「指定暴力団トップ」VS「おばあちゃん5人」のガチンコ裁判 “虎の子”老後資金を奪った巧妙詐欺事件で「使用者責任」は問えるか

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高齢女性5人が指定暴力団・住吉会トップらを相手に起こした「前代未聞の裁判」が大詰めを迎えている。詐欺によって“虎の子”の老後資金を奪われたものの泣き寝入りせず、果敢にも暴力団トップの責任を追及。その注目の控訴審判決が迫っているのだ。
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【写真を見る】詐欺グループが「鉄板ツール」と呼ぶ、高齢者を騙す“甘いエサ”とは… 70~80代の女性5人が「住吉会」の福田晴瞭・元会長や加藤英幸・幸平一家総長らを相手に約7000万円の損害賠償を求めて提訴したのは2021年5月。この間の経緯を全国紙司法記者が解説する。

「原告はいずれも18年後半に特殊詐欺の被害に遭った高齢女性5人です。福田元会長や加藤総長のほか、被告には住吉会の構成員で、原告女性らを騙した詐欺グループのリーダーとされるAという人物も含まれます。今年4月に東京地裁は原告側の訴えを認め、福田元会長ら側に約6350万円の賠償を命じる判決を言い渡しますが、被告側が控訴。控訴審の第1回口頭弁論が11月に開かれ、年明けの次回で結審する予定です」決着の行方は… Aはすでに詐欺罪で逮捕・起訴され、19年12月に実刑判決が確定。当時の報道によると、Aが関わったグループは15年以降、全国で200人以上の被害者から総額12億円以上を騙し取った「大規模な詐欺集団」だったとされる。 驚くのは、Aのグループが原告女性らを騙した手口だ。「イケる」と踏んだ相手からはとことん搾り尽くす、巧妙で組織化された“実態”が裁判資料には記されていた。「後悔と絶望に苛まれ…」 原告5人の被害額にバラつきはあるものの、最高で3000万円以上を騙し取られた女性もいる一方で、詐取にいたる手口には共通点も多かった。「典型的な“劇場型サギ”の手法が用いられ、最初の登場人物は〈商社の人間〉を名乗る男。その男が電話口で実在する大手介護施設運営会社Xの名前を挙げて『(同グループの)老人ホームへの入居』を勧めてくる。その際、『今回の入居権の購入に関しては他言しないよう』に言い添えるのですが、後日、そのXの関係者を名乗る人物から電話があり、問われるままに会話。その後、狙いすましたかのように再び〈商社の人間〉から連絡が入り、『老人ホームの件を喋りましたね。守秘義務違反行為に当たる』と責められた後、『問題を解決するためには供託金を払わなければならない』などと迫るパターンが踏襲されていた」(同) 一度、カネを詐取することに成功すると、その後も「追加で供託金の支払い」を求められ、原告のなかには「払わなければ犯罪行為の共犯者として、自宅にマスコミが押しかけ、息子にも連絡が行くことになる」と脅された挙げ句、200~500万円の金額を計9回にわたって振り込んだ女性もいる。 訴状には、原告らが“騙された”とわかって以降の心境について、こう記されている。〈自分が詐欺に気づけなかったせいで大切なお金を失ってしまったとの後悔と絶望に苛まれ(中略)筆舌に尽くし難い苦痛を味わい続けることを余儀なくされている〉――。提訴に踏み切った理由 いまなお特殊詐欺の被害に遭う高齢者は後を絶たないが、勇気を振り絞って背後に控える暴力団トップの責任まで問うケースは異例だ。提訴に踏み切った経緯について、原告側の代理人弁護士の一人がこう話す。「老後の生活のためにと蓄えていた大切なお金を理不尽な形で騙し取られたことへの悔しさに加え、“これ以上、同じような被害者を出してほしくない”との思いを皆が強く持っていました。また警察による(訴訟当事者への)保護対策の整備が進んでいた状況なども背中を後押しした」 また提訴の直前に当たる21年3月、最高裁が住吉会系組員による特殊詐欺事件をめぐり、被害女性が訴えたトップの「使用者責任」を認める1、2審判決を支持(上告棄却)したことも影響したという。特殊詐欺事件において組トップの使用者責任が最高裁で確定したのは、このケースが初めてだった。 今回の裁判でも、Aが関与した特殊詐欺が「暴力団の威力を利用した資金獲得行為」に当たり、暴対法31条の2に基づく「代表者への使用者責任」が問われたが、一審判決では前述のとおり、福田元会長らに賠償責任があると認めた。住吉会側の弁護士は… 住吉会側が「判決は不服」として控訴したのは今年5月。控訴理由書のなかで、一審判決で「Aが住吉会の構成員」であると認定した点につき、その根拠が「(一緒に逮捕された)共犯者の供述」などしか示されておらず、Aを暴力団員と認定したこと自体に誤りがあると主張。Aが構成員でなければ当然、「使用者責任」も及ばなくなる。 見解を聞くため、福田元会長らの代理人弁護士に取材を申し込んだが、「(取材や質問に対する)お答えは難しい」 と事務所を通じて回答。 原告側の代理人弁護士は今回の訴訟の意義をこう話す。「原告5人のうち4人の詐欺事件では“受け子”の起訴のみにとどまり、刑事での責任追及が貫徹したとは言い難かった。それでも民事では使用者責任を認め、原告全員を“救済”する一審判決となった点は画期的です。特殊詐欺の被害に遭われた方々が今後、民事で暴力団トップなどの責任を問う上で、今回の裁判が新たな道筋を付けるものになることを願っています」 控訴審の判決を待たずとも、おばあさんたちの“勇気”には脱帽するしかない。デイリー新潮編集部
