規制』や『売り掛けの撤廃』を決定されるというのは、私たちとしても『少し違うんじゃないか』と思うんですよ」 前出の「ホス狂いあおい」さんも「制度そのものというよりは、最終的には個人の付き合い方の問題」と語る。「ホストクラブやカケという制度が悪いというわけではなく、あくまでもお客とお店、カケとの『本人の付き合い方』が問題なのだと思います。私は売り掛けは『クレジットカード』と同じだと思います。クレカは分割払いもできるし、要は、後払いということ。カケをするときは『青伝』(※売り掛けの金額が書かれた青い伝票)と〇月〇日までに支払いをすると記した誓約書に親族の住所も書いたうえでサインをするのですが、それをするのは自分ですし、最近よく聞く『泥酔して判断力がなくなっている状態でサインさせられた』という女の子たちの言い分にしても、そこまで飲んだのは自分じゃないか、とも思う。店や制度にすべての責任を押し付けるのは私はどうかと思います」 お金だけでなく、親族の個人情報まで自ら望んで“担当”に提供しようとする彼女たちを前にして、私は言葉を返せなかった。 * * * 宇都宮氏の取材からは、売り掛けが、女性客にとってホストと自分をつなぐ“絆”だという一面が垣間見える。だが、それこそがホストクラブ側の逃げ口上であり、悪魔的ビジネスを成立させるスキームなのではないか。いずれにせよ、売り掛けシステムを望む女性客が一定数いる以上、根が深い問題だといえる。 歌舞伎町は「清濁併せ呑む街」だが、強すぎる「濁り」は許してはいけない。
歌舞伎町の住人を取材した『ホス狂い~歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る~』の著書があるノンフィクションライターの宇都宮直子氏が“ホス狂い”当人たちに売り掛けをめぐる問題について単刀直入に聞いた。
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売り掛けとは、現金やクレジットカードなどでその日に料金が支払えない客が「ツケ」にすること。
特に缶チューハイ1本が2000円もする非常に単価の高いホストクラブにおいて、売り掛けは珍しいことではなく、私が取材してきた中でも100万から200万円程度の「カケ」をしているホス狂い女性はザラにいた。
しかし11月14日、売り掛けをめぐる諍いが元となって客の女性に暴行を加えたホストが逮捕される事件が起きたことにより、テレビや新聞などで「“ホスト沼”にハマる女性の実態」などと売り掛けシステムに苦しむ女性の実態が取り上げられるようになった。
SNSでも「ホストクラブへの規制」や「売掛け制度の撤廃」が声高に叫ばれ、11月17日には新宿区長がホストクラブの売り掛け金を自主規制するように呼びかけ、ついには国会でも議論される事態に発展。実際にローランドは「一連の報道を重く受け止めた」として運営するホストクラブ全店で「売り掛け禁止」に踏み切ることを宣言した。 膨大な借金に苦しむ女性たちを救うべく、自治体や国まで動き始めた形になるが、当人たちに話を聞いてみると「私たちにとって、売り掛けは必要なんです」と思いもよらない、しかし切実な答えが返ってきた。
自身も3桁超えの売り掛けをした経験のあるユーチューバー「ホス狂いあおい」さん(26才)は当時を振り返り、ひとりの「ホス狂い女子」としての心境を、こう語る。
「カケを返すために風俗で働くことを強制された子がいるなどトラブルや事件が起こっていることはその通りですが、それは個々のケースであり、すべてのカケが悪と断定するのは違うと思っていて。売り掛けって、悪い面ばかりとは思いません。
例えば私の場合は、応援するホストのために店に行くのが生きがいだったし、カケがあると、その分『働いて返さなきゃ』という労働へのモチベーションにもなっていました。
あとは物理的に、毎日ホストクラブに通うようになると当然手持ちのお金がない日もあるけれど、売り掛けがなくなればそういう日はホストに会えなくなる。これはホス狂いにとってはかなりつらいことです。
そもそも、ホストクラブは高額だとわかっているものですし、そこでカケを作ってでも遊ぶというのは『ステイタス』。そう思ってせっせとお金を稼ぐ女の子たちと、その子たちのためにより魅力的であろうとするホストたちにより、歌舞伎町は輝いているのではないでしょうか……」
借金がモチベーションになる──にわかには信じがたい話だが、実際、筆者は彼女たちへの取材を進める中で「カケに命を救われた」とすら話すホス狂いに出会ったことがある。
