愛情のない60代の夫に、せめてもの仕返し…余命宣告された50代パート主婦が、遺言書に書いたこと【相続のプロが解説】

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余命宣告を受けたある女性は、思いやりのない夫に苛立ちと怒り、そしてあきらめを感じていました。そして、遺言書のなかに、自分の思いを書き綴ることを決意します。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。
今回の相談者は、50代のパート従業員の川上さんです。川上さんは深刻な病気を抱えており、近い将来訪れる、自身の相続について悩んでいました。
川上さんの家族構成は、60代の会社員の夫と30代会社員の長女の3人です。長女は大学卒業後、実家を出ています。川上さんと夫は関係が冷え切っており、いまは言葉を交わすことすらほとんどないといいます。
川上さんは40代になってからがんを患い、パート勤めの傍ら、入院と手術を繰り返してきました。しかし夫は、そんな川上さんを心配するそぶりもなく、入院前の説明の同席も拒否するなど、サポートする姿勢を見せませんでした。そのため、川上さんは入院準備や退院まで、これまですべてひとりきりでやってきたのです。
「私ががんの宣告を受けたことを話しても、夫は〈また面倒なことになって…〉とうっとうしそうにつぶやいただけで、一切心配する態度を見せませんでした。会社の管理職ですし、それなりに忙しいのでしょうが、手術の説明の同席を断られたときは、あんまりだと思いました。とはいえ、遠い勤務先でひとり頑張っている娘に負担をかけるわけにはいきませんから…」
「最初の入院は急に決まりました。そのため、医療保険の請求が間に合わなかったのです。夫に入院費の支払のことを告げると、〈自分のヘソクリがあるだろう。役に立ってよかったな〉と…。本当に腹立たしかったです」
川上さんは、たびたびつらく当たる夫に対し、許せない気持ちがあるといいます。
「夫がなぜこんな態度を取るのか、私には心当たりはありません。家族のためを思って、家事に子育てに、手を尽くしてきたのですが…」
川上さんは現在の自分の体調から、残された時間は長くないと感じていますが、自分がいなくなったあと、自分の財産を夫の好きにさせたくないと考えています。
川上さんの財産は、父親から相続した預貯金約1,000万円と、実家そばの住宅地にある、3台停めたらいっぱいになる、ごく小さな貸駐車場です。ここはもともと母親の所有地だったところです。
思い入れある土地は、必ず娘に継いでほしい川上さんは余命宣告を受けて以降、財産の分配について考えています。いくら関係の悪い配偶者とはいえ、一切の財産を渡さないというのは無理があります。しかし、思い出の詰まった母親の所有地だった駐車場は、必ず娘に託したいと考えています。「娘が相続したら、そのあとはどうしようといいのですよ。お小遣い程度ですが、毎月の収入になりますし、いらなければ売ってもいいのです。でも、夫に好き勝手されるのは絶対に許せないんです。わかってもらえますか、この気持ち」心のうちを整理する意味でも、遺言書を通じて気持ちを書き残したいという川上さんに、筆者は公正証書遺言で想いを残すことをアドバイスしました。公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が遺言者の口述を聞いて遺言書を作成するため、書式の不備などで無効になるリスクがもっとも低いものです。保管も確実で偽造される心配がなく、裁判所の検認も必要ないので、手間や時間も短縮できます。ただし「公正証書遺言」の場合、2人以上の証人が立ち会うことが必要になります。証人とは、遺言書の内容に間違いがないことを証明できる人のことです。今回は、筆者の会社スタッフが証人となり、作成に立ち会いました。一緒に打ち合わせを重ねてきたスタッフが証人となったことで、川上さんは公証役場でも緊張することなく、スムーズに遺言書を作成することができました。「これで娘に気持ちが伝わると思います」川上さんは、穏やかな笑顔を見せてくれました。※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。曽根 惠子株式会社夢相続代表取締役公認不動産コンサルティングマスター相続対策専門士◆相続対策専門士とは?◆公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
川上さんは余命宣告を受けて以降、財産の分配について考えています。いくら関係の悪い配偶者とはいえ、一切の財産を渡さないというのは無理があります。しかし、思い出の詰まった母親の所有地だった駐車場は、必ず娘に託したいと考えています。
「娘が相続したら、そのあとはどうしようといいのですよ。お小遣い程度ですが、毎月の収入になりますし、いらなければ売ってもいいのです。でも、夫に好き勝手されるのは絶対に許せないんです。わかってもらえますか、この気持ち」
心のうちを整理する意味でも、遺言書を通じて気持ちを書き残したいという川上さんに、筆者は公正証書遺言で想いを残すことをアドバイスしました。
公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が遺言者の口述を聞いて遺言書を作成するため、書式の不備などで無効になるリスクがもっとも低いものです。保管も確実で偽造される心配がなく、裁判所の検認も必要ないので、手間や時間も短縮できます。
ただし「公正証書遺言」の場合、2人以上の証人が立ち会うことが必要になります。証人とは、遺言書の内容に間違いがないことを証明できる人のことです。今回は、筆者の会社スタッフが証人となり、作成に立ち会いました。
一緒に打ち合わせを重ねてきたスタッフが証人となったことで、川上さんは公証役場でも緊張することなく、スムーズに遺言書を作成することができました。
「これで娘に気持ちが伝わると思います」
川上さんは、穏やかな笑顔を見せてくれました。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子株式会社夢相続代表取締役公認不動産コンサルティングマスター相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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