機密持ち出し…かっぱ寿司・剛腕社長「恩ある古巣」を裏切ったワケ

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自宅から姿を現した男性に、敏腕社長の面影はなかった。集まった報道陣へむかい、うつろな表情で一礼。捜査員の運転する車に、重い足どりで乗りこんだ――。
9月30日、警視庁生活経済課は回転寿司チェーン「かっぱ寿司」を運営する「カッパ・クリエイト」社長の田辺公己容疑者(46)を逮捕した。ライバル「はま寿司」から、営業上の機密データを不正に持ち出した疑いが持たれている。理解に苦しむのが、田辺容疑者がかつて「はま寿司」の取締役だったこと。経済ジャーナリストの松崎隆司氏が語る。
「田辺さんが、東海大学から『はま寿司』の親会社『ゼンショー(現ゼンショーホールディングス)』に入社したのは98年4月です。昇進を重ね09年4月には、30代前半で経営企画室のゼネラルマネージャーに就任。その後『はま寿司』の取締役や、グループ企業のファミリーレストラン『ジョリーパスタ』の社長などを歴任しました。
若くしてグループ企業のトップに置くなど、『ゼンショー』が田辺さんへ相当目をかけ、大きな期待を寄せていたのがわかるでしょう。身内から将来を嘱望される若手が育つのは、外食チェーンでは珍しいことです。人気業界ではないため優秀な人材がなかなか集まらず、外部から招へいするのが一般的ですから」
田辺容疑者が犯行に手を染めたと思われるのは、「かっぱ寿司」に移籍した20年11月の直前だ。同年9月に「はま寿司」で管理されていた仕入れ価格や取引先の情報を不正に取得。「かっぱ寿司」に移ってから、同社幹部と情報を共有したという。ライバル企業への「手土産」として、古巣の機密データを提供した疑いがあるのだ。松崎氏が続ける。
「回転寿司チェーンの先駆けである『かっぱ寿司』は、00年代までは一人勝ちの状態で業界トップを走っていました。しかし『はま寿司』や『スシロー』など新規企業が続々と参入すると、新鮮味が徐々に失われていきます。ライバルとの差別化をはかる新機軸を打ち出せず、11年に『スシロー』に首位を譲る。『はま寿司』や『くら寿司』にも抜かれ、最近は4位に沈んでいました。
移籍した田辺さんには、スグに結果を出さなければという焦りがあったでしょう。原価率が4割にのぼる回転寿司チェーンにとって、原材料の価格や仕入れ先の情報は最重要の機密情報です。価格を比較して、ライバルより良い条件でビジネスを展開することができますから」
田辺容疑者には企画力や積極性に定評がある一方、社内外からの反発も少なくなかったという。
「かなり剛腕な経営者でした。自分の思い通りにビジネスを進めるためなら、ルール違反だとわかっていても強引に物事を決定。周囲が閉口することもたびたびでした。若くして会社から大きな期待をかけられ、プライドが高まり傲慢になっていたのかもしれません。
田辺さんは年収5000万円ほどもらい、『はま寿司』で厚遇を受けていたといわれます。今回の事件は、育ててくれた恩ある古巣への裏切りです。ライバルに寝返ったうえ、機密情報まで持ち出したんですからね」(「はま寿司」関係者)
前出・松崎氏が話す。
「企業の大幹部が、ライバル企業へ移籍するなど通常は考えられません。田辺さんは仕入れデータだけでなく、『はま寿司』のさまざまな重要情報を知っていたでしょうから。米国なら『辞めても5年はライバル企業へ移らない』などと誓約書を書かされるのが一般的です。田辺さんの行動は、ビジネスのモラルから完全に逸脱した背信行為といえます」
田辺容疑者は、己の能力を過信し許されざる不正行為に走ってしまったようだ。

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