20代前半である有名店のホストへの思いを「人生最後の本当の恋」と表現し、全身全霊で支えるべく時間もお金もすべてつぎ込んでいた彼女は私に「売り掛けがある限り、店を“出禁”になっていても、担当(※指名するホストのこと)との縁は切れることはない。カケは私と担当との『愛の絆』なんです」と語った。
聞けば、彼女は売り掛けを返すために、担当とスケジュールを共有し、支払い日を逆算して「一日いくら」と稼ぐ額を決めているという。
「店へのカケは、いまや『自殺しないための理由』ですらあるんです」
何不自由のない家庭に育ったが、歌舞伎町に足を踏み入れるまで生きがいを見いだせなかったと話す彼女はそう言って目を輝かせたが、ホストクラブへの借金しか生きる意味を見出せない彼女の境遇には、もっと大きな根本的な問題があるのではないのだろうか。私は二の句が継げなかった。
「売り掛けを返すために働きまくった結果、“自分の伸びしろ”がわかった」と振り返る元ホス狂いもいる。
30代前半のキミコさん(仮名)は5年ほど前、当時勤めていたキャバクラの同僚と行った歌舞伎町のホストクラブで同店のナンバーワンホストに“お互い一目惚れ”をし、交際を開始。彼を系列グループのナンバーワンに押し上げるために自ら「売り掛け」を希望して稼ぎまくったという。
「とにかくふたりでトップに登り詰めたいと思って無我夢中でした。クラブのほかにパパ活やAV出演とあらゆる手段を駆使して、ほとんど休みなく働きました。その結果得られたのは“自分って、ここまでできるんだ”という自己肯定感でした。
結局、稼げるようになったことで新しい世界が開けて、肝心の担当ホストが小さい男に見えてしまって破局しましたが、売り掛けという“負荷”がなかったらあそこまでは頑張れなかったと思ってしまうのは事実です(苦笑)」
もちろん、ホストクラブに通うすべての客がこのような極端な意見を持っているわけではないだろう。しかし「歌舞伎町」という“現場”では「売り掛け」を必要とする声が少なからず上がっていることは確かだ。
SNSのハンドルネーム「あおりんご」さんは、40代半ば。愛する担当のためにホストクラブに“連勤”しながらも、昼間は料理人として働く。彼女は社会人としての視点を交えながら、こう話す。
「そもそも売り掛け制度はホストに限らず大衆的な飲食店でも広く用いられていますよね。私は商業科出身ですし、料理人でもありますが、そういった立場から考えても売り掛けそのものに大きな問題がある訳ではないと思っています。
ただ、ホストクラブは飲食代としては金額が高額であるし、女性は男性に比べて価値を感じたものに体を張ってまでお金を落とし込もうという意志が強く、また実際に稼げてしまう。一連の騒動は女性の見栄と購買意欲がどんどんエスカレートしていった結果だと思うので、何らかの歯止めは必要だと思います。しかし、それは水商売での売り上げの金額を、適切で限度のある価格帯にするようにすれば良いだけのことでは?
当事者たちの声を置き去りにして、現場を知らない人たちに国会などで、『ホストクラブの規制』や『売り掛けの撤廃』を決定されるというのは、私たちとしても『少し違うんじゃないか』と思うんですよ」
前出の「ホス狂いあおい」さんも「制度そのものというよりは、最終的には個人の付き合い方の問題」と語る。
「ホストクラブやカケという制度が悪いというわけではなく、あくまでもお客とお店、カケとの『本人の付き合い方』が問題なのだと思います。私は売り掛けは『クレジットカード』と同じだと思います。クレカは分割払いもできるし、要は、後払いということ。カケをするときは『青伝』(※売り掛けの金額が書かれた青い伝票)と〇月〇日までに支払いをすると記した誓約書に親族の住所も書いたうえでサインをするのですが、それをするのは自分ですし、最近よく聞く『泥酔して判断力がなくなっている状態でサインさせられた』という女の子たちの言い分にしても、そこまで飲んだのは自分じゃないか、とも思う。店や制度にすべての責任を押し付けるのは私はどうかと思います」
お金だけでなく、親族の個人情報まで自ら望んで“担当”に提供しようとする彼女たちを前にして、私は言葉を返せなかった。
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宇都宮氏の取材からは、売り掛けが、女性客にとってホストと自分をつなぐ“絆”だという一面が垣間見える。だが、それこそがホストクラブ側の逃げ口上であり、悪魔的ビジネスを成立させるスキームなのではないか。いずれにせよ、売り掛けシステムを望む女性客が一定数いる以上、根が深い問題だといえる。
歌舞伎町は「清濁併せ呑む街」だが、強すぎる「濁り」は許してはいけない。

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