70~80代の女性5人が「住吉会」の福田晴瞭・元会長や加藤英幸・幸平一家総長らを相手に約7000万円の損害賠償を求めて提訴したのは2021年5月。この間の経緯を全国紙司法記者が解説する。
「原告はいずれも18年後半に特殊詐欺の被害に遭った高齢女性5人です。福田元会長や加藤総長のほか、被告には住吉会の構成員で、原告女性らを騙した詐欺グループのリーダーとされるAという人物も含まれます。今年4月に東京地裁は原告側の訴えを認め、福田元会長ら側に約6350万円の賠償を命じる判決を言い渡しますが、被告側が控訴。控訴審の第1回口頭弁論が11月に開かれ、年明けの次回で結審する予定です」
Aはすでに詐欺罪で逮捕・起訴され、19年12月に実刑判決が確定。当時の報道によると、Aが関わったグループは15年以降、全国で200人以上の被害者から総額12億円以上を騙し取った「大規模な詐欺集団」だったとされる。
驚くのは、Aのグループが原告女性らを騙した手口だ。「イケる」と踏んだ相手からはとことん搾り尽くす、巧妙で組織化された“実態”が裁判資料には記されていた。
原告5人の被害額にバラつきはあるものの、最高で3000万円以上を騙し取られた女性もいる一方で、詐取にいたる手口には共通点も多かった。
「典型的な“劇場型サギ”の手法が用いられ、最初の登場人物は〈商社の人間〉を名乗る男。その男が電話口で実在する大手介護施設運営会社Xの名前を挙げて『(同グループの)老人ホームへの入居』を勧めてくる。その際、『今回の入居権の購入に関しては他言しないよう』に言い添えるのですが、後日、そのXの関係者を名乗る人物から電話があり、問われるままに会話。その後、狙いすましたかのように再び〈商社の人間〉から連絡が入り、『老人ホームの件を喋りましたね。守秘義務違反行為に当たる』と責められた後、『問題を解決するためには供託金を払わなければならない』などと迫るパターンが踏襲されていた」(同)
一度、カネを詐取することに成功すると、その後も「追加で供託金の支払い」を求められ、原告のなかには「払わなければ犯罪行為の共犯者として、自宅にマスコミが押しかけ、息子にも連絡が行くことになる」と脅された挙げ句、200~500万円の金額を計9回にわたって振り込んだ女性もいる。
訴状には、原告らが“騙された”とわかって以降の心境について、こう記されている。〈自分が詐欺に気づけなかったせいで大切なお金を失ってしまったとの後悔と絶望に苛まれ(中略)筆舌に尽くし難い苦痛を味わい続けることを余儀なくされている〉――。
いまなお特殊詐欺の被害に遭う高齢者は後を絶たないが、勇気を振り絞って背後に控える暴力団トップの責任まで問うケースは異例だ。提訴に踏み切った経緯について、原告側の代理人弁護士の一人がこう話す。
「老後の生活のためにと蓄えていた大切なお金を理不尽な形で騙し取られたことへの悔しさに加え、“これ以上、同じような被害者を出してほしくない”との思いを皆が強く持っていました。また警察による(訴訟当事者への)保護対策の整備が進んでいた状況なども背中を後押しした」
また提訴の直前に当たる21年3月、最高裁が住吉会系組員による特殊詐欺事件をめぐり、被害女性が訴えたトップの「使用者責任」を認める1、2審判決を支持(上告棄却)したことも影響したという。特殊詐欺事件において組トップの使用者責任が最高裁で確定したのは、このケースが初めてだった。
今回の裁判でも、Aが関与した特殊詐欺が「暴力団の威力を利用した資金獲得行為」に当たり、暴対法31条の2に基づく「代表者への使用者責任」が問われたが、一審判決では前述のとおり、福田元会長らに賠償責任があると認めた。
住吉会側が「判決は不服」として控訴したのは今年5月。控訴理由書のなかで、一審判決で「Aが住吉会の構成員」であると認定した点につき、その根拠が「(一緒に逮捕された)共犯者の供述」などしか示されておらず、Aを暴力団員と認定したこと自体に誤りがあると主張。Aが構成員でなければ当然、「使用者責任」も及ばなくなる。
見解を聞くため、福田元会長らの代理人弁護士に取材を申し込んだが、
「(取材や質問に対する)お答えは難しい」
と事務所を通じて回答。
原告側の代理人弁護士は今回の訴訟の意義をこう話す。
「原告5人のうち4人の詐欺事件では“受け子”の起訴のみにとどまり、刑事での責任追及が貫徹したとは言い難かった。それでも民事では使用者責任を認め、原告全員を“救済”する一審判決となった点は画期的です。特殊詐欺の被害に遭われた方々が今後、民事で暴力団トップなどの責任を問う上で、今回の裁判が新たな道筋を付けるものになることを願っています」
控訴審の判決を待たずとも、おばあさんたちの“勇気”には脱帽するしかない。
デイリー新潮編集部

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